ガソリン価格が高止まりするなか、2024年10月の衆院選で少数与党となった国民民主党の求めにより、「トリガー条項」の凍結解除が注目されています。トリガー条項とは、国民生活に大きな影響があるガソリン価格について、高騰するなど一定条件を満たすと、税金の一部を課税しないというもの。もし、この条項が実施されていれば、本来ガソリン価格は「25.1円/L安くなる」はずなのですが、現在は凍結状態。では、一体それはなぜなのでしょうか? また、もし凍結が解除されると、現在の補助金(燃料油価格激変緩和補助金)による価格抑制と比べ、どんなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
文/平塚直樹ガソリン税にはどんなものがある?
トリガー条項は、ガソリンの税金と密接な関係があるため、まずは、現在、どんな税金がガソリンに課せられているのかを紹介します。
まず、ガソリン税には、厳密にいうと「揮発油税」(国税)と「地方揮発油税」(地方税)があります。
現在、それぞれの税率は、揮発油税が「48.6円/L」、地方揮発油税が「5.2円/L」で、合計「53.8円/L」となっています。
ただし、これらには道路財源の不足を理由として設定された「特例税率」、いわゆる「暫定税率」が含まれており、本来であれば揮発油税は「24.3円/L」、地方揮発油税が「4.4円/L」で合計「28.7円/L」。元々の税率よりも「25.1円/L」高くなっています。
この暫定税率は、一時的に課税されるという意味のもので、本来は目的を達成すれば廃止されます。実際、2010年に一旦は廃止されているのです。ところが、すぐに同額分の特例税率が創設され現在も続いています。しかも、当初の使用目的は道路財源だったのが、今では一般財源にも充てられていることで、これを問題視する声も多くなっています。
なお、ガソリンに課せられている税金には、ほかにも石油石炭税と環境税(石油石炭税に上乗せ)の合計「2.8円/L」もあり、これらを合計すると「56.6円/L」が課税されていることになります。
ガソリン税の二重課税とは?
さらに、ガソリン価格には、これらの税に加え、「消費税」もかかっています。しかも、ガソリンの場合、消費税は、本体価格にガソリン税や石油石炭税も含めた合計額に課税。そして、この課税方式が「ガソリン税に消費税を課す二重課税」だと指摘する意見もあります。
たとえば、ガソリン価格(本体価格+ガソリン税+石油石炭税)が150円/Lだとしても、実際にユーザーが支払う金額は、消費税込みで165円/Lとなります。
このうち、特例税率下のガソリン税と環境税が上乗せされた石油石炭税を合わせた税額が56.6円/L、消費税が15円/Lなので、全ての税額は71.1円/Lとなる計算。ガソリン小売り価格165円/Lのうち、43%以上を税金が占めることになっているのです。
よく「ガソリン価格の約半分が税金だ」といわれるのは、このためですね。
税金を引き下げるトリガー条項
そして、今話題のトリガー条項。これは、2010年度の税制改正で導入された制度で、レギュラーガソリンの全国平均価格が「3か月連続で160円/L」を超えた場合に、先に紹介した「暫定税率分の25.1円/Lを課税しない」というものです。
国民生活に大きな影響があるガソリン価格が一定基準以上になった場合に、拳銃などのトリガー(引き金)を引く、つまり「税金を引き下げる」ことで、価格の安定を図ることを目的に制定されました。
資源エネルギー庁のデータによれば、レギュラーガソリンの全国平均価格は、2021年10月4日時点で160円/Lになって以来、ずっと160円/L以上をキープしています。しかも、2023年9月4日時点には186.5円/Lの最高値を記録。その後は多少下落しましたが、それでも2024年はずっと170円/L半ばで高止まりしています。
そのため、本来であれば、とうの昔にトリガー条項は発動されているはずです。資源エネルギー庁が発表した、当記事作成時の最新データ(2024年11月11日時点)では、レギュラーガソリンの全国平均価格は「174.7円/L」ですが、もし発動されていれば、25.1円/L安い「149.6円/L」となっていたはずなのです。
ところが、今のところ、このトリガー条項は凍結された状態となっています。理由は、2011年に発生した東日本大震災の復興財源を確保するため。そのため、レギュラーガソリンの全国平均価格が170円台や180円台となっても、依然として「税金額はそのまま」の状態が続いているのです。
税金の見直しに慎重な「補助金継続」派
こうした背景から、国民民主党などが主張するトリガー条項の凍結解除をはじめ、ガソリン税に関する制度の見直しなどを求める声などが近年増えてきているのです。
ただし、ガソリン税の見直しに関しては、SNSなどを見ていると、慎重派も一定数いるようです。それは、例えば、「ガソリンにかかる税金を減らすと他の税金が増額される可能性が高い」といった理由からのようです。
たしかに、ガソリン税による税収が減ると、「結果的に政府は、そのほかの税金を上げるのではないか?」といったことは危惧されます。国が一定の税収を確保するには、もし継続的にガソリン税を減らす場合、なにか他の財源を増やす、つまりガソリン税以外の税金を増やす可能性は否めませんからね。
そのため、慎重派の中には、現状の補助金による価格抑制を支持する声もあります。もちろん、ガソリンの補助金も税金から出てはいます。でも、たとえば、現在実施されている「燃料油価格激変緩和補助金」では、「170円/L」を超えると発動されるようになっています。そのため、ガソリン価格が落ち着いて、170円/Lを下回れば「補助金は出なくなる=税金も使わずに済む」ことになるのです。
つまり、現状の補助金制度を支持する人のなかには、価格が高騰するなど、国民が必要な時にだけ出す補助金の方が、結果的に「ほかの税金を上げることになりにくいのでは?」といった意見もあるようです。
ともあれ、ガソリン価格の高騰が今後どれくらい続くのかや、政府がそれに対しどんな対策を行うのかなど、今後の動向に注目したいところですね。
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