トヨタが「AE86」をベースにしたコンバートEV『AE86 BEV Concept』と、現代のエンジンをスワップした『AE86 G16E Concept』の2台に試乗した。

「AE86 BEV Concept」外観

◆AE86 BEV Concept=EVコンバート

AE86 BEV ConceptはAE86をベースに既存のエンジンを撤去、モーターとバッテリーを搭載したモデル。採用されたモーターは北米向けフルサイズピックアップの『タンドラ・ハイブリッド』のもの、バッテリーはレクサス『NX450h+』のものが使われている。2023年の東京オートサロン出展時には先代プリウスPHEVのバッテリーだったが、これをNX450h+用のものに換装しているかたちだ。システム出力は95kW。最大トルクはストリートモードで150Nm、サーキットモードで230Nmという設定。

「AE86 BEV Concept」モーター

通常、EVにはミッションを取り付けずにモーター→減速機→ホイールというルートで駆動力が伝わるが、AE86 BEV ConceptはGR86用の6速マニュアルトランスミッションを介して駆動力を伝達している。コンバートEVではミッションを残すこともあるが、それは改造申請を通りやすくするため。AE86 BEV Conceptに6速マニュアルトランスミッションを採用したのは申請のしやすさなどの目的ではなく、あくまでもAE86本来のドライブフィールを再現(維持というほうが正しいかもしれない)するためのものだ。

「AE86 BEV Concept」ドライバーズシート

ブリッドのシートに身体をあずけクラッチを踏み込みイグニッションキーをひねる。擬似的に作られたエンジンを車内に響くと同時にスピードメーターとタコメーターがいったんフルスケールまで振り切り、戻ってくる。スピードメーターはゼロポジションに戻るが、タコメーターはまるでアイドリング回転を示すがごとく700rpmあたりで落ちつくのだ。おもしろいのはアクセルペダルをあおったときのタコメーターの動きが面白い。EVなのでオーディオのVUメーターのように動いてもいいようなものだが、まるでスミスの機械式メーターのように“カキッ、カキッ”とした動きになる。

「AE86 BEV Concept」インパネまわり

1速でスタート。すぐに2速、3速とシフトアップしていく。現代のスポーティなエンジン車と比べるともの足りない加速感ではあるが、(EVなので当たり前なのだが)トルクがしっかりしているので、気持ちのいいフィーリングだ。よくよく考えてみればオリジナルのAE86に搭載されるエンジンは1.6リットルの4A-GEでそのスペックはグロス値で130ps/15.2kgm(96kW/149Nm)なので、このAE86 BEV Conceptと似たものとなっている。AE86でもエンジンをチューンしもっとパワフルになっている個体もたくさんあるが、オリジナルのAE86だとこんな感じかなと思い出しながらのドライブだ。

ミッションを装備しているAE86 BEV Conceptは発進時にクラッチ操作をミスすると、発進がギクシャクしてあたかもエンストしたかのような動きになる。しかし、エンジンがないのだからエンストはしない。モーターが止まり、システムがシャットダウンするかというとそんなこともない。つまり演出なのである。逆に停車時にクラッチを切らなくても平気なので、3速に入れておけばクラッチを操作することなくスタートから120km/hあたりまでアクセル操作だけで走れる。

「AE86 BEV Concept」RSワタナベのホイールにブリヂストン・ポテンザRE71RSの組み合わせ

このAE86 BEV Conceptは中古車として仕入れたAE86をベースにBEV化しているためクスコ製のLSDも装着されていた。けっこう引き締められイニシャルトルクをアップしたセッティングで、交差点を曲がる際にちょっとアクセルを強めに踏むとリヤが滑り出すような感覚があった。足まわりも交換されリニアなフィーリングになっているので、その気になって走ればドリフトもできてしまうだろうし、それを目的にセッティングされているのがAE86 BEV Conceptなのである。

「AE86 G16E Concept」フロントスタイル

◆AE86 G16E Concept=現代のエンジンに換装

さてもう1台のモデルAE86 G16E Conceptだ。こちらはAE86をベースにエンジンを『GRヤリス』のG16E型エンジンに換装したモデル。GR仕様のG16Eはターボ過給で272ps(200kW)/ 370Nm(37.7kgm)のスペックを持つが、これをそのままAE86にスワップするとなると、各部の強化など多くの変更が必要になってしまう。また、チューニングを目的としたエンジンスワップではなく、未来に渡ってAE86を存続させることが目的なのだからそこまで強力なエンジンは必要ない。

そこでトヨタが採った手法がG16E型エンジンからターボを外してNA化すること。結果として最高出力は83.8kW、最大トルクは160Nmとなった。オリジナルAE86に比べて最高出力は同レベル、最大トルクは上回るといったところだろう。ターボレスにしたことで、燃料をプレミアムからレギュラーにはできなかったのか? と技術者に質問したところ「レギュラー化も考えて試してみたが、フィーリング的に目指したものにならなかったのでプレミアムのままとしました」とのことだった。

「AE86 G16E Concept」エンジンルーム

AE86 G16E Conceptはクラッチを踏んで普通にエンジンを始動。こちらのメーターはAE86 BEV Conceptの動きとまったく違う。メーターの針に落ちつきがなく、アイドリング状態であってもつねにプラスマイナス150rpm程度の幅を持ってゆらゆらと動いて落ち着かない。そういえば昔のメーターってこんな感じだったなと思い起こされる。

「AE86 G16E Concept」ドライバーズシート

1速に入れクラッチをつなぐと、ほんの少しエンジン回転が落ちてトルクが細くなるというエンジン車らしいフィーリングでスタートする。今回の試乗車はジャーナリストやメディアのために用意されたものではなく、特別にレンタカーを試乗させてもらっている。自分のなかでのリミットを5000rpmとして試乗する。

エンジンの吹け上がりに関しては4A-GEよりスムーズな印象。最新のエンジンと40年前のエンジンを比べるのはちょっと酷かもしれないが、そう考えると4A-GEの素性がよかったのは間違いないし、G16Eも3気筒とは思えないほどスムーズなエンジンであることを再確認できた。

「AE86 G16E Concept」インパネまわり

トルクはフラットでマニュアルミッションでの扱いやすさもいい。AE86 G16E ConceptAE86 BEV Conceptと異なり、ミッションはAE86のノーマルのままだ。この個体のミッションがすこぶる状態がよく、クイックシフトが組み込まれているとはいえ、じつにストレスなくスムーズにシフトをアップもダウンできる。エンジンスワップ時にきっちりオーバーホールしたのかと思いきや、中古車で仕入れたままだというのだ。おそらく大切に乗られていたのだろうということが推測できる個体である。

いいエンジンにいいミッションの組み合わせというのは、クルマ好きにとっては最高に快感な乗り味となる。AE86のシャシーはTE71と同一なので基本設計はかなり古い。だが、それでも十分に楽しいクルマであることを再認識させてくれる魅力を持っている。

「AE86 G16E Concept」ウェッズのホイールにダンロップ・ディレッツァDZ102の組み合わせ

G16Eというエンジンが選ばれたのは単に最新のエンジンにスワップして寿命を延ばすということではなく、いずれは燃料をガソリンから水素などに変更したときのことも考慮してのことだという。

トヨタがこうしたヒストリックなクルマを今の時代でも生かせるような再生プロジェクトを開始したことはじつに喜ばしいこと。いろいろハードルが高い部分も多いと思うが、トヨタが突破してくれればほかのメーカーや旧車再生を手がけるショップも後に続きやすい。話題作りで終わることなく、初志貫徹し大輪の花を咲かせてもらいたい。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。