交通事故総合分析センター(イタルダ)によると、2018年から2020年の3年間で発生したペダル踏み間違いの操作エラーによる死傷事故(第1当事者:軽自動車と普通乗用車)は、9738件。死傷者が出てしまった事故だけで、およそ1日に1回も発生していることになり、物損で済んでいる事故も含めれば、相当な数の事故が発生していると思われます。

 高齢者に多いイメージのあるペダル踏み間違いですが、実は老若を問わず、踏み間違いによる事故は発生しています。事故に至ってしまう原因を考えながら、踏み間違いを防ぐ運転方法について考えてみましょう。

文:吉川賢一/アイキャッチ画像:Adobe Stock_ polack/写真:Adobe Stock、写真AC、ITARDA

踏み違えは、実は若者にも多い

 冒頭で触れた2018~2020年の3年間に発生したペダルの踏み間違いによる死傷事故9738件について、普通車以上の運転免許を保有している人口10万人あたりの死傷事故件数でみると、24歳以下と75歳以上の年齢において顕著に多くなっています。若い人においても踏み間違いのリスクが高い傾向にあるのです。

 高齢運転者は、運転操作を間違ってしまった際に修正の行動がしづらいため、いろいろなものにぶつかってしまう多重事故につながりやすく、若年層の運転者は、運転経験が浅いために、どういった状況が事故につながりやすいのか、というリスクに対する意識が低く、とっさの際にパニックになってしまい、踏み間違いしてしまうということが考えられます。

 ただ、危険を察知したときに、慌てて急ブレーキをしたつもりが、隣のアクセルペダルを踏み込んでしまった、ということは、誰にでも起こりうること。高齢運転者だけのもの、若者だけのもの、と決めつけてはいけないと思います。

普通車以上の免許の免許人口10万人当たり死傷事故件数。24歳以下と75歳以上で多くなっている(イタルダインフォメーション2022年NO:139「ペダル踏み間違いによる事故」より
高齢運転者は、運転操作を間違ってしまった際に修正の行動がしづらいために、いろいろなものにぶつかってしまう多重事故につながりやすく、取り上げられやすい(PHOTO:Adobe Stock_Kinapi)

踏み間違いを防ぐには、危険を予測しながら運転することのほか、クリープ現象を利用することも有効

 踏み間違い事故についてはほかにも、単路や駐車場などで発生しやすく、直進、発進時に多く発生していることがわかっています(交通事故総合分析センターの分析による)。また駐車車両や建物などに衝突するケースが多いそうで、たとえば、駐車場で駐車しようとしていたとき、信号のある交差点手前で停止しているクルマの後ろで減速しようとしていたとき、路外施設から道路へと出ようとしたときなどが、事例として報告されています。

 これらの事例の踏み間違いに至ってしまった理由としては、駐車時に後退、前進、停止を繰り返すうちに踏み間違えてしまった、信号のある交差点に近づいた際、信号が赤から青に切り替わりそうだったので、前走車が進むだろうと思い込んでいたとき、ふと脇見をしていまい、前走車が進んでいなかったことに気づくのが遅れ、パニックになって踏み間違いしてしまった、また、路外施設から道路へと出る際に歩道手前で一時停止をしたが、サンダル履きだったことと雨が降っていたことでサンダルの底が濡れており、ブレーキを踏んだものの足を滑らせ、慌てて踏んだのがアクセルだった、など。いずれも「焦り」が原因で、踏み間違いに繋がってしまっています。

 完全な対処はなかなか難しいところですが、できるだけ踏み間違いしてしまうことを防ぐためには、やはり前方注視を怠らず、一時停止を守る、速度超過をしない、そして危険を予測しながら運転をする、ということが必要。もちろん、適切な履物で運転することや、雨の日などは滑りやすくなっていないか、履物の状態を確認しておくこともリスク管理のひとつです。

 また、低速で走行する際は、「クリープ現象」を利用することも、踏み間違いを防ぐには有効。ペダルを踏みかえる回数が増えれば増えるほど、踏み間違いに至るリスクは大きくなってしまうからです。

適切な履物で運転することは、踏み間違い事故を防ぐ第一歩(PHOTO:Adobe Stock_Mr.Stock)

身体をひねった状態でのペダル操作にも注意

 これら以外に気を付けたいのが、身体をひねった状態でのペダル操作。クルマを駐車する際、目視で後方確認をするために身体をひねるという状況では足の位置がずれやすく、ブレーキペダルに足をのせていたつもりがアクセルペダルに足がかかっていて、そのまま踏み込んでしまう、というリスクがあるのです。

 これを防ぐには、普段から右足の位置を、ブレーキペダルに対してまっすぐに配置し、かかとをしっかり床につけ、アクセルを踏むときはブレーキペダルに軸を置いたまま、足先を右へ動かすようにするといいと思います。アクセルとブレーキの間に支点を置いてしまうと、アクセルとブレーキの間に足が落ちてしまったり、混乱して誤操作に繋がりやすいからです。また、発進する際にはインジケーターをチェックするクセをつけておくことも有効でしょう。

 2020年1月31日の道路運送車両法の改正によって、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の義務化が始まっており、2021年11月以降にモデルチェンジした新型車に関しては既に全車適用、それ以前の継続生産車にも、2026年7月から義務化となります。

 ただこれで全ての踏み間違い事故が防げるわけではありません。自分を過信しないことは、事故を防ぐためには必要なこと。さらなるクルマの安全性能の進化にも期待しつつ、自身のリスク管理も怠らないようにしましょう。

身体をひねった状態でのペダル操作は踏み間違いを起こしやすいので要注意(PHOTO:Adobe Stock_buritora)

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