いすゞの中型トラック「フォワード」には、大型クラスに該当するモデル『FVZ』『FVR』があります。さる7月23日、このフォワードFVZ/FVRがフルモデルチェンジし、威風堂々たるスタイリングと同社栃木工場で生産するカミンズ設計のエンジンを新たに採用しました。時期は少し前ですが、本誌では新型フォワードFVZ実車の取材そして試乗を敢行しました。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部

フォワードの「FVZ」「FVR」ってどんなトラック?

新型フォワードFVZ。シャシーとエンジンを一新し、大型車らしい重厚なスタイリングを採用した。写真は開発業務で用いられている量産試作車で、バンパーのフォグランプ周りのデザインなど一部市販車と異なるところがある

 日本国内でみるフォワードの大半は俗にいう『4トン車』、車両総重量(GVW)8トンのモデルで、いすゞの車型呼称は「FRR」(総輪駆動車は「FRS」)といいます。その上に中型免許の上限となるGVW11トンモデルの「FSR」(同「FSS」)があり、さらに大型免許が必要なGVW14.5トンモデルの「FTR」が2023年8月末以降、順次投入されています。
 
 FVZ/FVRは、これらよりさらにGVWが大きく、FVZはGVW20トンおよび22トンのモデル、FVRはGVW16トンのモデルです。また、FVRは前1軸・後1軸の4×2駆動車ですが、FVZは前1軸・後2軸かつ後2軸がドライブアクスルの6×4駆動車で、横から見るとタイヤが3つ並ぶため、大型トラックらしさを感じやすいと思います。

 リアルな大型トラックの「ギガ」にもGVW20トン・6×4駆動モデル(CXZ)があるのですが、FVZはシャシー重量が軽いので積載量を増やすことができ、車両運搬車、重機運搬車、平坦地のみで運行するダンプやミキサー車といた特装車のベースシャシーとして使われる例が多いです。

 また、FVRは積載量8トンクラスの土砂ダンプ、清掃ダンプや、脱着ボディ車(フックローダー)、コンクリートポンプ車、ミキサー車、路面清掃車など、こちらも特装車のベースシャシーとして使われています。

 国内市場だとFRRに比べて少数派のFVZ/FVRではあるものの、海外市場ではむしろ主力になっているモデルで、ギガ(C&Eシリーズ)とともにいすゞ大型トラックのラインナップを構成(FVZ/FVRに加えてGVW25~40トンクラスに及ぶFX系やFY系まである)しています。そのため新型では、より競争力を高めるためシャシーを新規開発しており、実はかなり力の入ったフルモデルチェンジとなっています。いすゞにとってはグローバル戦略を担う重要なニューモデルだといえるでしょう。

新型フォワードFVZの運転席。他のフォワードと基本的に共通。試乗車は最も充実した先進ドライバー支援システムを搭載するプレミアムパッケージ装着車で、電動アシスト機構付き油圧パワステを備える

重厚なデザインに新設計シャシーそしてカミンズ直6エンジン

最高出力300PS・最大トルク119kgmのDB6A-TCCエンジン。カミンズB6.7をベースに開発されたエンジンで、いすゞ栃木工場で生産する。動力性能は先代の6NX1-TCC・7.8リッターとほぼ同等で、ピークトルク領域はむしろ広がった

 さて、本誌が取材・試乗したのはGVW20トン・6×4モデルのフォワードFVZの新型です。

 実車は、直感的に「カッコいい!」と感じさせる魅力があります。FRRワイドキャブと同じキャビンを大型用シャシーにマウントしてワイドフェンダーを追加し、ボリュームのあるフロントバンパーにヘッドライトを組み込む……という成り立ちそのものは、シンプルなグラフィクスの先代FVZも同じだったりするのですが、新型は現行フォワードの精悍な顔つきに重厚感が加わって、ギガと同じクラスのクルマを見ているような印象です。

 新型シャシーは、ラダーフレームの組幅こそ変わらないものの、大型トラックなみの天地サイズを持つオープン断面サイドレールを導入したのが特徴です。これは高荷重に対して有利な形状で、特に海外での商品力を高めるために採用したものです。

 国内向けでも、高荷重に対応した新型シャシーは特装車ニーズに向いており、先代同等の積載量が確保できるよう最適化を図りながら採用しています。前後アクスルも新たに開発されました。

 新エンジン「DB6A」は、米・カミンズ社の「B6.7」エンジンをベースとする6690㏄直列6気筒OHV気筒あたり4弁のインタークーラー付ターボエンジンで、頑丈な鋳鉄製シリンダーブロックをもちながら、先代の7.8リッター直6に対して大幅な軽量化を達成しています。動力性能は、DB6A-TCC型が最高出力300PS/1950rpm・最大トルク119㎏m(1081Nm)/1100rpmでほぼ変わらないのですが、ピークトルク領域が広くなっており、より扱いやすくなりました。DB6A-TCN型という最高出力260PS/2100rpm・最大トルク90㎏m(883Nm)/1100rpmの仕様もあります。こちらはFVRにも搭載されるエンジンです。

 エンジン軽量化に伴って、シャシーの重量配分も変化したため、前軸の位置が185㎜前進しており、フロントオーバーハングが短いプロポーションともなりました。

GVW20トンという国内向けフォワードの最上位車型だけあって、キャビンフロアの位置は高くステップは3段に。フロントオーバーハングが短くなった新型は、ステップ幅がやや狭くなった

小排気量とは思えない走りっぷり!

フル積載でGVW20トン状態のフォワードFVZに乗る。さすがに余りあるトルクではないが、DB6Aエンジンは「6.7リッター」というイメージからくる先入観を軽く覆す強心臓だった

 FVZの試乗車は、300PSエンジンと9速AMT・スムーサーGxを搭載したホイールベース5560mm(Q尺)、前輪255/70R19.5・後輪245/70R19.5という前後異径タイヤを履いたシャシーでした。上モノは平ボディ架装で最大積載量は12400kg。この積載スペックはギガCXZでは得られません。

 試乗時はフル積載のGVW20トン状態、さすがに「あり余るトルク感」はありませんが、9速スムーサーFxの回転制限機能付きエコノモード(省燃費モード)での転がりだしは鈍さを感じさせるものではなく、アクセルを踏み込んだ際の加速にも重苦しさがありません。平地ではエンジン回転数の上昇を抑えつつも、排気量を意識させない走りっぷりでした。それをもたらしたのは、DB6Aでは高筒内圧燃焼で動力性能を引き出す(=燃費性能にもつながる)……という燃焼設計を採用しているからです。

 また、AMTは小排気量エンジンを走らせやすくするデバイスでもありますが、新型FVZの9速スムーサーFx(FRR~FTRのスムーサーFxとは異なりギガのスムーサーGxと同様のクラッチ断接メカニズムを備える)は、その制御が洗練されていて、煩わしさを感じさせないのも良いところです。

 いっぽう手動変速モードを試してみると、停止状態からレッドゾーン手前の2400rpm近くまで回しても歩みは鈍く、シフトアップしても速度があまり伸びないなど、同じトランスミッション?同じギア比?と疑いたくなるほど対称的な表情をみせました。手動変速モードは低いギア比で確実にクルマを引っ張りたいときに活用するモードといえます。

 新開発シャシーは、GVW20トンをガッシリ支えるような剛性感があり、中型増トンの上限というギリギリ感はありません。フル積載だと総輪リーフサスの乗り心地も実に快適です。試乗車には、パッケージオプションで装備される全車速車間クルーズ(FACC)、車線維持支援機能(LKA)、EDSS(ドライバー異常時対応システム)車線内自動停止機能をもつことから、必然的に電動アシスト機構付油圧パワステも備っていたため、直進が保ちやすくもありました。

 なお、試乗車として供された個体は、実はいすゞが開発業務に用いている量産試作車で、正規の市販車とは異なる部分がありました。キャビン内もベッドを置いていない状態で、そのためエンジンの透過音がかなり入ってくるのですが、思いのほかエンジン音は軽くまろやかで耳障りではなく、ターボの金属音が目立たないので、市販車のキャビンは居心地がかなり良いのではと思います。

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