全国に25,000以上あると言われるバス路線。その中でも、県境を跨いで走る一般路線バスの数は極端に少ない。そんな県境越えバスの様子を見に行くシリーズの第16弾目くらい……かな!? で、今回注目するのは日田バス「杖立線」だ!!
文・写真:中山修一
(日田バス杖立線の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■九州にもある県境越えバス
そのまま県境を越えてくれる路線バスは珍しい部類に入るといえど、北海道と沖縄県を除けば各都府県にポツポツ見つかるもので、それは九州にも当てはまる。
大分県と熊本県を普通の路線バスで抜けようとするなら、何種類か違うルートを組めるとは思うが、その中の一つに、まず大分県の日田へ向かう手がある。
ここから熊本県方面を目指す県境越え系路線バスが出ており、地元の民営バス事業者・日田バスが運行している「杖立線」がそれにあたる。
■1930年代開業の名門路線
杖立線は、日田バスターミナル〜熊本県の杖立(つえたて)間およそ28kmを結ぶ一般路線バスだ。
杖立線の歴史を軽く見てみると、現在の日田バスのルーツである日田自動車が発足した1936年当初からあったそうで、その正体はすでに80年以上の歴史を重ねた名門路線だった!
数あるバス路線の中でも歴史的に見て重鎮、かつ日田から熊本県に直通している唯一の一般路線バスという希少性まで持ち合わせた杖立線であるが、経歴のかっこよさと利便性の高さが比例しないのは、公共交通機関の法則通りかもしれない。
平日4本・日祝3本というダイヤ設定で、足に合った靴を選ぶのではなく、足を靴に合わせる使い勝手に関しては、他の県境越え系バスと似たような感じか。
■ステキなバスターミナルが出発点
杖立線に乗るには、JR日田駅の向かいに建っている日田バスターミナルへと足を運ぶ。以前は日田バスセンターと呼ばれていたこのバス乗り場、2019年のリニューアルの際に改称したそうだ。
ターミナル内を見回すと、インバウンド需要まで意識しているようでキレイなまとまり。とはいえ施設の全体的な作り自体は昔ながらの味わい。
ベンチとコインロッカー、ドリンク自販機の置かれた待合スペースのほかトイレはもちろん、お土産・生鮮食料品店、薬局、うどん店がテナントで入っている。
直管蛍光灯シェイプの照明が天井から室内を照らし、樹脂製の看板がぶら下がる景色もまたレトロチック。
何やら昭和時代の複合施設を思い起こさせる、懐かしくも感じの良い佇まい。こういう、ちょっとした旅情を誘う場所が出発点だと、バスに乗るのがより楽しみになってステキだ。
■切符でも乗れるバス
杖立線はターミナルの1番乗り場から出ている。バスが来るまでの間、ふと目に止まったのが乗車券の自動券売機。
福岡方面などへの中距離都市間バスも発着しているので、それ用の切符かな?と、思いきや、よく見ると一般路線バスの乗車券も用意されていた。
杖立までの運賃は1050円。車内での現金払いもできるが、紙の切符で路線バスに乗るのも珍しい気がして、切符を買ってみることにした。
■街を出て、寄り道しながら山奥へ
この日田ターミナルが始発で、出発時刻の6分ほど前に杖立線のバスが入線してきた。後ろのドアから乗って前ドアから降りる運賃後払い方式だ。
車両は中型路線車のいすゞエルガミオ。日田バスは西鉄グループでもあり、当日やってきたエルガミオは白地にパステル系の縦ラインが入った、いわゆる西鉄カラーだった。
バスが発車した時点で合計3名の利用者があった。メインストリートを抜けて日田の街を後にすると、だんだんと建物の数がまばらになり始め、着実に郊外へとコマを進めているのが見て取れる。
しばらくするとバスは少し寄り道をして、高台の上に建っているサッポロビール九州日田工場へと一旦向かう。
ここには観光向けのビール工場見学コースがあるほか、アニメや実写映画化もされた有名漫画作品のミュージアム別館が近くに建っており、そこへのアクセスにも杖立線が使えるようだ。
杖立線的には工場から先が本領発揮の区間かもしれないが、ここでお客さんが2名下車していき、車内に他の乗客は誰もいなくなった。
■山間の川沿いをひたすら走る
バスが工場のある高台を下りると、大山川と呼ばれる川沿いを縫うようにして通る国道212号線を、ほぼ道なりに進んでいく。
途中、民家のあるエリアを経由するため、メインルートを少し外れて狭い道にあえて入っていく猫みたいな挙動は、(利用している側からすれば)より路線バスが楽しくなる醍醐味の一つで、この杖立線でも堪能できる。
車窓から見える景色も進めば進むほど緑が増えていき、ますますローカル路線バス旅然とした空気感に包まれる。行程の終盤に現れるダム湖・梅林湖をからめた風景は必見だ。
大分県と熊本県の県境はどこにあるのか。バスの経路では、終点の少し手前が境界になっているようだ。
後日マップで距離を測定したところ、熊本県内の移動距離は350mだった。アウェー側の運行区間が“ちょろっと”しかないのは県境越え系バスのお約束。
神奈中が運行している「三56系統(神奈川県→山梨県)」の、山梨県内約50mとまでは行かないにせよ、1kmを切る路線は中でも短い部類に入る。
■スルーしてしまうには惜しい場所
日田バスターミナルを出て1時間ほどで終点の杖立に着いた。買ってあった切符を運転手さんに渡して下車。
降り立った杖立は温泉地だった。「杖立温泉」というキーワードは事前に見ていたものの、山深そうなので人里離れた秘湯系かな? と予想した。
実際のところは山と山を川が隔て、その両脇に旅館やホテルが立ち並ぶ、まさに理想の温泉街といった佇まい。
この日はさらにバスを乗り換える行程を組んでいたため、20分ほどしか滞在できず。スルーしてしまうには惜しい場所だったか。
杖立に到着した際に、日田バスの方と少し話をする機会があり、杖立線は景色の良い所を通る路線で、特に紅葉と桜のシーズンがオススメなのだそう。
今度はその時期を狙って、杖立の温泉街を目当てに、またこのバスで来ると凄くイイかも……一回乗っただけでオシマイにはさせない、並々ならぬリピート力を杖立線に感じた。
【バス路線の基本データ】
日田バス 杖立線(日田バスターミナル〜杖立)
・跨ぐ県:大分県 → 熊本県
・移動距離:約28km
・所要時間:59分
・運賃:1050円
・停留所の総数:41
・熊本県内の区間距離:約350m
・熊本県内の停留所の数:1
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