現行R35GT-Rが登場したのは2007年12月。GT-Rプロトタイプが発表された2005年9月の東京モーターショーだった。その当時のベストカー2005年12月10日号では歴代GT-R特集が誌面を飾っていた。ここでは2度にわたって生産が中止されたスカイラインGT-Rについて、元日産社員が考察した記事をお届けしよう。
文:元日産社員・神田良幸/写真:ベストカー、日産
※本企画は2005年12月10日号を再掲載したものです
■ケンメリGT-Rはたった197台しか生産されなかったのはなぜ?
197台しか生産されなかったKPGC110型GT-R、195台が販売用、2台が試作車と作られ一般には197台の生産とされている。通称ケンメリGT-R。その少ない数がゆえに希少価値も高く、もし、僕が所有していたら、間違いなく家の中に飾って見せびらかしただろう。
それにしてもなぜ197台なのか、それ以降16年という長きにわたってGT-Rが市販されなかったのはなぜなのか。不思議である。
まず、197台の理由を推測する。この台数で生産中止というのはもともと多くを作る気はなかったとしか思えない。チューニングカーと同じ世界だ。クルマは何万点という部品で構成されていて、メーカーは生産前に部品会社に発注するのだが、100台単位で依頼することはない。
そんな量では部品会社はたまったものではない。クルマの部品は大量に作ってこそ初めてなんとか利益が出る。197台で生産中止にできたのは、その分ぐらいの部品しか頼んでいなかったからできたことだ。
一説にはS20型エンジンがもうその台数分しかなかったというが、その可能性は充分にある。エンジンの数にあわせて他の部品も作りGT-Rに仕上げたということだ。
責任者の櫻井眞一郎氏はKPGC110型のひとつのバージョンとして、遊び心として市販したような気がしてならない。スタイリングまでリニューアルするやり方は、今では考えられないことだが、当時は、そんなこともできたのだろう。櫻井氏の個性、熱意があったからこそ実現したに違いない。
1973年1月にKPGC110型スカイラインGT-Rが発売されたが、その頃、次のGT-Rのプランは櫻井氏の頭の中では固まっていたはずだ。しかし、その年の秋に第一次オイルショックが起こった。
紙がなくなるという噂で、トイレットペーパーを買い出しに主婦が殺到したのを今でも記憶している。この年までは戦後の高度経済成長に日本は浮かれていたのだから、このオイルショックは日本にとって本当に大きな出来事だった。
その後のGT-Rに影響があったのは当然だ。この第一次オイルショックからまだ立ち直っていない1978年には第二次オイルショックが起こる。その数年前からは排ガス規制が厳しくなり、高性能車から普通のクルマまでメーカーは規制対応に全精力を注ぐことになった。
日産においてもGT-Rを復活させようなんて雰囲気はほとんどなかった。それにGT-Rにふさわしい新たな技術もなかったと言える。「今はGT-Rの時ではない。そのうち時が熟す」。その時の流れは結局、16年にも及んでしまうことになるのである。
■2度目に消えたのは2002年8月29日、R34GT-R
2度目に消えたのは2002年8月29日。R34GT-Rが生産中止となり、いわゆる第2世代が終了した。ただ、僕は2度目は死とは思っていない。人間でいえば充電期間だ。2007年に市販することを日産は宣言しているし、R34型生産中止からはたったの5年だ。第1世代から第2世代への期間を考えれば、死とは言えないだろう。
ただ、死ぬ直前だったことは確かだ。日産が経営悪化に陥り、開発予算枯渇に喘いでいた前年後半には次のGT-Rは単なる夢でしかなかった。GT-Rで日産復活を願う気持ちは誰しもが持っていたが、GT-Rを作る前に、ほかのクルマで稼いで資金を貯めるのが先決だった。
その資金はC・ゴーン体制になり、予想もつかないほど早い時期に投入できることになった。GT-Rは日産の技術力の象徴だから、安易な気持ち、スペックで投入することはできない。
歴代の開発責任者の苦労話を何度も耳にしたことがあるが、開発過程で何度も眠れない日々が続くという。少しでも中途半端なものを出せば、モータージャーナリストが叩く。それ以上に責任者にとって厳しいのは熱烈なファンから痛烈な意見をぶつけられることだ。
GT-Rにとって継続して販売することより、これこそGT-Rだと皆から認められることのほうが重要なのだ。7年には過去の歴史を背負いながらも、新しい歴史を作り出す本気印のGT-R登場を望む(編集部註:それから2年後の2007年12月に市販型R35GT-Rが発表)。
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