クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は、地味ながら疑問を残す謎多き高速道路、播磨道について解説する!

文/清水草一、写真/フォッケウルフ

■地味な高速道路日本一を選定する

 数え方にもよるが、日本には95本の高速道路があり、さまざまなランキングが成立する。たとえば日本一長い高速道路は東北自動車道(680km)で、日本一短いのは新空港自動車道(3.9km)。高速道路の最高点があるのは東海北陸道(標高1085m)となっている。

 では、日本一地味な高速道路はどれだろう。

 「地味」というのは主観的であいまいな指標だが、「秘境駅」のランキングがあるのだから、地味な高速道路のベスト3を独断で作ってもいいだろう。

 ちなみに高速道路には、A級の「高速自動車国道」とB級の「自動車専用道路」があり、A級B級混在の路線もある。全線B級路線はどれも地味すぎてランキングが難しいので、今回は多少なりともA級を含む路線の中から選んでみた。

【第3位 十勝オホーツク自動車道】
 「そんな名前初めて聞いた!」という人が多いだろう。道東道の支線の終点・足寄ICから北見市を結ぶ計画の路線。現在開通しているのは陸別小利別IC―北見東IC間(38.3km)で、他の高速と接続のない離れ小島路線となっている。

【第2位 後志(しりべし)自動車道】
 北海道の小樽JCTから余市ICまでを結ぶ盲腸路線で、開通距離は23.3kmと短い。そもそも「後志」を読める人が少ないこともあり、地味度は高い。全線完成すると62.4kmになる予定。

【第1位 播磨自動車道】
 近畿地方(兵庫県)というメジャーな地域にあり、両端がメジャーな高速道路(山陽道と中国道)に接続してネットワークを形成しながら、少なくとも3年前の調査時点では日本一利用台数が少ない路線だった(1266台/日。東名高速は40万台超)ということで、ナンバー1とした。もちろん知名度も十分低く、走っている地域もそれなりに地味です。

播磨自動車道は中国横断自動車道 姫路鳥取線の一部をなしている。2022年に播磨新宮ITから宍栗JCTまでの区間が開通した   資料/兵庫県

■蜃気楼のようなニュータウン「テクノポリス」とは?

 播磨道は、山陽道の播磨JCTと中国道の宍粟(しそう)JCTを結ぶ24.2kmの路線。鳥取道とともに、山陽と山陰を結ぶ目的で計画され、約2年前に全線完成した。

 ただし、2003年の播磨JCT-播磨新宮IC(12.8km)の部分開通時の目的は違った。山中に建設された「播磨科学公園都市」というニュータウンへのアクセスのため、先行して開通したのである。

 私は2003年の部分開通直後、交通量の少ないムダな高速道路取材の一環で、ここを訪れている。

播磨道に設置されたICは、この播磨新宮ICだけである……

 播磨科学公園都市、通称「テクノポリス」。それは山の中の蜃気楼のようなニュータウンだ。理化学研究所の大型放射光施設「スプリング8」などの研究機関がいくつか立地するものの、街にはほとんど人影がない。わざわざ山を越えて高速道路を引っ張ってきたのは、政治的な思惑以外に考えられなかった。

 あれから約20年。未開通区間がついに開通し、山陽と山陰を結ぶという本来の目的が達成できたので、遅まきながら再訪問してみた。

 播磨JCTで山陽道から播磨道へ入って10分、播磨新宮ICを降りて約3分。テクノポリスの中央(?)に位置する「テクノ中央」交差点周辺は、20年前と何も変わっていなかった。

テクノ中央交差点からの風景は、だいぶ現実離れしている。奥の建物は磯崎新設計のポストモダン建築『サンライフ光都』

 なにしろテクノポリスのテクノ中央だ。YMOの名曲『テクノポリス』が発売されたのは1979年。それから45年の歳月が流れた今、兵庫県の山奥についにテクノポリスが降臨! したわけではなく、YMO全盛期の80年代から計画が始まり、1997年にオープン。磯崎新、安藤忠雄など、有名建築家設計のポストモダン建築が多数存在する。

 ポストモダン建築とは、合理的すぎるモダン建築のアンチテーゼとして、あえてムダを取り入れたデザインのこと。磯崎新設計の集合住宅『サンライフ光都』の建物中央には大きな四角い風穴が開いているが、これが「人間に必要不可欠なムダ」なのである。

■今も疑問が残る播磨道の謎

 テクノ中央交差点は、真円の公園に囲まれており、公園の外周には大きな庭石のようなオブジェが並んでいる。実はこの石、すべて樹脂で造られた量産品。庭石の向こうにはサンライフ光都が聳え、異世界感を高めている。

街の中心にあるのは新円の空虚な公園。並ぶ石はすべて模造品。シュールだ

 周辺には大学や研究機関が立地しているが、相変わらず街(とも言えないが)に人影はなく、クルマがまばらに通るだけだ。

 サンライフ光都をはじめ、テクノポリスには集合住宅や戸建て住宅が存在する。緑豊かで店舗はほとんどなく、研究に没頭するには最適な環境と言えるが、当初目標の人口2万5000人に対して、現在でも人口は1500人に満たない。

こちらはテクノポリス唯一の商店街「光都プラザ」

 現在、播磨道は全線が開通し、山陽道と中国道を連結している。交通量の多い山陽道が事故などで通行止めになった際は、中国道への迂回路となる。昨年9月に発生した山陽道・尼子山トンネル火災事故の際は、3カ月以上の通行止め期間中、迂回路として機能した。全線開通後のデータはまだないが、恐らく交通量も多少増えただろう。

 しかし今回、全線走ってみて、改めて「なぜここに通したのか」という思いが沸いた。播磨道沿道には、テクノポリス以外、街らしい街がひとつもない。播磨JCTは鳥取道に直行できる位置なのに、なぜかテクノポリスからルートが東に逸れて大回りもしている。いったいなぜなのか。

 播磨道の計画概要が決まった1987年当時、高速道路のルートは、建設省道路局が闇の中で決定していた。播磨道の謎は、地味すぎてほとんど誰も興味を抱かないまま、闇に葬られつつある。

 2019年、国交省は、播磨道の暫定2車線区間のうち、播磨JCT-播磨新宮IC間を10 ~15年後をメドに4車線化する優先整備区間に選定する方針を発表した。理由は「事故防止の観点」となっている。

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