国産スーパースポーツの代表である日産「GT-R」。かつては、ホンダ「NSX」というライバルも存在したが、2022年10月に販売終了となってしまった。2017年2月の2代目発売からわずか5年半での終了だった。GT-Rも、2025年8月に生産終了することが明らかとなっているが、2007年の登場から現時点で17年も販売が続けられてきたことを考えると、2代目NSXがたった5年半で終了してしまったことは非常に残念。17年続いているGT-Rと、たった5年半で終えたNSX。いったい何が違ったのだろうか。

文:吉川賢一/写真:NISSAN、HONDA

スタンダードとNISMOに分離したことが功を奏したGT-R

 日産「GT-R(R35型)」は、2007年10月に発表、同12月より発売開始となった。開発を指揮したのは、ベストカーでもお馴染みのスーパーエンジニア、水野和敏氏だ。伝統的な丸目四灯のテールランプデザインや、狭いながらも後席を用意するなど、歴代GT-Rのパッケージングを踏襲し登場したGT-Rだが、その中身はまさにスーパースポーツ。

 500PS超のパワーをもたらす3.8L V6ツインターボエンジンと、リアに必要な荷重を配分する日産独自のトランスアクスル4WDのプレミアム・ミッドシップの採用など、卓越したスペックを誇り、登場翌年の2008年には、同車の標準タイヤであるダンロップを装着した車両で、当時の市販車ニュル北コースのラップタイムを更新。これによって、GT-Rは世界中にその名をアピールすることに成功した。また、ほかの高級車と同一のラインで生産できる構造であったことから、GT-Rは販売価格も抑えられており、「777万円で乗れるマルチパーパススポーツカー」として、価格の面でも世界中の顧客やライバルメーカーの度肝を抜いた。

R35 GT-R ピュアエディション2025モデル。2025年8月には生産終了が示唆されており、これが「最後のR35」となる

 その後もGT-Rはエアロダイナミクスを見直したり、製造工法を変更したりと、いくつものマイチェンを重ねながら進化をしてきたが、大きく変わったのは2014年モデルだ。スポーツカーとして速さにこだわってきたGT-Rだったが、ユーザーから快適性も求められるようになったことで、基本性能の底上げをして廉価かつ快適性も考慮したスタンダードモデルと、コストをかけてでも純粋に速さを追求するNISMOという2つにつくり分けることに。

 役割と価格帯を分離したことで、GT-Rは安定して売れるスポーツカーとなった。これが、GT-Rが長生きできた理由だったと思う。

R35型GT-R 標準車 2025モデルと歴代のGT-Rたち。デザインや性能は異なるが、どのモデルも、その時代の先駆けとなるスポーツカーであることにこだわっていた
R35型GT-R NISMO 2025モデル。価格は税込3008~3061万円。かなりの高額だが、発売開始と同時に売り切れるほどの人気がある。GT-Rは全車、日産栃木工場で製造されている
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2000万円級の魅力をうまく伝えてくれなかったNSX

 一方のNSX(2代目)は、2016年5月に北米で登場、日本市場への登場は2017年2月のことだった。ホンダが2代目NSXで掲げたコンセプトは、初代モデルと同じく「人間中心のスーパースポーツ」。ただ、2代目では(目的は同じだが)手段を変え、初代が「軽さ」で実現した、意のままのドライブフィールとリニアなレスポンスを、2代目の開発チームは「電気モーター」で実現する方策を採用。具体的には、500PS超の3.5L V6ツインターボをミドシップし、ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」を採用した。リチウムイオン電池を積み、前輪を駆動する2基のモーターと、エンジンアシスト用の後輪モーター1基を搭載した贅沢な3モーターシステムは、先代のパフォーマンスを超越した、まったく新しいスポーツカーとなった。

 そうして誕生した2代目NSXは、当初こそ、国内外の各自動車メディアや著名ジャーナリストが賞賛したものの、その後は盛り上がりをみせることはなく、販売は低迷。車両価格が2360万円(初期の日本仕様)と、初代の倍以上であり、頑張ればどうにか手が届くNSXではなくなったことに加えて、初代とはまったく違うクルマとなってしまったこと、また、GT-Rのニュル北コースラップタイム更新のようなわかりやすい指標でアピールすることなく、「乗れば分かる」とした当時のホンダのスタンスも影響したと思う。ポルシェやフェラーリも2000万円超だが、彼らには長い歴史と高い信頼性がある。2代目NSXは、2000万超もしながら、買う動機に乏しかったのだ。

ホンダが目指す、意のままのドライブフィールとリニアなレスポンスを得るため、初代NSXでは、3.0リッターV6 のVTECエンジン(C30A)をミドシップし、アルミボディによる「軽さ」で勝負した
2022年8月に登場した最終モデルのNSX Type Sは、エンジンに専用チューニングを施し、内外装変更やシャシー改良などを施したスペシャルモデル。日本価格は2794万円、国内向けは限定30台販売

ホンダスピリットをもっとうまく伝えてほしかった

 現在のGT-R開発責任者である日産の田村裕志CPSと川口隆志CVEは、GT-Rがここまで続いてきた理由について、「常に、今のお客さまが期待している以上のことをやり続け、いい意味でお客さまの期待を裏切ってきたことで、GT-Rはこれだけ長く愛されてきたと思う」としていた(東京オートサロン2024で行われたトークショーでの内容)。

 創意工夫と努力で困難に立ち向かうことこそ、我々日本人が得意とする戦法。もちろんホンダも得意なはずなのだが、そのストーリーをユーザー側から見ることができなかったことは、非常に残念だった。ホンダ内の開発過程では、ブレークスルーがいくつもあっただろうが、外からみた2代目NSXには、ホンダスピリットがまったく見えなかったのだ。

 今更だが、ホンダが2代目でやるべきだったのは、スーパーカーのライバルと同じようなクルマづくりではなく、創意工夫をして、ライバルと同等以上の性能を、手が届く価格で達成してみせることだったように思う。足りないところは技術でクリアしてやるというのがホンダスピリットであるはずだ。

 なお、次期型GT-Rに関しては、「再び技術を開発している最中」だと示唆している。こうした匂わせも、ユーザーに期待を持ってもらう上で重要なこと。次期型GT-Rのコンセプトがお披露目になる日が非常に楽しみだ。

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