経済的なコンパクトカーが数多く登場した1970年代初頭、ホンダは初の大衆車としてシビックを投入。そのシビックをベースとしたスポーツモデルが1200RS。中古市場にほぼ現われない超希少モデルをプリウス武井が試乗レポート!!
※本稿は2024年10月のものです
文:プリウス武井/写真:中島仁菜
車両協力/BLUE AUTO
初出:『ベストカー』2024年11月10日号
■ホンダのスポーツコンパクトの先駆け
昭和の名車、ホンダ・シビック1200RS。名前からして「え、1200ccクラスでスポーティなことある?」と思うかもしれないが、実はこのクルマ、見た目も性能も予想を裏切っている。
なんせ「市民のために作られた」クルマにモータースポーツへの情熱を反映しちゃったという、ちょっとした矛盾を抱えている。
1970年代初頭、ホンダは新しい小型車であるシビックを発表。高度経済成長が終わりにさしかかり、国民の所得水準が上昇するなかで、クルマは一般家庭でも身近な存在となった。
1973年に起こったオイルショックで、世界中でエネルギー危機が騒がれ、自動車メーカーにとって燃費効率の高いクルマの開発が急務となった。小型で燃費のいいクルマは、当然、消費者の購買意欲を刺激する。この背景のなかでシビック1200RSは市場投入された。
RSは、ホンダのスポーツコンパクトカーの先駆けであり、その後のシビックシリーズのスポーティモデルに影響を与えた。
当時、軽量でパワフルなエンジン、優れたハンドリング、そして斬新なデザインで多くのクルマ好きから支持を集め、また、この時期に国内モータースポーツ活動にも注力していたホンダが技術と情熱を市販車に反映させた。
その後のシビックタイプRなど、後のホンダのスポーツモデルの礎を築いたと言える。
今回、ここで紹介する個体は、1975年(昭和50年)モデルで現在(取材当時)、絶賛販売中。走行距離は不明(現オドメーターは6万3500km)だが、1991年にホンダ技研サービスセンターでエンジンオーバーホールを実施している。
ボディは経年劣化を感じさせないほど鮮やかでオレンジ色が眩しい。また、インテリアの劣化も軽微で保存状態は良好。そして今では必須となったETCやバックモニターも付いている。
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■オーバーホール済みのエンジンは超元気!
早速、試乗に向け運転席に乗り込んだ。コンパクトなボディなのにコクピットに圧迫感がない。ガラス面が広く感じて前方の視認性に文句はない。
シートはオリジナルから別のシートに変更。リクライニング付バケットタイプでホールド性は充分ある。前後スライドは14センチほど可動するので誰でも運転できる仕様だろう。
イグニッションキーでセルを回した瞬間にエンジンが「ブォン!」と元気に目を覚ます。アクセルを踏みブリッピングすると「オレはまだまだ現役だぜっ!」と言わんばかりに軽快なレスポンス。真夏にもかかわらず始動性は抜群でアイドリングも安定している。
クラッチペダルを踏みギアを1速に入れる。ペダルは軽く、着座位置からのペダル配置が意外といいから、足元の操作に気難しいところはない。駆動の伝わる感覚もわかりやすいので、マニュアルに不慣れな方でも少し練習すれば、コイツと仲よくなれるはず。
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■50年前のクルマとは思えない走り
今回も一般道と高速道路でインプレッションを展開する。走行し始めてすぐに感じたのは、ハンドリングが想像以上にシャープなこと。この年代では珍しくラック&ピニオンが採用されていることも理由かもしれない。
前輪駆動レイアウトとスポーツチューニングされたサスペンションのおかげで、コーナリング時の安定性が高く、安心して曲がれる。
サスペンションは、4輪ともマクファーソンストラット式サスペンションで構成された全輪独立懸架。これにより軽快なハンドリングと乗り心地をバランスし、ワインディングやタイトなコーナーでも的確なコントロールが可能になっている。
実際、旋回性を試してみるとロール量は大きいが、サスペンションがしっかり動いている。足が硬くなるとタイヤに負担がかかりシビアな挙動になるので、街乗りならノーマルサスペンションのほうがバランスがいいと実感した。
高速道路に入り毎度のごとくアクセルを思いきり踏み込んだ。エンジンフィーリングは最高! 7000rpm付近までスムーズに吹け上がり、色あせた初老どころか今でも現役バリバリの色気すら感じさせるイケオジという印象。
最高出力は76馬力だが、アクセルONで俊敏に加速するのは、車両重量が軽自動車並みということも理由のひとつだ。軽量な車体も相まって、ブレーキ性能も申し分ない。
フロントにはディスク、リアにはドラムブレーキが装備されていて、当時のコンパクトカーとしては充分な制動力だ。高速走行において直進安定性は古さを感じさせないほど楽にドライブできる。高いスピード域になると若干不安定にはなるが、1970年代の大衆車に優れたエアロダイナミクスを期待してはいけない。
F1で世界に旋風を巻き起こした本田技研のエンジンは、50年近く経った今でも一般的な日常の運転だけでなく、よりアグレッシブな走行にも対応できることに、ただただ驚かされる。
1200RSは、中古車市場でほとんど登場することのない希少な絶版車。しかし、今なら(取材当時)この個体が購入可能だ。
快適な装備は付いてないけど、旧車には現代のクルマにない魅力が詰まっている。壊れそうなクルマがこんなに高いの? と疑問を持つ方もいると思うが、そういう方には旧車をオススメはしない。そこにはお金で買えないロマンがある。
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■EB-1型エンジン探索
本田技研工業が製造したEB-1型エンジンは、主に小型車に搭載されたエンジンのひとつで、1960年代から1970年代にかけて多用された。
シビック1200RSに搭載されたEB-1型エンジンは、1200RSモデル用にチューンされ、当時のスポーツモデルにふさわしい性能を持つエンジンとして設計。最高出力76馬力(6000rpm)、最大トルク10.3kgm(4000rpm)を発揮。軽量な車重を武器に最高速度は160km/hを公称。
ちなみに計算上では5速で6000rpmまで回せれば195.6km/hまで誘なう。この個体は平成3年(1991年)にホンダ技研サービスセンターにてエンジンオーバーホールを実施している。
●1975 HONDA CIVIC 1200RS 主要諸元表
・全長×全幅×全高:3650×1505×1320mm
・ホイールベース:2200mm
・車両重量:695kg
・エンジン形式:水冷直列4気筒SOHC
・総排気量:1169cc
・最高出力:76ps/6000rpm
・最大トルク:10.3kgm/4000rpm
・ミッション:5速MT
・駆動方式:FF
・ステアリング:ラック&ピニオン
・サスペンション:前後)ストラット式独立懸架
・ブレーキ:前)ディスク 後)リーディングトレーリング
・タイヤ:前後175/70SR13(標準155SR13)
・新車時販売価格:76万5000円
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