最近、自動車雑誌やジャーナリストの原稿を見ていると、ダメなところを指摘することが少なく、誉められ過ぎのクルマばかりなことに気づいた。やっぱり忖度なしの解説が一番。そういえば、昔、そんな企画やったなあと過去のベストカーのバックナンバーを掘り起こしたのが2006年1月26日号に掲載された「誉められすぎのクルマたち」。誉め言葉はもう飽きた、ということで、ベストカー本誌の3人が毒舌を吐く本企画をリバイバル掲載!

※本企画はベストカー2006年1月26日号に掲載されたものを抜粋し再掲載したものです

まとめ文:ベストカーWeb編集部、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部

■誉められすぎのクルマって飽きた! ベストカー本誌3人による座談会

ベストカー2006年1月26日号

 最近、誉められすぎのクルマが目立ってきたのをベストカー本誌の飯干、市原、小野の3人が感じて、申し合わせたわけでもないのに同じ企画書を編集長に出していた。ということから始まった本企画、どんなことをダメ出しするのか?

飯干:とにかく最近誉めすぎのクルマが多いよね。いいのはわかるけど、そんな完全無欠みたいなことが世の中にあるのか? 誉め言葉はもう聞き飽きた。

市原:メーカーからお金もらってるって思われちゃうよね。

小野:誉めるのはいいんだけど悪いところもちゃんと指摘しないと。

市原:特に気になるクルマはありますか?

小野:最近、BMW3シリーズ(5代目E90型)やVWゴルフ(5代目)を誉めまくっていません? 

期待値が高かったためか、実際に乗ると普通のクルマじゃないかと思ったという2代目スイフト

飯干:俺は登場以来、誉められまくっているスイフト(2代目)に乗った時、思ったんだよ「これ、そんなに褒められるクルマ? 別に普通じゃない!」ってね。

市原:そうなんですか。

飯干:いや、街中をちょこっと乗っただけだけど。乗る前にもの凄い期待が膨らんじゃったのがあるのかも。その割には、期待外れだったのかね。

市原:読者にも多いかもしれませんよ、そういう人。誉められすぎるのもよし悪し。

飯干:草野球出身の選手が150km/hのタマを投げたらすげー驚くけど、ドラフト1位の新人だとそんなに驚かない。そんなもんでしょ。

市原:俺はレクサスの評判がやたらいいのが気に入らん! だって、値段が高けりゃいいのは当たり前じゃない。

前後重量配分50対50のFRセダン、BMW3シリーズ。この3シリーズの壁を越えることは至難の業といわれた

小野:外車だって3シリーズ(5代目E90型)やVWゴルフ(5代目)は誉められるばかりで隠された欠点を教えてくれる人がぜんぜんいない。

飯干:プリウス(2代目)!

小野:なんすか、いきなり。

飯干:いやプリウスほど愛され、誉めまくっているクルマってないじゃない。それこそプリウスを批判するヤツが批判されるってくらいの勢いで。

小野:ええ、まあ。

飯干:だってあのクルマ、乗っていて楽しい?

市原:ぜんぜん。

飯干:俺のRX-8のほうが100倍楽しいよ!

市原:俺のオメガワゴンのほうが1000倍気持ちいいですよ! だいたい勉強もできて性格もいいってなんなんだ! あのキャラが気に入らない!

4代目レガシィツーリングワゴン。現在はレヴォーグが受け継ぐ

飯干:そんなヤツは信用できないよな! レガシィ(4代目)もその口だ。いいね、いいね、だいぶ暖まってきたじゃない。

小野:そこのVWゴルフ(5代目)、太り過ぎ!

飯干:デカすぎなんだよ。

寺崎(飛び入り参加):俺のデミオのほうが1万倍いいクルマ!

飯干:もう誉め言葉は聞き飽きた!

寺崎:たまには俺も誉めてくれ~!

 さて、多くの評論家が高く評価するクルマの、重箱の隅を突いていきましょう!

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■愛されすぎたクルマたちの重箱の隅をつついてみる!

もはや高評価ばかりでお手上げ状態の2代目プリウス

 愛されすぎたクルマたち。確かにすべてがいいクルマであることは認めるが、欠点がまったくないわけはない。大木こだま・ひびき流に言えば「そんなクルマないやろ〜」だ。

 そこで、ここでは愛されすぎているクルマの悪口をいってくれる人を募集。まずは7人の自動車評論家に評価を聞き、そこから悪口を言ってくれそうな人を探し出す。そこにふさわしい人材がいなさそうな場合はほかから探す。

 それでも厳しい場合は「悪口言ってください」と頼み込む。つまり、最近ホメられっばなしのクルマたちの足を、なんとしてでも引っ張りたいのだ。頑張ります! トンガリまくった鼻っ柱を折ってやります!毒舌評論家さま、カモン!

■マツダロードスター(3代目NC型)各評論家の評価

2005年8月に発売された3代目NC型ロードスター。2005~2006年COTY受賞


鈴木直也:よいですね
国沢光宏:よいですね
斎藤聡:すばらしい!
島崎七生人:すばらしい!
渡辺陽一郎:すばらしい!
小沢コージ:すばらしい!
河口まなぶ:すばらしい!

 評論家のみなさん、高い評価ばかりのロードスター。いきなり試練、これはほかから探すしかない。というわけで、この人が話してくれました。

●軽くカツを入れたい(桂 伸一)

 NCロードスターはハンドリングがイマイチなんだよねぇ。リアの限界が低く、滑り出しも唐突なんですよ。特にウェット路面に弱い。

 先代モデルは「こう操作したらクルマはこう動く」という挙動のパターンがあつたんだけど、現行モデルは読み切れないんだよね。予想に反した動きをすることがあるんですよ。

 実はこれ、開発陣もわかっていて、現状では煮詰めきれていない部分があることを認識してるんです。まぁ、スタイル最優先派の僕としては、ロードスターはカッコいいから高く評価してはいるんだけど、ハンドリングに関しては軽くカツを入れたいところだね。

■スズキスイフト(2代目)の各評論家の評価

2004年11月に発売した2代目スイフト。欧州仕込みの走りで人気となった


鈴木直也:すばらしい!
国沢光宏:よいですね
斎藤聡:すばらしい!
島崎七生人:よいですね!
渡辺陽一郎:よいですね!
小沢コージ:よいですね!
河口まなぶ:すばらしい!

 スイフトもまた、高い評価が並んでしまった。予想できたこととはいえ、これほどとは。誰か悪口言う人、いませんか?

●使い勝手の工夫に欠ける(川島茂夫)

 スイフトの走りがいいのは認める。すばらしいと言っていい。でも、ユーティリティが保守的で遅れてるよね。いまこのクラスの国産車はキャビンユーティリティに関してはすごく進んでいるでしよう。

 それに比べて欧州車は古く、細かな使い勝手はぜんぜん進歩してないんですよ。スイフトは走りだけじゃなく、そんなことまで欧州車のレベルに合わせてしまってるんです。

 同じスズキが作る軽自動車は便利な工夫がいっぱいなのに、スイフトはなんでこんなに普通なのと思いますね。でも、それを補ってあまりあるほどの走りの実力と魅力を持っているから、僕も高く評価してるんだけどね。

■レクサスIS(初代)の各評論家の評価

2005年9月、レクサスブランド日本開業とともに発売されたIS


鈴木直也:よいですね
国沢光宏:イマイチだな
斎藤聡:普通かな
島崎七生人:よいですね
渡辺陽一郎:普通かな
小沢コージ:すばらしい
河口まなぶ:普通かな

 初代レクサスISは、7人の自動車評論家の評価が高低入り混じっている。少なくとも全員が「すばらしい」や「よいです」で占められることはない。なかでも国沢光宏さんは「イマイチ」との低評価。そのワケは?

●コストパフォーマンスが低い(国沢光宏)

 BMW3シリーズのほうがはるかにいいクルマなのに同等の価格帯にあるというのはコストパフォーマンスがよくないよね。

 もちろん人それぞれに価値観が違うから、ISがいいという意見があってもいいんだけど、僕は欲しくないし人にも薦めない。

 だって、ISを買うつもりなら3シリーズが買えるんだから。これは大きいよ。ISは、同価格なら3シリーズよりもでかい排気量でパワーもあるのが買えるとしても、そこに価値は見いだせないね。ISはダメなクルマじゃないよ。でも、高級車としてはまだもの足りないんだよ。 

■2代目プリウスの各評論家の評価は?

先代の「THS」を発展させたハイブリッドシステム「THS II」は、1.5LのDOHCエンジンと50Kwモーターの組み合わせで出力を向上させながら、燃費は35.5km/L(10・15モード)


鈴木直也:すばらしい!
国沢光宏:すばらしい!
斎藤聡:よいですね
島崎七生人:すばらしい!
渡辺陽一郎:よいですね
小沢コージ:すばらしい!
河口まなぶ:普通かな

 最大の難敵と思われたプリウスだったが、ひとり普通かなと評価した人がいた。その理由はいかに?

●燃費のために我慢している(河口まなぶ)

 プリウスの存在意義や考え方には大いに賛同する。未来の自動車のあるべき姿だといえる。でも、そこにスイフトスポーツやロードスターに抱くような想いはない、というのが本音だ。

 この先自動車はプリウスのように低燃費であるべき。そこはすべてのクルマが見習うべき。いっぽうで、僕は走りが楽しく気持ちよくなければ自動車としての存在意義がないと思う。

 その視点でみれば、プリウスはあくまでも″普通″。かなりいいと噂のマイナーチェンジ版に乗ってないが、それでもスイフトスポーツみたいな楽しさや気持ちよさはないだろう。

 ならばプリウスはまだ低燃費のために我慢している部分があると言わざるを得ない。だから高い評価はできない。

■レガシィ(4代目BL/BP型)の各評論家の評価は?

2003年5月登場。全幅が3ナンバー化された4代目レガシィツーリングワゴン。2LターボのEJ系エンジンを積んだGTのほか、3Lの6気筒NAエンジンを搭載した3.0Rを設定。2代目プリウスを抑えて2003~2004年COTY受賞


鈴木直也:よいですね
国沢光宏:すばらしい!
斎藤聡:すばらしい!
島崎七生人:すばらしい!
渡辺陽一郎:よいですね
小沢コージ:よいですね
河口まなぶ:よいですね

 相変わらずレガシイの評価の高さはすごい。誉められっばなしとはこのことだ。これはほかから悪口を言ってくれる人を探さねば。

●アベンシスのほうがいい(川島茂夫)

 レガシイはツーリングカーであることを主張するわりにワインディングをひらりひらりと走れるマニアックなクルマに仕上がっているよね。

 向きを変えてアクセルをドンと踏めるのは4WDならではの魅力だけど、ツーリングカーなら、それよりも高速走行でのすわりのよさというか安定感をもっと表現してはしいよね。

 ツーリングカーにはオタッキーな乗り味はいらないんですよ。高速道路を突っ走るならレガシイよりもアベンシスのほうがいいかもしれないよ。

 あとは燃費だね。昔よりよくなったのは認めるけど、ほかはもっとよくなっているから。相対的にみるとまだまだ改善の余地ありでしょう。 

■VWゴルフ(5代目)の各評論家の評価

2004年5月に登場したゴルフV


鈴木直也:イマイチだなあ
国沢光宏:よいですね
斎藤聡:すばらしい!
島崎七生人:すばらしい!
渡辺陽一郎:よいですね
小沢コージ:よいですね
河口まなぶ:すばらしい!

 ホメまくり評価が続くなか、ただひとり「イマイチ」とした鈴木直也さん。悪口ひとつ、お願いします!

●こんなに高級でなくても(鈴木直也)

 VWゴルフは、乗るとかなりいいクルマであることは確かです。割高だけど、ゴルフほどクオリティの高い2BOXは日本にはありません。クルママニア的にはいいクルマですよね。

 でも、FF2BOXは元来経済車であって、なにもこんなに高級にしなくてもいいんじゃないのと思うんですよ。実際、ドイツではコストをかけてクォリティを上げて、その結果価格も上がってしまって、発売直後はオペルのアストラあたりに相当やられてるんですよね。

 それって、市場から「過剰なクオリテイは必要ない」という評価を突きつけられたということでしょう。クルマがいいからといって、それだけで高く評価するわけにはいかないですよ。市場あっての生産車なんだから。

■BMWミニ(初代)の各評論家の評価

2002年3月2日に日本上陸した初代BMWミニ


鈴木直也:普通かな
国沢光宏:よいですね
斎藤聡:普通かな
島崎七生人:すばらしい!
渡辺陽一郎:イマイチだなあ
小沢コージ:すばらしい!
河口まなぶ:すばらしい!

 唯一「イマイチ」の評価とした渡辺陽一郎さん、お願いします!

●パッケージングに無理がある(渡辺陽一郎)

 BMWが作ったミニは、1959年に登場した初代モデルの外観をモチーフにしている。そもそもこのデザインは1959年の段階で登場したからこそ、高い評価を得られた。フォルクスワーゲンのニュービートルもそうだが、現時点で最良のパッケージングとは言い難い。

 クラシックミニを乗るとその広さに驚く。運転席は身長180cm以上の人でもちゃんと座れる。でもBMWミニはそんなことはない。ボディサイズもミニと呼べないほど大きい。また、横滑り防止装置のDSCがクーパーSにだけ装着される点も疑間が残る。

■BMW3シリーズ(5代目E90型)の各評論家の評価

2005年5月に発売されたE90型5代目3シリーズ


鈴木直也:嫌いかも?
国沢光宏:よいですね
斎藤聡:よいですね
島崎七生人:よいですね
渡辺陽一郎:普通かな
小沢コージ:よいですね
河口まなぶ:すばらしい!

 BMW3シリーズ(E90型)に対し「嫌いかも?」という最低評価を与えた人がいた! どんな悪口?

●幻想を売りつけている(鈴木直也)

 値段が高すぎる。日本はBMWのプランド価値を過大に評価しすぎていると思いますよ。ハード面では、新しいバルブトロニックのストレート6は期待外れだったし、このエンジンならレクサスISの3.5Lのほうがずっといいと思いますね。

 それに内装のクオリティも低い。それなのにこの値段でしょう。BMWは日本人に幻想を売りつけているのではないかと思うくらいです。もっと冷静になったほうがいいですよ。

 ただし、唯一ハンドリングと乗り心地のバランスのよさだけは認めます。この点に関しては追従できる日本車は今のところありませんね。

■愛されすぎるクルマってどんなクルマが多いのか?

 そもそも愛されすぎてしまうクルマにはどんなものが多いのか、まずはその研究をしてみたいと思う。自動車評論家の鈴木直也氏によると「メーカーが儲からないクルマ、作ったことで赤字になっちゃうようなクルマは愛されやすい」という。

 儲からないクルマには2通りあって、ひとつは「コストを度外視して作られたクルマ」。これは高級外車に多いパターンだが、日本車でいえばレガシィなどはそのひとつの例で、クラスを超えたコストのかけ方がマニア心を揺さぶるとか。

 そして、もうひとつ、「売れるつもりだったのにコケたクルマ」も偏愛の対象になりやすい。その典型例はインサイト。特にインサイトは凝ったメカニズムを搭載しているだけに、よリマニアの偏愛を受けやすい。

 「名車と呼ばれるクルマには、メーカーに利益をもたらさなかったクルマが多い」は鈴木直也氏の持論。また「予想外にいいクルマ」も愛されやすい条件のひとつ。

ホンダの大ヒット車といえば初代オデッセイ

 古いところでは初代オデッセイ、新しいところではスイフトなどはその典型例。気にもかけていなかったクルマが予想の範疇を超えてよければ、受ける側の印象に強く残るのは当然。メガネを取ったら意外と美人だった、上着を脱いだら意外と着やせするタイプだったなど、自分の身の回りの体験に置き換えればすぐにわかることである。

 同じく印象に残りやすいという意味で「旧型よりも飛躍的によくなったクルマ」も愛一されやすい。スイフトしかり、少し前ではデミオやマーチ、さらに古くはロゴからフィットヘの進化もこの例に当たる。

ロゴからその後継車、初代フィットに変わった時衝撃だった

 また、基本的に、走りのいいクルマを溺愛する傾向が強い自動車評論家業界では「レーシングカーのような市販車」は愛されやすい。ランエボ、インプレッサ、そして、ホンダのタイプRなど。

インプレッサWRX STI2005

 一般のクルマ好きにとっても(買う買わないかは別として)、その手のクルマはやはり好きな人が多いだけに、今後もこの傾向は続いていくと思われる。ただし、近年そういうクルマが減っているのは気になるポイントだ。

 最後にこんなクルマは誉められるよねっていう、法則を書いてみました。

・最新技術を徹底的に投入したクルマ
・ヨーロッパ車のような走りのクルマ
・予想外に走りがよかったクルマ
・無駄にコストをかけて作ったクルマ
・旧型よりも飛躍的によくなったクルマ
・レーシングカーのような市販車のクルマ
・とことんベーシックなヨーロッパ車
・何かにチャレンジしたクルマ
・技術バカが作った売れないクルマ

※         ※         ※         ※

 いかがだったでしょうか? 今でこそ、重箱の隅を突くような、いわゆる忖度なしの評価は当たり前になってきましたがいまだに誉め過ぎの人もいらっしゃいますよね。いいことも悪いこともメーカーの顔色なんか気にせずに自由に原稿を書いて欲しいものです。

 では2024年9月現在、誉められすぎのクルマって何でしょう? みなさんはどう思いますか?

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