2024年も後半戦。前半には注目の新型車登場や、自動車メーカーの不正など、さまざまなニュースがあった。この先のキーとなる自動車界の事象は何か? ここでは、さかんに研究開発が進められている「合成燃料」について探ってみる。

※本稿は2024年6月のものです
文:高根英幸/写真:トヨタ、レクサス、ホンダ、日産、スズキ、三菱、メルセデスベンツ、AdobeStock ほか
初出:『ベストカー』2024年7月26日号

■内燃機関生き残りの道!? 合成燃料は普及するのか?

CNFの販売価格は現在、1キログラム当たり4000円から1万円程度と高額だ(beeboys@AdobeStock)

 エンジン愛好家にとって、CNF(合成燃料)の登場は、救世主のように見えるだろう。このCNFの問題点は、ハッキリ言えばコストだ。

 合成燃料を作るには、二酸化炭素という超安定した物質から炭素を取り出し、これまた超安定した水を電気分解して作り出した水素とを合成させて炭化水素を作り、さまざまな分子構造の炭化水素をデザインして組み合わせる必要がある。

 その工程は、当然ながら作られる合成燃料以上のエネルギーを必要とする。これは物理の法則から逃れられない(現時点では)。

 アナリストや研究機関は近い将来、合成燃料の価格低下が進む予測を立てているが、これはいささか希望的観測が過ぎる。確かに大型プラントで大量生産すれば、今より価格は下げられる。しかし工程が同じなら、コストダウンも限られる。

現在、国内モータースポーツがCNFの実用化に向けた技術開発の場となっている

 現在のCNFの価格は、ガソリンや軽油とは比べ物にならないほど高い。モータースポーツなど限られた分野であれば、話題性や先行投資として利用する価値はある。

 だが現在より大幅に安価にならなければ、エンジン車での移動やドライブを楽しむことが超贅沢な行為となってしまう。そうなると庶民は利用できないから、スケールメリットは生まれない。結果としてCNFはモータースポーツや富裕層のお遊び用のまま、街では流通しないエネルギーと化してしまう可能性もある。

 そうならないためには、冒頭の素材の分離や合成の工程で、画期的な技術が開発されることが必要だ。

 つまり現時点でCNFは生産可能な燃料ではあるが、とても楽観視できないほど普及する可能性は低い。

 「燃料価格が今の10倍になっても買うよ」と言い切れる人しか使わないだろうというのが、現時点での筆者の見通しだ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。