目的地は目と鼻の先、でも海が隔てていて陸路だと凄く遠回り……そういった場所で絶大なパフォーマンスを披露してくれるのが海上交通だ。便利さはわかっていても、お手軽かっていえば……ちょっといかがな感じだろうか。
文・写真:中山修一
(端っこ系フェリー乗り場と交通機関の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■海路がつなぐ熊本県と長崎県
背中合わせになっているわけではないものの、お互いが肉眼で見える位置関係にあるのが熊本県と長崎県。両県の間には、干潟とムツゴロウで有名な有明海が広がっている。
陸路で行こうとすると、地形の関係から福岡県と佐賀県を経由して大回りする必要があり、ゆうに100kmを超えるロングトリップが自動的に付いてくる。
そこんところ海を真っ直ぐ進んでショートカットできないの? と考えるのは、やはり自然な流れと見えて、有明海には海上交通が割と充実している。
とりわけ距離的に近い、長崎県の島原半島と熊本県の対岸とを結ぶ航路が複数用意されていて、この中には国内最速クラスの超高速カーフェリー(航海速力30ノット)が含まれているのもポイント。
■有明海航路の端っこ
ここで注目してみるのは西寄り、各所から出ている有明海フェリー航路のうち、最も端っこをカバーする島原鉄道のフェリーだ。
熊本県側の港は、マップで見ると一瞬半島のように見えるものの、実は離島の天草にある。
大まかには東側の上島と、西側の下島に天草のエリアを分けることができ、フェリーが発着しているのは後者。鬼池港という港が乗り場になっている。
長崎県側は島原半島の南端部分。その昔、キリスト教の布教拠点が置かれ、明治時代には石炭の積出で賑わった口之津(くちのつ)港が発着場所で、このフェリーの拠点でもある。
■クルマで行くのも大変?
朝6時台〜18時台まで、45分もしくは1時間おきに船が出ており、鬼池/口之津どちらも同じ時刻に出帆する運航ダイヤが特徴。
全長48m・500〜600トンクラスで350人乗りの船が就航していて、距離およそ8.4kmを約30分で結んでいる。
とうぜん自動車も積める、というより実質的に人を自動車ごと運搬する移動手段な性質が強い気もする。
しかしこの口之津〜鬼池航路、なにしろ端っこゆえに、地元民でない限り港へ行くまでが結構遠いのだ。
島原半島へ陸路で向かうより近いとはいえ、同じ熊本県でも熊本の市街地から鬼池港まで何と92km離れており、クルマで行くのもちょっと大変な距離感だったりする。
■そのフェリーに徒歩で乗りたい
距離的な面はともかく、それでもマイカーやレンタカーを使えば難なく利用できる乗り物ではある。
一方、このフェリーにクルマなし・徒歩乗船しようと思った場合どうなるか。もちろん徒歩乗船自体には対応していて、運賃500円にサーチャージ40円を加えた540円で利用できる。
問題は鬼池港までの足だ。鬼池港に最も近い市街地から12km、歩いて港へアクセスするには過酷なレベルに思えてしょうがない。
2024年の10月、たまたま熊本市街を経由して天草を訪問、用事が済んだ後どこへ行くかは特に決めていなかったが、そのまま来た道を戻るのも何だか味気ない感じ。
さらに先へ進めないのかと模索していた際に島原鉄道のフェリーを見つけ、これは是非! なんて考えたと同時にアクセス可能な公共交通機関を探す流れになった。
■フェリー乗り場への公共アクセスといえば……
フェリー乗り場への公共アクセスとなれば、バスを使う場合が非常に多い。ことに天草の公共交通はタクシーと飛行機以外はバスしかないため、どっちに転んでもバス一択になる。
天草市街地の公共交通の拠点は「本渡バスセンター」。バスがあるとすればココが始発になっていると予想して、とりあえず路線一覧を眺めてみる。
「鬼池港線」を名乗るバス路線はないようで、となれば別の路線名のバスが途中で港に寄る可能性は捨てきれない……じっくり目を通せば願ったり叶ったり、鬼池港へ行く路線が2つ見つかった。
いずれも産交バスが運行している路線バスで、一つ目は「本渡通詞線」。よくよく見ると終点が鬼池港になっていて、路線名と目的地が一致しないタイプの路線だった。本数は1日5本。
二つ目には路線名がなく、富岡港行きと書いてあるバスが、途中で鬼池港に立ち寄る。本渡通詞線よりも本数が多く、両者合わせると大体1時間に1本のペースでバスがあり、それなら行けなくはなさそう。
ところが、バスもフェリーも本数が限られているので、どれも普通に接続するだろと思いきや、待ち時間が12分だったり50分だったり、便によっては2時間以上開いてしまったりと、かなりバラバラ。
猶予が2分とか5分とかの便もあったが、島原鉄道フェリーの公式接続対応表を見ると、待ち時間が10分を切るタイミングのバスは対象外になっていて、これは乗り継ぎ不可と思っておくのが良さそう。
バス/フェリーともに、ある程度狙って乗らないとキレイに繋がらない間柄とみて、ここは事前に調べておくのが無難だったようだ。
■天草では異端のバス?
当日はバスを降りてフェリーが出帆するまで22分の猶予がある、本渡バスターミナルを10時台に出る便を選んだ。
天草周辺の路線バスは、マイクロバスよりも少しサイズの大きい、いわゆる小型路線車が主力で活躍している。
そんな中、バスセンターにやって来た鬼池港経由富岡港行きのバスは、全長9mクラスの中型路線車・日野レインボーだった。
小型路線車勢が占める天草に、まさか中型路線車が在籍していたとは意外。これはこれで場所柄の物珍しさを感じた。
■港までのプチトリップ
距離が少しあるため、後ろ乗り、前降りの運賃変動制が採られているのは全国的によく見られる運賃収受方式だ。
運賃は交通系ICカード(2024年11月以降は利用不可)と、くまモンのICカード、現金から支払い方法を選べる。
このほかに、バスセンターに券売機が置かれていて、紙の切符を買って乗るのもOK。
首都圏のバスに慣れていると、紙のバスの切符は珍しい気がして、1枚買うだけでちょっとしたイベントになってくれる。鬼池港までは600円。
バスが出発すると、天草の主要道路である国道324号線をメインルートに進んでいく。海岸線からやや奥まった場所に道路が敷かれている立地上、車窓からの景色は緑が中心。
途中、「ここ通るの!?」と、運転手さんのドライブテクに感銘を受ける狭隘区間があり、車幅いっぱいのスレスレ感が見どころだ。
鬼池港までの所要時間は28分。プチサイズのローカル路線バス旅といったところ。
とにかくバスを使って目的の港まで来られたので、島原鉄道フェリーに徒歩乗船したい願望は、多少の下調べ推奨といえど、特に問題なく叶えられると実証できた。
ところで、元々5人くらいしか乗っていなかったのもあるにせよ、鬼池港で降りた他のお客さん誰もいなかったんだよねぇ。乗り場にマイカーやトラックは何台か停まっていたゆえ、フェリーってやっぱりクルマで来て乗るのが普通なのかしら??
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