中国の国有自動車メーカーの奇瑞汽車(正式社名は奇瑞控股集団)がスペインの自動車工場を買収し、ヨーロッパ市場向けの現地生産拠点にする計画を進めていることがわかった。同社の董事長(会長に相当)を務める尹同躍氏が、4月14日にオンラインで開催した生中継イベントの中で明らかにした。
「わが社はヨーロッパの企業市民になりたい」。尹氏はそう述べ、スペインの工場買収のほかにも、ヨーロッパの2つの高級自動車ブランドと提携交渉中であることを明かした。うち1つとは近く契約を結ぶ見通しだという。
奇瑞汽車が買収するのは、日本の日産自動車がかつて運営していた旧バルセロナ工場だ。2021年12月の閉鎖後に売却され、現在はスペイン企業のQEVテクノロジーズとエブロEVモーターズが共同所有する。奇瑞汽車の買収計画については、スペイン政府も積極的に後押ししている。
(訳注:奇瑞汽車は4月19日、エブロEVモーターズとの合弁契約に調印。バルセロナの工場に4億ユーロ[約652億円]を投資すると発表した)
総販売台数の半分が輸出
中国の自動車業界において、奇瑞汽車は海外市場開拓のパイオニアとして有名だ。同社の2023年の総販売台数は188万1000台。そのうち半分の93万7000台を海外で販売し、輸出台数は前年比倍増した。
奇瑞汽車の輸出先は、かつては南アメリカ、中近東、ロシアなどが主力だったが、近年は東南アジアやヨーロッパでの市場開拓に注力している。2024年3月には、海外市場専用ブランドの「Omoda」と「Jaecoo」から、EV(電気自動車)を含む2車種をスペインで発売すると発表した。
海外での躍進とは対照的に、中国市場における奇瑞汽車の売れ行きはぱっとしない。中国では2020年後半からEVブームが始まり、EVとPHV(プラグインハイブリッド車)が市場拡大を牽引している。ところが、奇瑞汽車はこの巨大なチャンスをつかみ損ねた。
奇瑞汽車は総販売台数の半分を輸出が占める。写真は本社がある安徽省蕪湖市の港で積み込みを待つ同社の輸出車両(奇瑞汽車のウェブサイトより)奇瑞汽車のEV開発の取り組みは、実は競合他社の多くよりも早かった。同社は2010年に専業の子会社を設立し、低価格のマイクロEVを投入。だが、中国のEVブームは個人の富裕層向けの高級EVから火がついたため、マイクロEVは市場の流れに取り残された。
中国でトップ5入り目指す
とはいえ同社は、本拠地の中国市場でこのまま下位に甘んじるつもりはない。「EVやPHVのカテゴリーで先行企業を追い上げ、2024年中に中国市場のトップ5に入りたい」。董事長の尹氏は4月14日のオンラインイベントで、そんな強気の目標を掲げた。
本記事は「財新」の提供記事です。この連載の一覧はこちら尹氏の見方によれば、電動車がエンジン車に取って代わる流れは変わらないものの、現在はEVの成長スピードが鈍化し、PHVとレンジエクステンダー型EV(訳注:航続距離を延長するための発電専用エンジンを搭載したEV)が市場の主流になりつつある。
「PHVとレンジエクステンダー型EVにはエンジンの存在が欠かせない。奇瑞汽車には長年積み重ねてきたエンジン技術の蓄積があり、その活用が市場シェア拡大に役立つはずだ」。尹氏はそう自信を示した。
(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は4月15日
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