試乗・文:谷田貝 洋暁 Webikeプラス
写真:ヤマハ発動機、谷田貝 洋暁、小川 裕之

既存のバイクのマニュアルトランスミッションエンジン、いわゆる“ギヤ付き”モデルの“クラッチレバー操作”と“シフトペダル操作”を省くことができる新電子制御シフト機構「Y-AMT」をヤマハが開発し、2024年モデルのMT-09 Y-AMTに初搭載。2024年9月30日から1,364,000円で発売 されることが発表された! 8月23日には千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイ(サーキット)にて、ヤマハ発動機による媒体向け試乗会が開催され、フリーランスライターの谷田貝 洋暁が参加してきた。

     

低速走行の電子制御クラッチに技アリ!!  「Y-AMT」はフルロックUターンもスタンディングスティルも可能!!



Webikeプラスではこれまで技術解説とE-Clutchとの比較記事も掲載しているので、もうのっけからMT-09 Y-AMT試乗の印象を書いていくことにしよう。この手の既存のMT(マニュアル・ミッション)エンジンをAT(オートマチック)化する技術のミソは、とにかく低速走行時の安定性 にある。

ギヤを1速に入れて、発進する時に“どれだけスムーズな半クラッチ操作を電子制御で行えるか?” また“微速前進する際に安定した半クラッチ状態を作り出せるか? ”。それらの制御がライダーの意思に即しており、違和感を感じないか? 電子制御クラッチの出来がまず重要になる。

というのも極低速走行時に不用意な駆動切れを起こせば、バイクは安定感を失い、安易に立ち転け、Uターン転けを発生させる事になる。極低速域での動きが信用できない電子制御クラッチは正直使い物にならない と言っていい。


既存のMTエンジンに、電子制御ギヤボックス、電子制御クラッチを組み込んだのが 「Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)」。写真向かって左の赤く囲まれた箇所が電子制御ギヤボックスで、右が電子制御クラッチ。電子制御で駆動の断続(クラッチ)とギヤチェンジをするため、クラッチ操作とシフトチェンジの操作がいらなくなる。

通常、極低速域の車速コントロールはクラッチレバーで半クラッチ状態を作りだし、ちょうどいい駆動の伝わり具合をライダーが作り出すのだが、MT-09 Y-AMTにはクラッチレバーがなく、クラッチ操作が電子制御になっている。

結論から言えばMT-09に搭載された「Y-AMT」はかなり信頼できる優れた電子制御シフト機構になっていた。極低速域の電子制御クラッチの動きが自然で試乗車のMT-09 Y-AMTを走らせて数分と経たずに、フルロックでの8の字旋回に挑戦してみる気になったくらいである。

 ……ということでハンドル全切りの状態で、前ブレーキ操作と微妙なスロットル操作だけで旋回してみる。くるっと1周したところで逆側にハンドル全切りして逆回転。この切り返しの時の転舵あたりが一番気を遣うところだが、MT-09 Y-AMTとなら難なく8の字が描けてしまうではないか。


電子制御クラッチの挙動が信用できたところで、立ち乗りでブレーキ&スロットル微開操作で限りなく停止状態に近い状況を作り出すスタンディングスティルもやってみる。

続いてスタンディングスティルを試してみよう。フロントブレーキで車速を抑えながら、スロットル操作で駆動力をかけて微速前進。場合によっては一瞬車輪止まるような状況を作り出してみると、これがかなり粘るのだ。当然、最終的に車輪が止まれば電子制御クラッチは駆動力をカットすることになるのだが、ほぼ停止に近い状態に陥っても、電子制御で半クラッチを維持してくれる 。ほぼ人が操作しているのと同じくらいの感覚でスタンディングスティルができる。

ここまで自然な動きをする電子制御クラッチなら、ベテランが違和感なく乗ることができるのはもちろん、クラッチ操作や発進が苦手な初心者にとっても大きな利点になる ことは間違いない。それほどMT-09 Y-AMTの電子制御クラッチはよくできていると感じた。


Y-AMTの電子制御クラッチ部分のカットモデル。MT-09にはアシストスリッパークラッチが組み込まれているが、電子制御クラッチの動きを阻害するためY-AMTエンジンにはない。その代わり、モータスリップレギュレーション(MSR)やオートブリッパーでシフトダウン時のバックトルクがかからないようにしている。
     

MT-09 Y-AMTはMTモードが面白い! -電子制御ギヤボックス -


進行方向、エンジン右側にあるのがギヤ変速を行うアクチュエーター。モーターからエンジンにシフトロッドが伸びている。ちなみにY-AMTモデルは、STDに比で約2.8kgの重量増。DCTが約10kg増、電子制御クラッチだけのE-Clutchが2kg増であることを考えるとかなり軽量。またE-Clutchを意識してのことだろう、エンジン外側へのはみ出しがないことを開発陣は強調していた。

続いてメインの試乗会であるサーキットコースへと走り出す。モードは、ライダーの意思でシーソー式レバーを操作して変速するMTモード。びっくりしたのは、左足によるシフトペダル操作がなくなる事でマシンコントロールの精度が格段に向上するというY-AMTの効用 だ。コーナリングでは、スロットルを戻し、ブレーキをかけてシフトダウン。荷重コントロールをしながら車体を寝かせて旋回。クリッピングポイントを過ぎたらスロットルを開けて加速し、コーナーの出口でシフトアップ……、なんて具合でざっと書いただけでもかなりの操作を並行して行なっており、ライダーは色々なことにリソースを割きながらマシンをコントロールしている。


MT-09 Y-AMTにはシフトペダルがない。……というだけでここまでマシンコントロールが楽になるとはびっくりである。

 そこで左足のシフトチェンジの操作がなくなると……ステップで行う荷重のコントロールが格段に楽になるのだ。というもコーナリングでは特にイン側のステップに荷重をかけることになるが、Y-AMTの付いてない一般的なバイクの場合、ギヤチェンジをする際には一度右足に荷重を移し、左足が自由に動くようにしてシフトペダルを操作することになる。このステップの荷重の掛け替えは、乱暴に行えば当然マシンが左右へふらつく。このため相当気を使って行う事になる。

ところがMT-09 Y-AMTの場合、左スイッチボックスのシーソーボタン操作で変速が完了。ステップ荷重の掛け替えそのものを行わなくていいので、そもそもとして車体がふらつく要素がない 。


シフトチェンジは左スイッチボックスにあるシーソー式レバーで行う。人差し指で+ボタンを引くとシフトアップ、親指で-ボタンを押すとシフトダウン。また人差し指で+ボタンを押し弾いてもシフトダウンできるようになっている。

文章にしてしまうと大したことではないように感じるかもしれないが、これが実際に走ってみるととても大きな利点であることに気づくのだ。まず第一に減速時のシフトダウン、コーナー脱出時のシフトアップで車体がふらつかないというだけで、操作のつながりがスムーズになる。“ギヤチェンジでふらつく”ことへの注意が必要なくなるのでライダーはスロットル操作やラインどりなどといった他のことにリソースを割くことができる というわけ。もうこれだけでなんだかコーナリングがうまくなったように思えるくらいの効果が体感できて、なんだか気持ちよく曲がれるのだ。


コーナー手前、コーナー脱出時にシフトチェンジするための足の踏み替え作業がないだけで、ライダーはマシンコントロールにより集中できる。

袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われた試乗会ではスタンダードのMT-09とSP、そしてY-AMT仕様のMT-09を同条件でのり比べることができたのだが、Y-AMT仕様からスタンダードのMT-09やSPに乗り替えると、“Y-AMTでここまで楽させてもらっていたんだ”という実感が持てるほどの違いが出る のが面白い。

“Y-AMTは、オートマチックのための機構ではなく、あくまでライダーが主導でギヤチェンジをして楽しむための機構です。そのためY-AMTの名称に“MT”の文字を入れたんです”と、開発陣が力説していたがその理由がよくわかった。Y-AMTは、人機官能をモットーとするヤマハらしくスポーツするための機構に仕上がっていたのだ。


右スイッチボックスのトリガーボタンでATモードとMTモードを切り替える。MTモードでは何速に入っていても停止すると1速に戻るようになっている。

MT-09 Y-AMTのATモードはどうか?



 とはいえY-AMTには、ATモード、つまりバイク任せのオートマチック変速の機構も備わっており、「D」、「D+」の2つのモードが選べる。スタンダードの「D」モードに対して、よりスポーティな変速タイミング&出力特性になるのが「D+」モードというわけだが、走ってみるとこのモードの違いもものすごくはっきりしていた。

 あまりに心地よい変速タイミングに、この辺りの制御をどうやっているのか開発陣に尋ねたところ、電子制御スロットルからの情報を“ライダーの意志”と捉え、エンジン回転数や加速度や減速度も加味して、変速タイミングをコントロールしているという。

すごいのはこの加減速の度合いを安易に6軸IMUから取るのではなく、ホイールの速度センサーなどから取っていること。これによりY-AMTはIMUを持たないモデルへの転用も可能 となっている。


シフトチェンジの速度を上げるための工夫その1、シフトロッド。内部にスプリングが仕込まれており、縮めたバネの反力を利用して素早くギヤボックスに動力が伝わるようにしている。

 ちなみにこのY-AMTは、MT-09が搭載するのと同じ888ccの並列3気筒エンジンを搭載するモデルへの転用が決まっており、その次はCP2と呼ばれる688ccの並列2気筒エンジン搭載モデルに搭載されるとのこと。

気になるのは電子制御スロットルの効用だ。というのも現状、CP2エンジンを搭載したモデルにはまだ電子制御スロットルが搭載されていない。Y-AMTの導入に合わせて電スロ化されるのか? それとも電スロがないぶんやや制御に劣るY-AMTが導入されるのか? 非常に気になるところ。開発陣の話では、“ライダーの意志”が一番はっきりと感じ取れる装置が電子制御スロットルとのことなので、CP2エンジン搭載モデルもY-AMTの搭載を踏まえていずれ電子制御スロットルが導入されるとみて間違いない 。


シフトチェンジの速度を上げるための工夫その2、3-6速のギヤドッグ。ギヤ組み替え速度と変速ショックを和らげるため、3-6速ギヤのドッグを5つから6つに変更。これらの工夫でシフトチェンジの速度が0.1秒と開発初期の5分の1まで短くなった。

 ちなみに変速時のシフトショックに関しては、“ややある”と感じたところが正直なところ。2速でコーナリングした後に、スロットルをワイドオープンして3速→4速なんて感じで加速した時に、若干駆動が抜けてマシンに若干のピッチングモーションが起きる。

 このあたりは2つのクラッチで変速を行うDCTの方が、構造的にもはるかにシームレスなシフトチェンジになる。ただ、この辺りは好みの問題である程度シフトショックがあった方が操っている感覚が得られていいという捉え方もできる。いずれにせよ不快な程のシフトショックではなかったのは事実だ。

 今回の試乗はクローズド環境のみで公道環境での試乗はできなかったが、実際にこのMT-09 Y-AMTでツーリングに出かけたり、街乗りしてみたりすると、今回発見した“足によるシフトチェンジの操作をなくしたことによるコントロール性アップ”とはまた違ったY-AMTならではの効用が見つかりそうな予感がある。

MT-09 Y-AMTの価格はSTD比11万円増の136万4000円で9月30日発売!


MT-09 Y-AMTの発売日と価格が発表。Y-AMT仕様はスタンダード(1,254,000円)比で11万円増となっている。

MT-09 Y-AMT(RN88J )
【全長/全幅/全高】 2090×820×1145mm
【ホイールベース】1430mm
【シート高】825mm
【車両重量】 196kg
【エンジン】水冷4ストローク直列3気筒888cc
【最高出力】120PS/10000rpm
【最大トルク】9.5kg-m/7000rpm
【燃料タンク容量】14L(ハイオク指定)
【変速機】6段リターン
【ブレーキ】F=ダブルディスク、R=ディスク
【タイヤ】F=120/70ZR17、R=180/55ZR17
【販売価格】1,364,000円(税込)









 【シート高】825mm(ライダー:身長172cm/体重75kg)







 跨り部分がしっかり絞られており、両足の踵がなんとか両側つくぐらいの足着き性。825mmのシート高は変わらないものの、より前輪荷重を増やすため2023モデル(RN69J)に比べてハンドルを低くし、ステップもバックステップ気味に変更されている。ただそこまでポジションはスパルタンになったわけではなく、ツーリングはもちろん、街乗りなどにも使いやすいだろう。

MT-09 Y-AMTのディティール


エンジン、フレームといった基幹部位は前作(RN69J)と共用しながらヘッドライトやタンク、シート&シートレール部分を大幅変更。

FIセッティング、操作フィーリング適合などを受けているものの、前作(RN69J)と最高出力、最大トルク値は変わらずキープ。

Y-AMTのアクチュエーター類はうまくエンジン後に収められており、飛び出しもいっさいない。しかも、重量はチェンジペダル、レバーなどの重さを差し引いて2.8kg増にとどめている。

トレーサー9GTではなく、MT-09に最初にY-AMTを組み込んだというところが、「Y-AMTはスポーツするための機構であり、楽するための機構ではない」というヤマハの意思だ。

ハンドル切れ角を28度から32度へと増やしながらも、燃料タンク容量は従来通りの14ℓを確保。燃料はハイオク指定。

MT-09 Y-AMTには、上級仕様のSP同様、スマートキーシステムが導入されている。タンク上面のメッシュは吸気音を効果的に聞こえるようにするための工夫だ。

2023モデル(RN69J)比でハンドルのグリップポジションが後方へ1.5mm、下方へ34.4mm。垂れ角は2.1度アップし、絞り角が3.3度オープンに変更している。

ステップポジションも2023モデル(RN69J)から変更。後方へ30.6mm、上方へ9.5mm、また内側へ3mm追い込んでいる。

フルカラーTFTメーターもデザイン変更。時計の下に、「MT」、「AT」のモードが表示され、右上にライディングモードが表示。

「MT」モードで選択できるライディングモードは、「SPORTS」、「STREET」、「RAIN」、「CUSTOM 1」、「CUSTOM 2」の5種類。

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/402878/

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