いすゞのバッテリーEVトラック「エルフEV」には、現在リース販売中の量産モデルだけではなく、高電圧バッテリーを交換可能にした「エルフ・バッテリー交換式EV」の開発も進行中だ。このほど、そのバッテリー交換を行なうための実証施設が完成し、取材することができた。

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
図/いすゞ自動車

電動化にまつわる課題解決ソリューションのひとつ

いすゞが同社藤沢工場の構内に設置したECC実証施設

 バッテリーEV(BEV)の課題といえば、短い航続距離、長い充電時間と電力料金のアップ、ディーゼル車より少ない積載量である。車両価格が高い半面、高電圧バッテリーが劣化した経年車のリセールバリューも期待できない。生産財として所有する魅力が少ないことはメーカー自身が認識していることで、国産トラックメーカーではBEV販売をリースに限定しているのが実情だ。

 いっぽうで大手物流企業は、脱炭素化を進めなければならず、温暖化ガスの原因の一つであるディーゼルトラックのCO2排出削減に取り組んでいる。トラックユーザーの課題解決という点でも、メーカーではBEVの開発と並行して、そのデメリットを抑える技術開発を進めている。

 BEVのデメリットを解消するアイディアとして知られてきたのが、実はハイブリッド車(HEV)であり、近い将来の技術としては燃料電池車(FCEV)、レンジエクステンダーEV(LE-BEV)、そして今回のバッテリー交換式EVもそのひとつである。

 いうまでもなくバッテリー交換式EVは、EVのバッテリー充電率(SOC)が減ったら満充電のバッテリーパックと取り換えて運行を続ける、というシンプルなアイディアである。このアイディア自体は50年以上も前から存在し、国内でもBEV化した大型路線バスによる実証実験が行なわれたこともあるのだが、製品化されたことはない。当時は実用性が低かったが、現在はバッテリー性能が向上し、その可能性が日本や米国、中国などで再び見直されている。

 トラックをバッテリー交換式EVとした場合のメリットは、必ずしも高電圧バッテリーが大容量である必要がなくなるので積載量を確保しやすくなり、また、架装物を含むトラックはユーザー所有、バッテリーパックだけリースという扱いにすれば、車両単価を抑制しながらリセールバリューが確保できる……といったBEVにはない優位性を得られる可能性があることだ。

ECCに進入するエルフNPRバッテリー交換式EV

いすゞのバッテリー交換ステーション「ECC」とは?

ECCを構成する設備。建屋は20ftコンテナを流用するが、移動もコンテナ積載車あるいはコンテナトレーラで可能である。ソーラーパネル(太陽光発電パネル)はオプションとして提案する予定

 バッテリー交換式EVの運用で不可欠となるのが、バッテリーパック交換のための設備である。いすゞが開発中の「EVision Cicle Concept(イービジョン・サイクル・コンセプト/略称ECC)」は、エルフ・バッテリー交換式EVが搭載する2基または4基の高電圧バッテリーパックの交換を、4分(2基交換時)または7分半(4基交換時)という短時間で可能にする実証ステーションで、将来は3分または6分へ短縮を目指している。

 交換作業は全自動で、ステーション内の停車位置にエルフEVを停めると、交換装置に合わせたポジションに停車位置を自動補正した上で、「左右同時に」高電圧バッテリーの脱着・交換を行う。左右同時というのは、重いバッテリーパックを左右別々に外すとクルマが傾(かし)いでしまい、迅速な交換作業が困難になるためである。

 この交換時のクルマのポジションというのは意外に重要な課題で、前述の「交換装置に合わせた補正」のための専用装置や、バッテリーパック位置を確認するための画像センシングシステムも、併せて開発している。

 この実証ステーションでは、交換装置2基とおよびバッテリーパック保管庫(ストック7基)を収めた20ftコンテナを、クルマを左右から挟む形で1棟ずつ設置する。計14基のバッテリーパックは、200V普通充電により保管中に充電する。充電時間は掛かるが、電力料金を抑えるためである。

 また、運行中のクルマに搭載しているものを含めて、高電圧バッテリーパック個々の状態をクラウド管理し、次の交換に最適なバッテリーを自動選択することで、計画的かつ効率的、そして低コストで高電圧バッテリーパックを使いまわす全体像を描いている。ただ現時点でクラウド管理システムは開発中だ。

 施設を作動させる電力とバッテリー充電用の電力は、系統電力(電力会社からの電力)を使用する。オプションで太陽光発電パネルをコンテナに設置することも可能だが、あまりパネル面積が大きくないため補助的な電力供給に留まるという。

 ECC実証施設は、同社藤沢工場構内に設置し、構内でエルフ・バッテリー交換式EVを運行する。構内実証期間は来夏までを予定している。

ECCでの高電圧バッテリーパック交換作業の様子。エルフEVのバッテリーパックが載ったブラケットを交換装置が引き出して、さらにパックを取り出す

通常のエルフEVとは違う仕様のバッテリー交換式EV

エルフ・交換式バッテリーEV。写真はGVW5トン・最大積載量2トンのNJR標準キャブ・標準ボディ・フルフラットローのバッテリーパック2基搭載モデル

 エルフ・バッテリー交換式EVは、現行のエルフEVをベースとし、同じ高電圧バッテリー(1基あたり容量20kWhのリチウムイオン電池)を用いながら、かなり異なるクルマとなっている。

 ひとつは、いうまでもなく高電圧バッテリーパックが脱着可能になっていることだが、そのためにパック搭載位置はシャシーフレームの側面左右のみとなっている。通常のエルフEVには、センターバッテリー(シャシーフレームの左右サイドレール間に搭載する高電圧バッテリーパック)があるが、むろん交換困難となるため、「交換式」では搭載しない。

 ただし、バッテリーパック搭載数バリエーションとして2基または4基の設定が可能で、取材時には車両総重量5トン・最大積載量2トンのNJR標準キャブ・標準ボディ(軸距2500mm)の2基搭載車と、車両総重量7.5トン・最大積載量2.95トンのNPRワイドキャブ・ロングボディ(軸距3395mm)の4基搭載車のそれぞれ平ボディ実車がそれぞれ用意されていた。このあたりは多様な小型トラックニーズを知り尽くしているメーカーらしいところである。

 もうひとつは、バッテリー脱着のための特別な艤装を備えていることで、高電圧バッテリーパックをマウントするブラケットが、交換時には側方へ向けて伸ばせる(交換装置で引き出せる)ようになっている。この構造も迅速な交換作業を可能とする設計だ。

 また、シャシーと高電圧バッテリーパックを接続するコネクタや固定装置などの着脱操作は、交換装置とシャシーがBluetoothで情報を交換しながら行なってもいる。なお、バッテリー交換式EVのコネクタやロック装置に関する国内および国際規格は現時点で存在しないため、その設計はいすゞが独自に開発した規格およびメカニズムが用いられている。

 ちなみに、構内用のエルフ・バッテリー交換式EVにはサイドバンパーが着いていないが、前述のブラケットにサイドバンパーを装着することが決まっているとのことで、公道での実証実験デビューもそれほど遠い先の話ではなさそうだ。

エルフ・交換式バッテリーEV。写真はGVW7.5トン・最大積載量2.95トンのNPRワイドキャブ・ロングボディ・高床のバッテリーパック4基搭載モデル

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。