三重県松阪市では毎年この時期に公共交通機関としてのバスへの理解と利用促進を目的に、市内を走る路線バスとコミュニティバスが無料で乗れる路線バス運賃無料デーが実施されている。今年は11月17日に行われ多くの利用者で賑わった。昨年に引き続き乗ってきたのでレポートする。

文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■考えることは皆同じ?

松阪駅では多くの乗客が長距離?路線を待つ!

 今回は午後から乗車した。まずは出発地点であるJR松阪駅だ。駅前のイチョウが綺麗で秋の深まりを感じる。駅ロータリーにバス乗り場がある。まだ出発には時間があるので辺りを歩いていたが、各方面に向かうバス停にはどこにも乗車する人が列を作っていた。

 無料デーのパワーはすごい。また運賃無料デーの告知は各所に掲示され、乗車する人にチラシなどを配布して入口のカードリーダーにタッチをしないように呼びかけていた。

無料なのでカードリーダーは休業!

 最初はスメール行きのバスである。スメールとは市内でも山間部にあたる飯高地域にある宿泊施設のことで運賃は1500円かかるので往復3000円が無料なのはかなりお得だ。この路線は松阪市内で完結するかなり長い距離(運賃が高い)であるためか、考えることは皆同じで狙って乗車する人は多い。バスの到着前には約20人ほどが列をなしていた。

マニアならニヤッとするパッと見はわからないバスも!

 また乗車時には沿線スポットでもある「道の駅飯高駅」で利用できる割引クーポンが配布された。館内の特産品販売所で使える割引クーポンやレストランでのオレンジジュース無料券、温泉施設のタオルプレゼントと盛りだくさんだ。

■いつの間にか続行便が!

松阪駅前

定刻になり松阪駅前を出発した。座席はほぼ埋まっている感じだ。途中のバス停からも多くの乗車があり車内はかなり混雑してきた。バス停の場所を見ていると商業施設に近いバス停からの乗車が多く、自家用車でやってきてバスに乗り換えている人もいるのだろう。

 この時点では後方の様子には気が付かなかったが、市街地を抜けたあたりではバス停の乗客に後続の臨時バスに乗ってもらうように案内していたことからどこかで続行便を手配したようだ。

■祭りに立ち寄るために下車

長距離プラスお祭りで大盛況!

 バスは国道166号線を西へと向かう。車窓にはのどかな田畑風景が広がり、同じ松阪市内とは思えないほどだ。飯南地域に入ったところで、筆者は「赤滝」バス停にて下車した。

赤滝バス停

 「赤滝」バス停は飯南地域にあり、国道368号線と分岐する地点でもある。ここに入ると奈良県を一部通り三重県伊賀市へと移動することができる。自動車はもちろん、ツーリングなのだろうバイクの集団が走り抜けていくのもみえた。筆者がここで降りたのは近くにある飯南産業文化センターで「いいなんふれあい祭り」という秋祭りが開催されているからだ。

お祭りの観客動員は無料バスで!

 毎年恒例の秋イベントで、地元仁柿(にがき)産の綿による糸紡ぎや深野和紙の紙すきを体験できるコーナーや地元物産、お菓子や定番の露店メニューがずらりと並び、多くの来場者で賑わった。報道によれば当日は約3000人の来場者があったという。筆者が到着した時間はステージから大きな歓声が上がっていた。

三重県警も車両展示

 なんでも飯南弁で夢を叫ぼう!コンテストというのが行われていたようで、自分のことや飯南、松阪がどんな街になってほしいか等のさまざまな夢が山々に響いていた。次のバスまでは時間があるので、祭りの最後までのんびりと楽しい時間を過ごすした。

■臨時便が先?

どの便も長距離客で満席

 祭りの後片付けが進む中を再び「赤滝」バス停へと向かう。祭りから帰る人や、再び運賃無料デーを利用して乗車する人など、上下どちらの方向に向かうバス停も多くの人が並んでいた。次のバスは混雑による遅延で約15分遅れでやってきた。そして行先方向表示器は「三重交通」入口横の経路表示もなしだった。

 車内の行き先表示は「道の駅飯高駅」となっていて、どうやら本来のスメール行きのバスに先行して途中の「道の駅飯高駅」までの臨時バスが仕立てられたようだ。車内はほぼ満員であったが各所で少しずつの降車があり、終点近くにはだいたい立って乗っているのは数人という状態になった。

■戻り便に乗り継ぎ失敗!

エルガ1台では無理な時間帯は続行や臨時が出た

 そして終点の「道の駅飯高駅」に到着した。ダイヤ上は少し休憩した後に、松阪駅前行きの復路となるバスに乗れる予定だった。松阪駅前行きのバスは反対方向のバスなのだが、スメールを出発して定刻でやってきたので、遅れていたこちらのバスとはうまい具合に接続できなかった。(要は間に合わなかったということ)

 さらに続行の臨時便も道の駅に入る交差点ですれ違ってしまった。よって定期便にも続行便にも乗れなかったのだ。もっとも戻る便との接続というのは通常は考慮してないので、タイミングが悪かっただけの話だ。

■道の駅飯高駅

デジタルスタンプラリー目的の人はいただろうか?

 到着後に扉が開くと運転士と外にいた係員から、この先の利用者に対して後続でやってきたスメール行きのバスに乗り換えてもらうよう案内がされていた。元々のダイヤではここで5分ほど停車するのだが、遅れていたため乗降を確認したらすぐ出発していった。

 時刻表を確認すると、次の松阪駅前行きの戻り便は17時38分発となっていて、まだ1時間半ほどある。仕方がないのでしばらく道の駅を散策することとした。「道の駅飯高駅」は1990年7月24日に地域の特産品販売所としてオープン。1993年4月22日に全国103ヶ所の施設と同時に、三重県下で最初の道の駅として登録された。

運賃箱も休業中!

 1000年以上も昔、この地方を統治していたのが飯高氏という人物で当時、都と地方を結ぶ公的な交通・通信手段を維持するために駅制を敷き、この地に「飯高駅」が置かれた。以来この地方は官営の馬継所として賑わい、やがて伝馬所、宿場町へと変容していった。かつての飯高駅にあやかり、当施設は名付けられたという。

 2004年11月には温泉施設やレストランを設えた道の駅としてリニューアル、2005年4月には特産品販売所や体験施設が、7月には公園がオープンした。最近では4月に熟生ドーナツの店舗がオープンし話題となった。

 筆者もせっかくここまで来たのならと購入してみたかったが、どうやら先にやってきた乗客が購入していったようで完売だった。また来る機会があれば食べてみたいと思う。

■鹿を食べる「シカ」ない?

イノシシも鹿も食せるぞ

 また併設されたレストランでは、まだ食事メニューの提供が始まってなかったが掲示されたメニューを見ていると、ハンバーグやステーキなど松阪肉を使った定番の料理に始まり、この近くにある蓮(はちす)ダムカレー、そして山間部ということで鹿肉を使ったカレーと焼肉丼、猪肉を使用したぼたん鍋なども食べることができる。

お値段以上の松阪肉うどん

 地元産のジビエなおでぜひ食べていただきたいメニューだ。ただし毎日数量限定ということなので、注文する際は注意していただきたい。辺りもすっかり暗くなった頃に、ようやくバスがやってきた。

ジビエなんて都市部ではあまり食べる機会はない?

 乗車前にはスメールからやってきたバスの混雑具合を見て、臨時便を出すかどうか決めるということだったが、あまり乗車していないようで、定期1台で何とかなりそうである。ほぼ定刻で出発したバスは、順調に国道166号線を走行していく。終点の松阪駅前には定刻より約10分遅れでの到着した。

本物の松阪牛もこの値段!

 乗車回数としてはそれほど多く乗れなかったが、無料だからといって運賃や距離を稼ぐ目的でもないので帰宅することとした。さすがにこの時間ともなると、乗り潰しを楽しんでいる人は見かけなかったが、折り返しで再びスメール行きとなるバスにはまだ多くの乗客が列を作っていた。無料のパワーだ。

■バスに関心は持ってもらえただろうか?

コミュニティバスも無料だった

 今回は松阪市で実施された路線バス運賃無料デーをレポートした。3度目となった今年はバス乗り場にも各所に告知がされていて運賃無料デーを楽しむために利用している人もいたようだ。利用の形はさまざまだが基本的なバスの乗り方から、どこかへ出かけるという体験まで1人でも多くの人が参加していればよかったと感じる。

暗くなっても乗りバス組は頑張る?

 松阪市に限った話ではないが、自治体が運行するコミュニティバスは企業や個人の協賛により運行されており地域負担という形だ。みんなが利用しないと路線の維持は難しい。こういった取り組みについて理解してもらうためにも、バスに乗車して考えてもらえれば話題や関心が集まるのだろう。

 ちなみに今年の運賃無料デーでは先日松阪市で話題になった国宝指定を受けた船形埴輪が展示されているはにわ館、そして発掘された宝塚古墳をこのコミュニティバス「鈴の音バス」で巡るツアーなどが開催された。

運転士不足の中で続行や臨時を出せる三重交通もすごい?

 運賃無料をどう活用しようかと旅程を練るのもマニアとしては楽しみだが、モデルルートが提示されるのはバス利用促進という点において、有益な試みだっただろう。今後とも気軽に路線バスを利用して、普段気が付かないローカルポイントを目的地として楽しんでいただければ幸いである。

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