10年以上の時を経て日本市場にもどってきたトライトン(写真:三菱自動車)

三菱自動車が新型「トライトン」を2024年2月に発売、3月にテストドライブができた。

全長5.4mと大きめサイズのピックアップトラックだが、操縦感覚は“意外”だった。それに加え、導入の動機も“意外”だったのだ。

一説によると、三菱自ではトライトンをベースに、次期「パジェロ」を開発中とか。メーカーの確認はとれなかった(「言えません」とのこと)が、それもありうるかなと思える出来だった。

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並行輸入が主だったピックアップトラック市場

トライトンのような1トンクラスのピックアップトラックといえば、主市場はアメリカ大陸とか、アジアとかアフリカとか。舗装されていない道へ分け入り、建築資材や家禽類などを運ぶ姿をいろいろな場面で見かける。

日本では、一部の好事家が並行輸入車を入手して乗ってきた。ただし、1トンピックアップを日本の山林で使うには、サイズが大きく、マリンスポーツに使ったりキャンプに出かけたり、趣味のクルマとして買われるケースが多い。

おもしろいのは、並行輸入されたピックアップトラックには、トヨタ製とか日産製とか、日本メーカーの製品が多いこと。

いわゆる「フルサイズ」と呼ばれるサイズのトヨタ・タンドラ(写真:TOYOTA USA)

北米トヨタの「タンドラ」など、もっとも大きなモデルでは全長が6.2mを超える。日本ブランドをかかげたガイシャ。それが路上で見かけるピックアップトラックだ。

一方、“もうひとつのSUV”として、日本でのピックアップの可能性にまっさきに注目したのがトヨタだ。2017年に「ハイラックス」を発売。北米ではスモールピックアップに分類される大きさとはいえ、全長5.3mの車体は、日本では十分に大きい。

ハイラックスはかつても日本で販売されていたが、2004年に6代目の販売が終了したあと、10年以上にわたり空白期間があった。そして、2017年に改めて投入されたのが、今回の8代目。全高も1.8mを超えるから、路上で遭遇するとけっこうな迫力で、気分的にたじろぐ。

日本市場では唯一無二のピックアップとして独自のポジションを確立したが、トヨタとしてみれば「ランドクルーザー」シリーズが売れればよくて、大きめサイズのピックアップのマーケットは限られているから、当初は日本での販売にあまり乗り気でなかったそう。

トヨタ・ハイラックスは日本で唯一のピックアップトラックとして根強く売れている(写真:トヨタ自動車)

乗る側にしてみると、2.4リッターのディーゼルエンジンはトルクがたっぷりあって扱いやすいし、乗り心地も硬すぎず、「こういうクルマもアリだな」と思える説得力をもっている。

トラックというボディ形状も、子どもの頃“はたらくクルマ”が好きだった人には、アピール力が強い。それも事実といえる。

こうしてハイラックスが下地を作ってくれた市場に今回、登場したのが、三菱自の新型トライトンだ。トライトンも、ハイラックスのように歴史が長いモデルで、海外名「L200」としての初代モデル(日本名:フォルテ)は1978年に登場。現在は第6世代となる。

新型トライトンはGLS(498万800円)とGSR(540万1000円)の2タイプが販売される(写真:三菱自動車)

オフロード走破性と一般道での乗り心地の両立

トライトンは、2.4リッターディーゼルエンジンに6段AT搭載のクロカン型4WD。ボディサイズは全長5360mm×全幅1930mm×全高1815mm(上位モデルのGSR値)で、パワートレインといいディメンションといい、ハイラックスと多くの点で近い。

しかし、ハイラックスが競合でありながら、トライトンはまったくちがうマーケットを対象にしている。

「トライトンはドライブモードが7つあり、オフロード走破性が高いと同時に、一般道での乗り心地のよさにも自信を持っています」

三菱自動車商品戦略本部の増田義樹チーフプロダクトスペシャリスト(CPS)は、山梨県は本栖湖周辺でのテストドライブの機会に、そう語った。

ドライブモードの選択時にはグラフィカルな表示が現れる(写真:三菱自動車)

それにしてもなぜ、これまでそれほど大きくなかったマーケットに、三菱自がトライトンを“あえて”持ち込んだのだろう。

三菱自が用意したプレス向けの説明をひもとくと、トライトンの可能性について「カスタマイズ」「オフロード」「キャンプ」「ファミリーユース」「アドベンチャー」「レース」「自転車」「バイク」「スノーボード」といったキーワードとともに書かれている。

簡単にいえば、「レジャーユースとしての用途も増加」しているというわけだ。注目すべきは「ダカールラリーで鍛えた4WD性能・堅牢性・信頼性といった“パジェロDNA“を継承」していると強調される点だ。

水平基調のインストルメントパネルはどこか歴代パジェロに通じる雰囲気がある(写真:三菱自動車)

「実際、購買層の中には、これまでパジェロオーナーだった方もいらっしゃいます」と前出の増田CPS。

パジェロの技術志向の作りは、一定のファンを獲得してきた。ところが、欧米の排ガス基準への適合のむずかしさなどを理由に、2019年に生産終了。それでもパジェロのレガシー(遺産)は健在で、三菱自では「パジェロで培った」とうたう独自の4WD技術をトライトンに搭載している。パジェロの「新世代の代役がトライトン」とみることもできるのだ。

洗練の乗り心地を確認

はたして、トライトンのドライブ。操縦したとき感じる洗練性は、パジェロをはるかにしのいでいた。

富士山麓の絶景を舞台にした試乗ルートをドライブした(写真:三菱自動車)

私が最後のパジェロをドライブしたのは2019年。そのときの記憶をたどると、オフロード性能はともかく、オンロードではラフなところがあり、「このまま改良しないなら生産終了もやむなし」という印象だった。

それに対して、トライトンは乗用車としてみても、まったく問題ない。道なき道で活躍するオフロード4WDトラックというイメージでのぞむと、拍子抜けするぐらい、(ほぼ)全方位的に完成度が高い。

試乗場所のひとつは、山梨・富士ヶ嶺(ふじがね)オフロードという、4WD車の悪路走破性を“楽しむ”ためのコース。岩場あり、砂利あり、かつ急勾配の登り下りと急なターンが連続して現れるような道を走った。

トライトンは「Power For Adventure」を商品コンセプトに掲げていて、クロスカントリー4WDとしての機能が追求されており、先述のとおり「グラベル」「スノー」「マッド」「サンド」「ロック」を含め、7つのドライブモードをもつ。

まず「ロック」にしてみると、おもしろいように斜面を駆け上がっていく。縦揺れがまったくないのにも感心。アンチロールバーがつく前のレンジローバー(1990年ごろ)のすばらしい悪路での乗り心地を思い出した。脚がよく伸びている証拠だ。

斜面であろうともぐいぐい登っていく走破性の高さに感心する(写真:三菱自動車)

トライトンには、曲がりにくいカーブや滑りやすい路面において車体の動き(ヨー)を感知して駆動力を制御する「AYC(アクティブヨーコントロール)」が採用されている。

かつての「ランサーエボリューション」の技術を応用したのだそう。これは「感知しにくいですが、けっこう低い速度でも作動しています」と三菱自で4WD車の開発をになうドライバーが教えてくれた。

万能な「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」

さらに「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」という、駆動方式切り替え式の4WDシステムも搭載。負荷の少ない路面用「2H」から、2輪が浮く悪路でもぐいぐい進んでしまうローギア直結、かつセンターデフをロックする「4LLc」まで4つのモードがある。

「脚の伸び」がよくわかるモーグルでの走行シーン(写真:三菱自動車)

ハイギアードのデフロックモード「4HLc」でも、けっこういける。センターデフをロックすることで車輪の空転を防ぐため、2.4リッターディーゼルターボエンジンによる470Nmもの太いトルクとの相乗効果で、「ここ登れるかな……」と不安になるような急勾配の岩場だろうと、まったく問題なくこなす。ドライブモードのトルクコントロールの恩恵もあるだろう。

「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」におけるもうひとつの見どころは、「4Hモードにある」と三菱自。市街地の小さな四つ角などでハンドルをめいっぱい回して曲がろうとするとブレーキがかかったようになる、4WD車によくあるタイトコーナーブレーキング現象の発生を、トルク感応式センターデフによって防ぐのだ。

このトルク感応式センターデフは、パジェロで培った独自技術。「オフロード・オンロード問わず、いつでもどんな状況でも安心してドライブできる」とするメーカーの文言を裏付ける技術とみてよい。

オンロードでの快適性の高さも予想以上で、私には驚きだった。

大柄なピックアップトラックであることを感じさせないオンロードでの走り(写真:三菱自動車)

セパレートシャシーに、後輪用はリーフ型スプリングによる固定式車軸(リジットアクスル)という、まさにクロカン4WDとして悪路走破性に特化したような設計なのに、乗員の姿勢はフラットに保たれていた。

ディーゼルエンジンも、やたらと低回転域でのトルク感を追求するのでなく、ドライバーが期待する常用回転域を重視した設定で、乗用車的。市街地から高速道路にいたるまで扱いやすいのに感心する。

ハンドルは操舵のあと、自然に中立付近に戻るキャスターアクションがしっかりある。クロカン4WDではあえてキャスターアクションを抑えているモデルもあるけれど、トライトンはここも乗用車的で、私にはたいへん扱いやすかった。

2ステージターボチャージャーを搭載する新開発の2.4リッターディーゼルエンジン(写真:三菱自動車)

新たなSUVの選択肢になる可能性

国内仕様のトライトンは、ダブルクルーキャブといって後席も空間的余裕がたっぷりある4ドアのキャビンを持つ。静粛性も高くて、なるほどこれならファミリーユースにも適していそう(乗降はちょっと大変だが)。

荷台は、奥行き1525mm×幅1470mm(GSRの値)。荷台を覆うトノーカバーには手動式も電動式もあり、さらにキャノビーもオプションで用意されている。

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「三菱自動車のコアモデル」とうたわれるトライトン。こういうクルマを「日常使いに」という三菱自の提案、北米ならぬ日本でどこまで受け入れられるだろうか。大きなボディサイズさえいとわない人ならば、きっと新しく楽しい日常が待っているに違いない。

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