2024年3月30日、広島市安芸区瀬野町の丘陵上の住宅団地「みどり坂」に、スカイブルーに輝くEVバスによる「みどり坂タウンバス」がデビューした。このEVバスはオノエンジニアリングによるYAXING製の9mクラス「オノエンスターEV」で、一挙に8台が導入された。
文/写真:鈴木文彦(交通ジャーナリスト)
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■その名は「みどり坂タウンバス」!!
このたびのこの交通システムの交代劇には多くのトピックがある。そもそも中型クラス8台の同時導入も、ひとつの事業所のバスがすべてEVというのも全国初の快挙である。もともとこのみどり坂住宅団地の足としては、1998年8月に開業したスカイレールという軌道系交通機関があった。スカイレール(広島短距離交通瀬野線)は、懸垂式モノレールとロープウェイを合体したようなシステムだ。
モノレールのような軌道に車輪で接続したロープウェイタイプのゴンドラを、軌道に組み込まれたワイヤーロープ(駅構内はリニアモーター)で駆動する世界唯一の方式で、モノレールよりローコストでロープウェイより風などへの耐久性があった。
JR山陽本線瀬野駅前のみどり口からみどり坂中央まで途中にみどり中街1駅を有して1.3km、高低差160mの急勾配(約15度/最急263パーミル)を時速約15kmで朝夕5分、日中15分間隔で運行していた。
運営していたのはみどり坂住宅団地を開発・造成した積水ハウスと青木あすなろ建設が計75%、スカイレールを開発した三菱重工業、神戸製鋼所などが残りを出資したスカイレールサービスだ。
■さまざまな“世界唯一”が仇になった!?
当初は日本の鉄軌道では初めてのIC定期券・回数券が導入されるなど、先進的な交通機関として注目されたが、四半世紀が経過して更新の時期を迎えると、“世界唯一”が仇となって部品の確保などが困難となっていた。このため、維持コストの問題から2024年4月末をもってスカイレールの運行終了と、EVバスへの転換を決定した。
このような経緯から、みどり坂タウンバスはスカイレールの代替交通機関として、スカイレールサービスが運営主体となって車両も保有、運行と運行管理は芸陽バスに委託する形をとる。運行する芸陽バスにとってはコミュニティバスなどと同様の受託事業となる。
EVを選択したのは、もちろん環境重視ということもあるが、EVが登坂能力に優れ、ロケーションにマッチしていたということもあるだろう。
スカイレールみどり坂中央駅に隣接してEVバスの営業所が置かれ、8台が収容できる有蓋車庫に4基の充電装置が置かれている。一般的に2台に1基の充電器であれば通常の運用は可能である。
オノエンスターEVはバッテリーを天井に配置することで広い車内空間を確保したノンステップバスで、定員は運転席含め51人(座席28)、各座席にUSBポートが設置されている。また各車両にインバーターを装備し、災害時には8台がみどり坂各地に出向いて電力供給源となる。
■利用者にとってはーの利便性は確実に向上した
みどり坂タウンバスはJR瀬野駅北口を起終点に、急坂を上ってみどり坂へ向かい、みどり中央から瀬野西5丁目地区の住宅地の中を回り、再び瀬野駅へ戻る循環系統を基本に4系統を設定、平日1日75便が運行される。
平日朝にはみどり中央からみどり中街のみ停車して瀬野駅までノンストップの急行便も走る。バス停は全部で11カ所あり、住民にとってはより自宅の近くや地元スーパーの前で乗り降りでき、利便性が高まっている。
運賃は200円均一で、広島県内でも珍しい前乗り前払い。スカイレールより30円高くなったが、サービスレベルは高まっており、JR西日本のICOCA導入により全国共通ICカードなども使用できる。一般的な定期券に加えて上り坂方向だけの「みどり坂おかえりパス」(いずれもICOCA定期)の設定があり、ICOCAで乗車するとチャージ専用のポイントサービスや60分以内の再乗車無料サービスもある。
みどり坂の住民とともに生き、地域のシンボルであったスカイレールに代わる交通機関となったみどり坂タウンバス。スカイブルーの9mEVが、新たなみどり坂の住民の誇りとなって、走り続けることを期待したい。
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