エンジン(内燃機関)の出力&効率アップに効果を発揮するターボチャージャーとスーパーチャージャー。長年に渡って使われているこのふたつのシステムにはどんな違いがあるのか? 初心に戻って学びたい!
文/長谷川 敦、写真/ダッジ、トヨタ、日産、ポルシェ、ホンダ、マツダ、Adobe Stock、FavCars.com
■ターボ&スーパーチャージャーで何が変わる?
ガソリンなどの燃料を燃焼させて動力を得るのが内燃機関だが、実は空気も燃焼に重要な役割を果たしている。
内燃機関では、燃料と空気を混ぜて混合気を作り、これを燃焼させるため、パワーを上げたければこの混合気の量を増やせばいいということになる。
少々話を単純化するが、エンジンの排気量が大きくなるほどパワーも上がるのはこの理屈だ。
しかし、燃料(ガソリン)と空気は一定の割合で混合させる必要があるので、ただ燃料を増やしてもパワーアップは実現しないし、ターボチャージャーなどを持たない自然吸気式エンジンでは、燃焼室に送り込める空気の量に限界がある。
そこで考え出されたのが、なんらか手段で強制的に空気を送り込むシステムで、こうしたシステムは日本語で「過給機」と呼ばれている。
過給機によって空気量を増やせるのであれば、同時に供給する燃料の量も増やして燃焼させればより大きな出力が得られる。
今回のテーマであるターボチャージャーとスーパーチャージャーはいずれも過給機の一種であり、空気量を増やすという目的は一緒だ。
次の項からは、ターボチャージャーとスーパーチャージャー、それぞれの特徴を見ていくことにしよう。
■排気エネルギーを利用するターボチャージャー
クルマ好きでない人でも、おそらく聞いたことがあるであろう言葉がターボチャージャーだが、後半のチャージャーを省いた「ターボ」と呼ばれることが多い。
かつては日本車でもターボブームがあり、特に1980年代には多くのターボ装着モデルが登場した。
ターボは本来大気中に捨ててしまう排気のエネルギーを利用してタービンを回し、その力で燃焼室に空気を送り込む。
なお、説明が複雑になるので省略するが、ターボで利用するのは排気ガスの運動エネルギーではなく熱エネルギーだ。
ターボのメリットは大気中に放出するはずだった排気のエネルギーを再利用できることと、シンプルな構造でパワーや効率アップを実現すること。
エンジンへの“後付け”も比較的容易で、ターボブームの時代には市販車をターボ装着でチューンナップするのが流行した。
デメリットは、利用するエネルギーの性質上、低回転では効果を得にくいこと。
エンジンの排気エネルギーは高回転になればなるほど大きくなり、ターボで得られる出力もアップする。
そのため、過去のターボエンジンではアクセルを踏み込んでからターボが作動してパワーアップするまでのタイムラグ(ターボラグ)が大きく、これを「ドッカンターボ」などと表現することもあった。
その後制御技術が進化するとターボラグも徐々に減少し、現在のターボエンジンはスムーズな吹け上がりを実現している。
■エンジンから直接回転力を得るのがスーパーチャージャー
ターボが排気エネルギーによってタービンを回転させるのに対して、スーパーチャージャーはエンジンのクランクシャフトとの接続によって回転する。
多くのスーパーチャージャーではクランクシャフトにベルトを接続して回転し、空気を圧縮してエンジンに送り込む。
広義ではターボチャージャーもスーパーチャージャーの一種になるが、一般的には機械式の過給機をスーパーチャージャーと呼んでいる。
スーパーチャージャーのメリットは、ターボが苦手とする低回転域でも過給が行えることで、高回転まで滑らかなパワー向上を実現する。
そしてデメリットは、エンジンにパワーロスが発生してしまうことと、機構が複雑になってしまうこと。
ターボが排気エネルギーの再利用になるのに対し、スーパーチャージャーではその回転にエンジンのエネルギーを直接使うため、どうしてもロスが発生してしまう。
また、構造の複雑さは最終的に車体全体の重量増を招くことになる。
とはいえ、ターボラグのような現象が起きないのは大きなメリットであり、ターボとスーパーチャージャー両者の利点を生かすため、ターボ&スーパーチャージャー付きエンジンも存在している。
■優勢なのはどちらのチャージャー?
ここまで見てきたように、ターボとスーパーチャージャーにはそれぞれ利点と弱点があり、従来は双方でのすみ分けが行われていた。
しかし、現在の市販車ではターボチャージャーが圧倒的な優位に立っている。
その理由は、世界的に以前よりも燃費や排ガスを重視するようになったことだ。
エネルギーロスが少なくシステムも軽いターボなら、エンジンを小さくして燃費を抑え、出力はターボによる過給で補うという方法がとれる。
これが現在の「ダウンサイジングターボ」であり、高出力を狙うスポーツカーではないのにターボを装備するモデルも増えている。
それに比べて損失の発生するスーパーチャージャーはイメージ的に不利になり、実際に燃費効率も低下するため、現行の国産車でスーパーチャージャーを装備するモデルはマツダのMAZDA3のみとなった。
MAZDA3のSKYACTIV-Xエンジンにはスーパーチャージャーが装着されているが、メーカーではこれをあえて「エアサプライシステム」と呼んでいて、従来のスーパーチャージャーとは異なるものであることを強調している。
EV(電気自動車)の台頭など、世界のクルマのなかで内燃エンジンの使用率は減る傾向にあるが、省燃費にも貢献するターボの魅力はまだまだある。
これに対して劣勢のスーパーチャージャーだが、今後、新素材の採用などにより従来を大きく上回る効率を発揮するスーパーチャージャーが生まれる可能性は否定しきれない。
クルマの歴史は技術の進歩の歴史でもあり、将来的にはより効率に優れたターボ&スーパーチャージャーの登場にも期待したい。
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