1980年代後半~1990年代・バブル前後、潤沢な資金を投じて開発され、そして儚く消えた名車&迷車たちを振り返る。(本稿は「ベストカー」2013年6月26日号に掲載した記事の再録版となります)

文:片岡英明

■大真面目に作られた、ユニークなクルマたち

いすゞ ビークロス(1997年)……ビークロスは「オールラウンドリアルスポーツ」を掲げて登場したクロスオーバーSUVだ。ビッグホーンのショートからシャシーを譲り受け、その上に大胆な面構成の2ドアボディを被せている。エンジンはV6ガソリン搭載

 1980年代は日本が高度経済成長期の真っ只中。すべてがイケイケで、元気いっぱいだった。

 公共事業を積極的に行ない、本州と四国を結ぶ瀬戸大橋やベイブリッジに加え、東京湾アクアトンネルや鳴門海峡大橋なども企画されている。建築ブームはぜいたくな美術館や公共施設も生みだした。

 この時期、日本は世界第2位の自動車生産国にのしあがり、運転免許人口も5000万人を超えた。

 ターボ旋風が吹き荒れ、高性能車も一気に増える。スペックに目がいったが、中の上といった意識の強い保守層や女性からはちょっとリッチで清楚なハイソカーが持てはやされた。

スバル ヴィヴィオTトップ(1993年)……4気筒エンジンを積むヴィヴィオ3ドアのルーフを脱着式とし、ドア後方にロールバー風の太いピラーを設けた個性派オープンモデルだ。女性を中心に人気が高かったため、スーパーチャージャー仕様のGX-Tを追加のかたちで発売している

 1987年秋にニューヨークで株価が大暴落した。世にいう「ブラックマンデー」だ。が、円高を追い風にした日本のバブル経済には影響がなかった。

 販売が絶好調の自動車業界は、湯水のように開発費と宣伝費をかけ、シーマやセルシオなどの新感覚プレミアムカーや強烈な個性のパイクカーを意欲的に送り出している。

 駄作も多かったが、いま振り返ると、実のある偉大な失敗作だった。

 1990年になってバブルが弾けた。が、開発途上にあったニューカーは商品化を急ぎ、その多くは発売に移された。

 いすゞビークロスや三菱RVR、エスティマなど、いまにつながるクロスオーバーカーが出現するのはこの時期だ。

スバル ドミンゴアラジン(1996年)……サンバートライのハイルーフ仕様に1Lと1.2Lの3気筒エンジンを積んだのがドミンゴで、さらにキャンピング特装車に仕立てたのがアラジンである。ルーフ部分が大きく上に伸び、そこのベッドで気持ちよく寝られた

 クルマ離れを食い止めるために、メーカーは知恵を絞った。その結果、オデッセイやRAV4、デミオなどが誕生している。

 すき間に新しい価値観を持ったクルマを投入し、市場を切り拓き、成功した。積極的に攻勢をかけたから、日本は世界一の自動車王国に上りつめたのだ。

スズキ ツイン(2003年)……今の時代にジャストフィットする超コンパクトボディのシティコミューターだ。660ccの3気筒エンジンに加え、時代の先をいくハイブリッド車も用意されていた。車両価格49万円からの激安だったが、鳴かず飛ばず

■遊び心が作った日産パイクカー3連発

 バブル華やかなりし頃は、メカニズムだけでなくデザインにも新しい潮流に挑む姿勢が見られた。

 特に積極的に尖ったデザインに挑戦したのが日産だ。その筆頭が「パイクカー」である。東京モーターショーに参考出品し、評判がよかったから限定発売の形で市場に放った。

 第1弾はレトロ調デザインのBe-1だ。

日産 Be-1(1987年)

 初代マーチのプラットフォームを利用し、その上にノスタルジックモダンの愛らしいデザインのボディを被せた。キャンバストップも選べる。生産を行なったのは高田工業だ。

 Be-1は1万台の限定発売だったが、予約が殺到し、パニックになったため第2弾のパオは3ヵ月間の期間限定とした。

 パオはアウトドア志向を表現したレトロデザインが特徴だ。

日産 パオ(1989年)

 パイクカー第3弾は1991年2月に発売されたフィガロである。

 こちらはエレガントなオープントップのパーソナルカーである。エンジンは1L 4気筒SOHCだが、唯一ターボを装着した。

日産 フィガロ(1991年)。当時の日産は、ほかにもラシーンやエスカルゴを発売するなど、意欲的に新しいデザインに挑戦していた。フィガロなどは、いまでも女性ユーザーを含めて根強い人気があり、中古車市場で高値で取引されるケースもあるという

 3台のパイクカーは社会現象になるほど大きな話題をまいている。

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