旅行や仕事で訪れた場所のバスターミナルに立ち寄って、どんなバスが来るのか暫く観察したり、あるいは乗ったりしてみると、その土地ならではの味わいが見つかって楽しいものだ。

文・写真:中山修一
(阿蘇周辺バスウォッチの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■九州・阿蘇の交通拠点といえば

JR阿蘇駅。写真左奥に阿蘇駅前バス停がある。「ウソップ」と聞いてビビッと来る向きは要チェック!?

 2024年9月下旬の日曜日、九州の阿蘇にいた。この周辺の観光利用を含めた公共交通の拠点的な役割を持つのがJR阿蘇駅で、よりマクロな移動をカバーする路線バスの乗り場も併設されている。

 停留所名はそのまま「阿蘇駅前」。ここには都市間バスや路線バス合わせて9路線ほどが出入りしている。路線の数を物差しにするなら、“拠点”と言えどローカル・のんびりした佇まいだ。

 そんな阿蘇駅前バス停にはどんなバスがやってくるのか。大都会のバスターミナルのような、ひっきりなしにバスが往来する場所でもないので、姿を見せるバス車両はポツポツ、といったところ。

 同地域で路線バス網を広げるのは、熊本県を拠点とする民営バス事業者の産交バス。白地に青のツートンカラーに塗られた車体のクルマが、周辺地域へのアクセス手段を担う一般路線バスの目印だ。

阿蘇駅前バス停に停車中の小型路線車(日野リエッセ)

 ここでふと気になったのが、阿蘇駅前まで来る際に乗ってきた産交バスのクルマもそうだったが、路線車仕様のマイクロバスや小型路線車が凄く多い印象。駅前に現れた路線車はトヨタ・コースターや日野リエッセといった、小さめの車種のみ。

 滞在中、都会でおなじみの中型や大型路線車は見かけなかったので、もしかすると限りなく0台の可能性もある。阿蘇の路線バスといえば小型、という点が特徴の一つに数えられそうだ。

■大型路線車がいない代わりに……

 では、阿蘇駅前は大型バスと無縁なのか?と思えばそうでもなく、大型路線車が(殆ど?)いない代わりに、長さ12mクラスのハイデッカータイプの車両が目立つ。阿蘇といえば有名観光地なので、通りすがりのツアー観光バスかな?と見せかけて、その正体は全くの別物。

 阿蘇で特に知られている観光スポットといえば阿蘇山。駅からも山がよく見えるくらいの距離で、山頂付近まで道路が整備されているのもあって、アクセスバスが駅から出ている。その車両に使われているのがハイデッカー車というわけだ。

阿蘇山へは大型高速車(写真はヒュンダイ製)がご案内

 阿蘇山へ向かうのは産交バスの「阿蘇火口線」と呼ばれる路線で、目的地の性質を考えれば、ほぼ観光向けのバスと考えて良さそう。車両的には高速バスと同じ形をしているものの通る道は一般道のみなので、これも一般路線バスの仲間に入る。

 マイクロバスや小型路線車が、周辺市街地の交通網をサポートする生活用の路線バス車両だとするなら、大型ハイデッカー車は観光用の路線バス車両と、車種の線引きがハッキリしているのも特徴か。

■阿蘇駅のスター路線

 その日は阿蘇火口線で終点の阿蘇山上ターミナルまで行く必要があり、移動がてらバスの様子をうかがうことにした。天気がよかったので利用にあたっての条件は最高。

 阿蘇火口線は平日・土日祝の時刻が共通で、9:55〜14:55までの間に8本の山上ターミナル行きが出ている。昼間しか走らないあたり、本気で観光利用に特化したバス路線であるのが見てとれる。

ぐりぐりと坂を登って山を目指す

 阿蘇駅前は基本的にローカル線のゆったりした雰囲気に包まれていて、バス停付近に誰もいなくなるタイミングすらある。ところが、この阿蘇火口線の出発時間が近づくと様相が一変する。

 ぼちぼち並んでおこうかな? と、バス停で既に3人くらい待っていた最後部に立って、数分後ふと後ろを振り返ると「今までどこにいたんですか?」と言わんばかりのバス待ち大行列がドバーッと出来ているもんだからビックリ。

 阿蘇駅前を出るバスの中でも、やはりこの阿蘇火口線がダントツの利用率を誇っているとみた。これは早めに並んでおくのが無難かも。

 ちなみに訪問時点では交通系ICカードに対応していたのだが、2024年11月16日〜2025年3月上旬にかけて、タッチ決済へと移行する関係で今は使えなくなった模様。

■まさかの“アレ”の出番!!

 山へ向かうバスゆえに、道中のほとんどが上り坂。向かう最中に景色をジックリ眺めるなら、進行方向右側がオススメ。高度を稼ぐにつれて、阿蘇の街を見下ろす超パノラマが広がり圧巻。

バスからの景色に不足ナシ

 阿蘇駅前〜阿蘇山上ターミナルまで約15kmあり、一般路線バスとしては中距離クラスに足を踏み入れる。それに対して停留所の数は全部で6つと、極めて少ないのが観光路線らしい特色。

 途中の「草千里阿蘇火山博物館前」という停留所に、一般車向けの大型駐車場や各施設が揃っている。しかしこのバス停と駐車場とのアプローチに同じ道を使っており、その駐車場が混雑していたため、交通戦争とは無縁そうな山の上に来て施設内渋滞が起こるという珍妙な光景に出会した。

正真正銘の満員御礼

 さらにこの博物館前から山上ターミナルまで行く利用がかなりあった。いよいよバスの席が全部埋まってしまったため、小学校の社会科見学か?と思わせるほど使う機会の少なそうな補助席の出番がやってくる、これまた物珍しい一幕も。

■運転手さんに言われた予想だにしない一言

 阿蘇駅前を出て阿蘇山上ターミナルへは時刻表通りなら所要時間35分。当日は前述の渋滞に巻き込まれた関係で7分ほど遅れて到着した。運賃は1,000円と場所柄ちょっとお高め。

終点の阿蘇山上ターミナル

 バスを降りる際、運賃を支払いつつ運転手さんに軽く挨拶をすると、こんな質問を投げかけられた。

「日本人ですか?」

……え? そういうのドイツとかアメリカとか行った時なら同じ経験ありますけど、阿蘇山って日本でしょ!? 日本でそれ聞かれたのは新しいパターンだねぇ。

 確かに阿蘇駅前のバス停に来てすぐ気付いたのが、日本語があまり聞こえてこないという点。インバウンド、特に中国語が中心な印象で、バスの車内もほぼ同様だった。

 運転手さんに聞くところによれば、1日少なくとも300人は乗客をさばくけれど、バスを利用する殆どが中国語圏からのインバウンド客らしい。熊本エリアは中国語圏に人気があると聞いたことはあったものの、現地へ来て改めて噂は本当だと実感した。

 少し昔、爆買いが流行った頃のような、目も当てられない来訪者(あの頃ホテルバイキングでバッティングすると地獄絵図だったよ)は2024年現在にはかなり解消されて、観光で来るのはお行儀のよい人たちばかりなのは間違いない。

 とはいえやはり言葉の壁があり、意思疎通がなかなかうまく行かない問題がどうしても付いて回るため、気疲れが大変なのだそう。それもあってネイティブな日本語を聞くと、凄くホッとするのだとか。

 有名観光地が「世界的な」を冠すると、日本なのに日本人がレアキャラ化することだってあるのね。

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