最近はどちらかと言えば、都市間高速バスを数多く走らせているイメージが強いJR四国バス。とはいえ一般道だけを走る普通の路線バスがゼロなわけでもない。
文・写真:中山修一
(JR四国バス大栃線の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください。なお権利の都合により写真の一部を加工しています)
■もはや絶滅危惧種に……
その昔、JRの前身である国鉄だった時代。1985年まで高速道路が開通しなかった四国には、国鉄が運行する一般路線バスが、鉄道の通らないエリアの輸送をカバーするため、様々な場所に路線網を広げていた。
その後、あちこちにあった国鉄がルーツのバス路線も次第に姿を消していき、2024年7月現在、JR四国バスが運行しているのは愛媛県の「久万高原線」と高知県を走る「大栃線」の2路線しかない。
今や四国では極めて珍しい存在と言える、JRの一般路線バスのうち今回注目するのは高知県の「大栃(おおとち)線」。JR高知駅から8駅目の土佐山田駅と、およそ11km離れた美良布(びらふ)を結ぶ短い路線だ。
■四国で3番目に古い路線
大栃線は元々、土佐山田駅から分岐して蕨野までを結ぶ、鉄道線の「蕨野線」を作る計画があり、線路の着工から完成までの間、輸送のつなぎ的な役割を持って運行を始めたと言われる。
開業は1935年1月。バスが新設された当初から「蕨野線」ではなく「大栃線」を名乗っている。現在の終点よりも更に奥、土佐山田から27km先の大栃まで行っていたことが路線名の由来だ。
全国の国鉄バス(当時の省営自動車)全体の中で27番目、四国で3番目にできたバス路線であり、結局鉄道が着工されなかったため、90年近い歴史を持つに至った。そんな深みのある路線が国鉄・JR系列のまま運行を続けているのも大変貴重な要素に思える。
一頃は土佐山田を経由して高知まで直通していた時期もあったが、土讃線の列車本数の拡充やバス利用者の減少などもあり、区間が部分廃止されて今日の土佐山田駅〜美良布間に落ち着いたらしい。ちなみに美良布から先は、香美市営バスがJRバスの代替交通になっている。
■今も大切な“あの”役割が!?
大栃線のバスは日中1〜2時間に1本といったペースで、上下それぞれ1日13本ほど出ている。土佐山田〜美良布間を直接行き来できる他の公共交通機関がタクシーしかないため、地域輸送に不可欠な存在でもある。
大栃線はそれ以外にも、経路の途中にある大学への通学利用に加え、終点の美良布バス停の徒歩圏内に位置している、頭の中にアンコが詰まったあのキャラクターを筆頭とする有名な児童書とその著者がテーマの美術館へのアクセス役と、更に2つほど特別な役割を持っている。
特に後者は同地の“目玉”でもあり、バスも同作品のキャラクター達(アニメ仕様)が車体いっぱいに表現されたラッピング車が専任で走る。地色が何種類かあり、どの色が来るかはその時のお楽しみ。
■ユニークな車両とバス停設備
2024年7月現在のところ、大栃線には前述のラッピングを施した、中型路線車の日野レインボーIIが使われている。2013年に新しく導入された車両で、ちょっと変わっているのが行先表示器。
2010年代に入ると、最初からLED方式の表示器が付いていても至って普通。ところが大栃線のレインボーIIが搭載しているのは、昔ながらの巻き取り式アナログ方向幕で、バスがやってきた時についつい二度見してしまった。
幕の付いているクルマとしては、かなり後のほうに作られた車両と思われるが、いずれにせよ今や滅多にお目にかかれない福眼の1台になりそう。
土佐山田駅から大栃線に乗っていくと、終点の美良布まで約22分、運賃は550円だ。終点でバス趣味的に見逃せないのが停留所とそのバス施設全体。
元々は国鉄が鉄道と同じ扱いで設置したバス路線=自動車線だったのもあり、自動車駅と呼ばれていた時代のプラットホームと駅舎が、ほぼそのままの姿形で現役続行中だ。
戦前に開業して以降、国鉄→JRと受け継がれ、四国に2路線しかないJR一般路線バスのうちの一つであり、車両の設備もなかなかユニーク……
……観光色強め(温泉もあるよ)で、文化遺産的価値の高い施設がバス停として使われている、などなど、短い距離ながらも大栃線には見どころが満載だ。
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