そんなにたくさん売れたわけじゃない。でも、何年経ってもみんなが覚えている……そんなクルマを取り上げるこの企画。記録より記憶に残る、とはよく言ったものだなぁとこの企画をやるたびにつくづく感じさせられる。さて、話を戻して今回取り上げるのは、超濃厚ドイツ風セダンのスズキ キザシ! もう二度と生まれないかもしれない幻の傑作だ!!

※本稿は2024年8月のものです
文:小沢コージ/写真:茂呂幸正
初出:『ベストカー』2024年9月10日号

■塊感のあるセクシーなフォルム

2009年から2015年に販売されていたスズキ キザシ(中古相場:40万~180万円)

 マジか。こんなにいいクルマだったっけ? 久々に乗って目からウロコが落ちるくらい感激したのがスズキ キザシだ。15年前の東京モーターショー2009に登場したサプライズカー。

 当時から軽とコンパクトメーカーで知られていたスズキの大胆不敵なチャレンジなのだ。なんせ全長4650mm、全幅1820mmと歴代スズキ最大サイズで、当時のBMW3シリーズよりデカい。

 車名は「世界の市場に向けてスズキが新しいクルマ作りに挑戦する“兆し”」から付けられていてかなりロマンティック。

 言わば1970年代にバイクとコンパクトカーのホンダがいきなりアコードで打って出たような世界殴り込みセダンだった。

 しかし正直ユニクロが突如ヒューゴボスを売り出したような違和感は拭いようがなく、野望は残念にも頓挫。日本では6年間でトータル3300台強、世界的にも奮わず国内はセダンから撤退。

 2012年にスズキ自体が北米市場から撤退するきっかけにもなった。

 だが、そもそも無理だったんだよと批判をするのは早計。それより今乗っても圧倒的な作り込みにはビックリで、その後日本では覆面パトカーとして有名になるが、マニアに独占させとくのはもったいないほど。

 まず驚くのはドイツ車とラテン車を足して2で割ったような塊感と美しさ。

 全長4.6mは当時のアコード&カムリより小さめでいま見ても絶妙だし、ノーズは一体感とグリルの強さを持ちつつ、異形ヘッドライトとも絶妙にマッチする。

 リアも力強さを備えつつ、鋭く上跳ねするリアウィング一体型トランクリッドが美しい。日本の箱っぽい軽しか見てないスズキファンからすると馴染めないだろうが、別ブランドで出してたら評価は変わったはずだ。

 インテリアも同様で受注生産ということもあり、全車モノグレードでシートは本革電動のダブルステッチ入り。

 本革ステアリング&シフトノブ、クルーズコントロール、前後パーキングセンサー、ディスチャージヘッドライトも標準装備で、途中からACCまで付けられた。インパネデザインもシンプルな欧風でスズキとは思えないレベルだ。

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■ドイツ車風味にシビれる!

11年落ちで距離10.6万kmだが走りの剛性感はビンビン。これで車検取って75万円。VW ゴルフ&パサート買うより全然いいって!

 走りもガチドイツ車志向でエンジンはエスクード用2.4L直4DOHCだが22psパワーアップして188ps&23.5kgmに。

 なによりプラットフォームは完全新作でサスは前ストラットに後マルチリンクと凝ってるし、国内向けギアボックスはMTモード付きCVTだがFFに加え電子制御4WDも選べた。

 しかもこれが今試しても剛性感の塊。乗ったのは11年落ちのFFグレードでステアリングフィールはソリッドだわ、乗り心地はガッチリしてるわ、マジでスズキ産VWジェッタ? と言いたくなるほど。

 加速はCVTで少々かったるいがトルクもあり、これでドイツのアウトバーンを走っても楽しそう。

 車内は凝縮デザインがゆえに小さく見えるが、全長4.6m台はさすがで大人が前後にゆったり4人座れるうえ、ラゲッジ容量も432Lと充分。ゴルフバッグが4つも載るというから驚く。

 ついでに凄いのはコスパで、今回乗った2013年式の距離10万km超えがたったの車両本体75万円! 高いモノだと100万円超もあるがこの走りとクォリティならある意味納得の超欧風国産セダンなのであーる。

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■スズキ キザシ伝説1:見たら覆面パトだと思え! なぜに1000台近くも導入?

 300万円前後の国内価格もあってか6年間で3300台強しか売れなかったキザシ。末期は覆面パトカー用として安く入札され900台ほど導入。一時は「キザシを見たら覆面パトカーと思え」と言われたほど。

 フォグランプ、パーキングセンサー、パドルシフト、本革シート&ステアリング&シフトノブを省いたすっぴん仕様が妙にカッコイイ(笑)。

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■スズキ キザシ伝説2:ニュルで徹底的に鍛えた足! 本気で欧米を狙ったあの頃……

 当時のGMとの提携もあり、北米や欧州マーケット狙いの本気のDセグ世界戦略プレミアムセダンとして開発されたキザシ。

 プラットフォームは完全新設計でエンジンもエスクード用をパワーアップして搭載するだけでなく、走り込みはあのドイツニュルブルクリンク北コースでも行われた。結果走りはメチャクチャ濃厚ドイツ風味に!

●小沢コージ氏の評価
・タイムスリップ度:★★
・レア度:★★★★
・お金かかりそう度:★
・乗って楽しい度:★★★★

 見た目モダンで古さは感じないがレア度は半端ない。街で見るのもほぼ皆無で最近は覆面パトカーでも見ない。走りはスゲーいい!

●スズキ キザシ 懐かしスペック
・カテゴリー:ミディアムセダン
・全長×全幅×全高:4650×1820×1480mm
・ホイールベース:2700mm
・車両重量:1490kg(FF)
・エンジン:2.4L直4 DOHC横置き
・最高出力/最大トルク:188ps/23.5kgm
・ギアボックス:CVT
・駆動方式:FF、4WD
・サスペンション:前=マクファーソン式 後=マルチリンク式
・国内累計販売台数:3379台
・コンセプト:世界戦略フラッグシップ

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