ダイムラートラックのインド市場向けブランド「バーラトベンツ」は、このほど同国最新の排ガス規制・BS6フェーズ2に適合する新大型トラックを発売しました。従来モデルは、メルセデスベンツが設計したディーゼルエンジンを搭載していたのですが、この新型車では、米・カミンズが開発したエンジンを導入しています。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler India Commercial Vehicles(DICV)、フルロード編集部

カミンズで置換されるベンツエンジン

バーラトベンツの新型大型トラック(HDT)。写真(実車ではなくCG画だが)はGVW42トン・5軸10×2駆動モデルの「4232R」。新型HDTはこのようなタンクローリなどの製缶系特装車の架装に配慮した新設計シャシーフレームも採用している

 バーラトベンツ(「インドのベンツ」の意)は、ダイムラートラックがインド市場で展開しているブランドで、競合メーカーに対しては「ちょっと高くて品質と装備のいい商用車」というキャラクターを持つトラック・バス製品を供給しています。

 そのトラック・バス製品は、すべてダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズ(DICV)というダイムラーの子会社で開発・生産しています。DICVは、三菱ふそうとともにダイムラーグループのアジア事業部門を構成していて、三菱ふそうの新興国向け専用モデルは、このDICVから世界各地へと輸出……という風に、意外に日本との縁も深かったりします。

 バーラトベンツの大型トラック(商品名はなく単に「HDT」と表記される)は、インド市場や新興国市場の使用条件を考慮した頑丈かつ耐久信頼性の高い新開発シャシーに、メルセデスベンツの大型トラック(アクサー)に由来するキャビンとOM926型7.2リッター直6エンジン、9速マニュアルトランスミッションを搭載するという成り立ちのクルマで、11年前の2013年にデビューしました。

 同社が8月23日に発売を開始したバーラトベンツ新型HDTでは、そのエンジンが、カミンズ製の「6D26」型へ変わることが最大の特徴です。

 親会社のダイムラーは、2021年2月、中型クラスの排気量をもつディーゼルエンジンについては自社での開発・生産から撤退し、カミンズから調達することを発表しています。特にダイムラーは明言していませんが、バーラトベンツ新型HDTはその最初の製品例になるものと思われます。

発表会でデビューしたバーラトベンツ新型HDT

クラストップの動力性能と燃費性能

新型HDTが搭載する6D26型エンジン。カミンズ・インディアが生産するB6.7エンジンのバーラトベンツ向け仕様で、マルチ燃料噴射制御システム、高過給ターボシステム、圧縮圧解放ブレーキ(ジェイクブレーキ)などを搭載する

 6D26エンジンは、排気量6.7リッターの直列6気筒インタークーラーターボ付エンジンで、カミンズでは「B6.7」と呼ばれるエンジンのバーラトベンツ向けモデルとなります。エンジン自体は、マハラシュトラ州プネーにあるカミンズ・インディアの生産拠点から調達しています。

 動力性能には2種あり、最高出力306hp/2300rpm・最大トルク1200Nm/1200-1500rpmのタイプと、同じく250hp/2300rpm・950Nm/1000-1800rpmのタイプが設定されています。バーラトベンツ車のエンジンは、もともとインド市場でクラストップの出力・トルクを持っていましたが、新型HDTは従来(280hpと240hp)に対してさらにアップしており、特にトルクは9~12%のアップとなるなど、その商品力が高められています。

 また、燃費性能も向上しており、コモンレール高圧燃料噴射システムがもつ高度な噴射制御を積極的に活用した、「EFFI+パッケージ」「マルチドライブモード」という二つの省燃費機能が備わっています。EFFI+パッケージは、運転状況に応じたグリーンゾーン(回転数)設定、長時間アイドリング自動停止機能、急加速抑制機能、駐車時は排ガス後処理装置の再生を抑制する機能が含まれ、マルチドライブモードは、運転条件に応じてエコモードとパワーモードを手動選択できるものです。

 さらに、従来は排気ブレーキ1段しかなかったのですが、6D26では圧縮圧解放ブレーキ(強力なエンジンブレーキを得るための装置)を新たに装備して、制動効率を28%も高めたとしています。

 インド国産の民生用大型トラックは、車両総重量が40トンを超えるトラックやトラクタでも6~8リッターという小排気量エンジンを使うので、そもそも排気ブレーキの制動力は限られているのですが、新型エンジンは6.7リッターと排気量が400cc減少しているため、圧縮圧解放ブレーキを採用することで補助制動パワーの維持と強化を図ったものと考えられます。

シャシーフレームも一新

バーラトベンツ新型HDTの第一弾となる5モデルは、GVW28~48トンの3~5軸の輸送系トラックシャシーである

 バーラトベンツ新型HDTではシャシーフレームも一新され、上モノ(荷台や作業装置などの架装物)の結合方式を、欧州や日本で用いられているようなボルト結合式へ改めたことが大きな変化です。これは、タンクローリやアスファルトローリ、粉粒体運搬車などの上モノ、特にその最新モデルの架装に対応したものとしています。

 現時点ではバーラトベンツHDTの全車種が新型になったわけではなく、車両総重量28~48トンの輸送系トラックシャシーモデルである3軸6×2車型「2826R」、前1軸後3軸8×2車型「3526R」、4軸8×2車型「3832R」、5軸10×2車型「4232R」「4832R」に限られています。

 また、23年4月からスタートした「BS6フェーズ2」排出ガス規制への適合では、新型の6D26エンジン搭載車はもちろん、従来のOM926エンジンを継続して搭載する建設系トラックシャシーモデルやトレーラ牽引用トラクタモデルも適合しています。

 ちなみにフェーズ2の規制値そのものは、当初のBS6(フェーズ1)と同じですが、大型車(車両総重量3.5トン以上)に搭載するOBD(車載自己診断機能)の診断基準がより厳格化され、使用過程における規制物質の超過がフェーズ1以上に厳しくチェックされることになりました。

 なお、バーラトベンツ車と基本設計を共通する新興国向け専用の「ふそう」ブランド車については、従来のOM926エンジンを継続しています。仕向け地であるアジア・アフリカ・中南米では、排出ガス規制レベルがEuro2~4に留まっている国々が多いことも理由だと思われます。

DICVで生産される大型トラックたち。「バーラトベンツ」はインドと隣国のネパールで展開するブランドで、ほとんどの海外市場では「ふそう」、インドネシアでのみ「メルセデス・ベンツ」、メキシコでのみ「フレイトライナー」の各ブランドで供給する。基本設計は共通で、仕向け地の法規と需要に応じて仕様・装備を変更しているが、現時点で6D26を搭載するのはバーラトベンツのみ

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