理想汽車は初のBEVの「MEGA」で新たな顧客層を取り込むもくろみが裏目に出た。写真は同社が建設を急ぐ超急速充電ステーションで充電中のMEGA(理想汽車ウェブサイトより)

中国の新興EV(電気自動車)メーカーの理想汽車(リ・オート)は、同社初のBEV(訳注:バッテリーだけを動力に使うEV)である高級ミニバン「MEGA」を3月1日に鳴り物入りで発売した。だがその直後から、MEGAだけでなく既存車種を含めて販売に苦戦している実態が明るみに出た。

「BEV投入のタイミングを読み違えた」——。理想汽車の創業者でCEO(最高経営責任者)の李想氏は、3月21日に全社員宛てに送信した社内メールの中で異例の反省の弁を述べた。

同社は2015年の創業以来、「レンジエクステンダー型EV」に特化して競合メーカーと差別化する戦略をとってきた。これまでに3車種を投入し、2023年の販売台数は37万6000台と新興メーカー群のトップを走る。

(訳注:レンジエクステンダー型EVは、航続距離を延長するための発電専用エンジンを搭載したEVを指す。中国の販売統計上はPHV[プラグインハイブリッド車]に分類される)

「年間80万台」は達成不能

レンジエクステンダー型EVで築いたブランド力や販売体制を基盤に、理想汽車は満を持してBEVに参入。MEGAを含めて2024年中に4車種の新型BEVを発売し、年間販売台数を2023年の2倍超の80万台に引き上げる強気の目標を掲げていた。

ところがMEGAの発売から1カ月もたたず、同社はこの目標を諦めざるを得なくなった。理想汽車がSNS(社交サイト)の公式アカウントを通じて発表した販売速報によれば、同社の3月1日から17日までの販売台数はMEGAを含めて1万8200台にとどまり、不振が鮮明になったためだ。

メーカー希望価格が55万9800元(約1177万円)からという高価格にもかかわらず、理想汽車はMEGAの販売目標を月間8000台に定めていた。しかし高級ミニバンの市場はそもそもニッチだ。このカテゴリーで最も売れているトヨタの「アルファード」でも、(中国市場での)年間販売台数は2万台に満たない。

理想汽車は3月1日のMEGAの投入と同時に、レンジエクステンダー型EVの「Lシリーズ」3車種をマイナーチェンジし、2024年型モデルとして発売した。ところが3月の商戦では、2023年まで絶好調だったLシリーズの売れ行きまでもが落ちてしまった。

「わが社の販売部門は(MEGAの発売準備に注力するあまり)、Lシリーズの顧客向けに割くサービスの時間と精力を大きく減らしてしまった」。前出の社内メールのなかで、李CEOはそう率直に判断ミスを認めた。

理想汽車のレンジエクステンダー型EVは、競合メーカーの激しい追い上げにさらされている(写真は同社ウェブサイトより)

Lシリーズの販売減速の背景には、レンジエクステンダー型EVの競合車種が台頭してきた影響もある。なかでも理想汽車に脅威を与えているのが、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が中堅自動車メーカーの賽力斯集団(セレス)と共同で立ち上げた新興ブランド「問界(AITO)」だ。

問界の2024年1月から2月までの販売台数は、(BEVとレンジエクステンダー型EVの合計で)同じ期間の理想汽車の販売台数を上回った。

失地回復へ戦略見直し

MEGAの不発とライバルの追い上げを受け、理想汽車は2024年1~3月期の販売目標を下方修正した。具体的には、10万~10万3000台としていた目標を7万6000~7万8000台に引き下げた。

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マーケティング戦略の見直しにも着手した。李CEOは3月11日、MEGAのユーザーにより良いサービスを提供する(ことで顧客満足度を高める)ため、急速充電ステーションの建設を加速する方針を打ち出した。

さらに、翌3月12日にはLシリーズの実売価格を5000元(約10万5100円)値下げしたほか、売れ筋の「L7」と「L8」に廉価グレードを追加すると発表。失地回復に向けたテコ入れを急いでいる。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は3月21日

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