◆ブランド価値を上げた「ジープ」
同業者にして、趣味の世界の師匠でもあるYさんが上梓した本、「何故クルマ好きは性能ではなく物語(ブランド)を買うのか」というのがある。
てっきり日本人はブランドに弱いと思っていたが、どうもブランドを大切にするのは圧倒的に欧米の企業らしい。だから如何にブランド価値をあげるかについてはとても熱心なのかもしれない。欧米とあったが、個人的には特にヨーロッパのメーカーがブランド価値の構築に熱心な企業が多いように感じる。
そんなブランド価値をここ10年ほどで大きく上げたのが「ジープ」ではないだろうか。
ジープ ラングラー 4xeアメリカ市場を例にとれば、2000年以前で最もよく売れた1997年が21万1157台。まあだいたい20万台前後だったものが、2005年にいきなり47万6532台に増え、以後右肩上がりとなり2018年にはついに97万3227台と、ほぼ100万台に届くレベルにまで成長した。日本市場でも同様に、2005年には年間2136台の販売だったものが2018年には11438台とほぼ5倍に増えている。こうした傾向は世界的である。
確かにSUVのブームに乗ったという側面があるが、98年に当時のダイムラー、即ちメルセデスベンツに買収されダイムラークライスラーを名乗り、その後いったんはクライスラー単独となったものの、フィアットと合併してFCAとなり、さらに2021年からはステランティスとなって今に至る。この間ジープブランドはヨーロッパの企業にコントロールされて、そのブランド価値を上げてきたともいえるわけだ。
◆まぁ静かになっちゃって…
ジープ ラングラー 4xeそんなジープというブランドにあって不動の地位と不動の車両コンセプトを持つモデルが『ラングラー』である。ラングラーを名乗り始めたのは1986年からだが、元々は軍用として生を受けたジープが「CJ」、即ちシビリアン・ジープとして民需に転換して以来そのタフネスと無類の走破性こそが車両コンセプトであって、それは最新のラングラーに至るまで何ら変わりはない。ただ、ここ10年ラングラーは常に快適性をそのタフネスと走破性に加えたクルマ作りをしてきた。
そして2021年には初のPHEVモデル「4xe」を誕生させる。この4xe、日本市場には昨年導入された。2リットル4気筒ターボエンジンと2つのモーターを組み合わせたモデルで、現在日本では4xeと名の付くモデルが『レネゲード』、『グランドチェロキー』にも設定されているが、このうちラングラーとグランドチェロキーは同じメカニカルトレーンを持っている。
2つのモーターのうちひとつは主としてISGとして機能し、もう一つが駆動をアシストする。もちろんEV走行が可能でその距離はおおよそ30kmほど。カタログ上はWLTCモードで42kmの走行が可能とあるが、とてもそれは無理であった。それにしても音もなく走りだすラングラーは少し気味が悪い。本来は悪いことなどないのだが、タフでワイルドが売り物だったラングラーがまぁ静かになっちゃって…というこちらの勝手な先入観によるものだ。
◆史上最もスムーズに走り出すラングラー
ジープ ラングラー 4xeご多聞に漏れず走行モードが3種設定されていて、ハイブリッド、エレクトリック、それにEセーブというモードを持っている。最後のEセーブは電気使用量をセーブするモードで、充電しながら80%程度までバッテリー容量を回復させることができるらしい(試していない)。30kmほど走った後は完全なICEかというとそんなことはなく、少なくとも発進はモーターで静々と走るから、史上最もスムーズに走り出すラングラーともいえる。
それにしてもこの図体で、クルマ好きの仲間の中に入っていくと、クルマ好きですらこれがPHEVだと言っても信じない。答えは「だってジープでしょ?」である。だから給電口を見せると「ホントなんだ」という奇異の目が返ってきて予想外の反応を示すから面白い。
今回の試乗はおよそ一般道を普通に走っただけなので、電動化によるオフロード性能がどうなっているかなどは試していない。しかし、およそほとんどのラングラーユーザーは、自分の愛車を瓦礫の山に突っ込んでその性能を確かめることなどないだろう。少なくとも日本では限りなく少ないはずだから、静かでスムーズなラングラーということで良いのだと思う。
因みに左ハンドル仕様である。どうも本気で日本市場に定着させようとは今のところ考えていないようだ。それに価格はついに1000万円を超え、1030万円である(驚)。輸入車は高くなったものである。
ジープ ラングラー 4xe■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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