ついに姿を現した新型3代目フリード。今回はこれまで筆者が新型フリードのデビュー前に予想してきた内容について答え合わせをしてみよう。ボディサイズ拡大を市場はどのように判断するかを予測する。

文:小沢コージ/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ

■ライバルのシエンタは5ナンバーサイズキープ

2024年5月、ついに登場した新型フリードのエアー

 ついに初公開、3代目フリード! 詳細スペックは一部まだわからないが、それでも充分わかったことがある。新型があえて宿命のライバル、トヨタのシエンタとは真逆とも言える戦略を取ってきたことだ。どこまで勝算があり、自覚的かは知らないが最大のキモは独自のサイズ観にある。

 小沢はいまだに覚えているが、今から2年前、現行シエンタ登場時にトヨタの鈴木啓友チーフエンジニアはこう断言した。

「我々が一番大事にしたかったのは、全長や全幅をしっかり守ってあげること。これ以上大きくしないってことだったんですよ。小さなクルマだからこその価値があり、視界性能だったり、取り回し性能だったり、そういうものが大事だなと思っていて」

現行型シエンタは先代モデルから全高以外はボディサイズを変えていない

 事実、現行シエンタで驚かされたのは、ボディサイズにはまったく手を付けていなかったことだ。5ナンバーサイズキープの全幅1695mmはもちろん、全長4260mmはマイチェン後の先代シエンタから1mmも増えてない。

 唯一変わったのは20mm増えた全高だが、それでも先代の4駆モデルと同じ。基本となるボディのスリーサイズはほぼ不変で、これだけボディが大きくなりがちな現代では珍しい。

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■しかも室内は狭めのシエンタだったが……

シエンタのインパネ。室内がやはり狭めになっていることはトヨタ開発陣も認めていた

 しかもシエンタの場合、先代型はもちろん現行モデルも正直、室内狭めなのだ。これはトヨタ開発陣も認めるところで、特に3列目は身長176cmの小沢が1~2列目に座ったシートポジションでヒザ前ギリギリ。あと1~2cm全長が増せばラクになるのにと思う。

 ところが、鈴木エンジニアは「全長を4.3mくらいまで伸ばしてもいいのでは?」という小沢からの問いかけをあっさり否定。

「広さを追わず、小ささ、扱いやすさを守った」ことこそが現行シエンタ最大の美点であり、逆に「最小回転半径が5.2mから5mに短くなった」ことをマスコミに訴える。これはコンパクトミニバン作りにおけるトヨタの信念にほかならない。

■ホンダならではの「遠慮のなさ」が際立つ

新型フリードのクロスターは全長1700mm超えで全車3ナンバー化。

 一方、新型フリードはサイズの壁をあっさり打ち破っている。全車が全長4.3mを超えてしまい、ワイルドな新フリードクロスターに関しては全幅も1.7m超えの1720mmで完全3ナンバー化。この遠慮のなさこそがホンダであり、トヨタとの最大の違いではないのか。

 ここが今後の勝敗、もしくは棲み分けに大きく関わってくると小沢は勝手に睨んでいる。

 事実、新型フリードの開発コンセプトは「よゆうの視界」、「よゆうの空間」、「よゆうの荷室」と3つの“よゆう”をうたっており、シエンタが言うような割り切りでは決してない。

シンプルなシルエットは先代譲りとなる新型フリード

 エクステリアを見てもシンプルなシルエットは先代の延長線上だが、箱っぽいスッキリ感を今まで以上に強調しており、「小さめのステップワゴン」的な印象すらある。これは子犬のようなシエンタとは真逆の方向で、まさに確信犯的なプラスαのよゆうを誇っている。

 ほかでも新型フリードは「よゆう」を謳っており、パワートレーンはまだ正確なスペックが出てないが、フィット譲りの2モーターハイブリッド、e:HEVであることはほぼ間違いなく、スムーズさ、上質さではシエンタを確実に上回るだろう。加速フィールでも相当滑らかさを追求してくるはず。

 視界もこれまた「よゆう」をキーワードにボディサイズを増やしつつダッシュボードをフラット化し、見え方良好。跳ね上げ式シートを踏襲した3列目も、上端を9cm下げて視界を良くしている。

 一見、保守的にコンパクトミニバンの価値を“守った”シエンタに対し、求められる性能のためには躊躇なくボディをデカくする“攻めの”フリードという感じだ。

■両車の結果予想としてはふたつ考えられる

新型フリードのエアー。こちらで既存のフリードユーザーを取りに行く戦略か

 結果予想としてはふたつある。まずひとつは両者ともに微妙に違った道を歩み、両者成功すること。今後発表される価格にもよるが、シエンタは手頃な300万円以下で買える扱いやすいコンパクトミニバンとして既存客をしっかり守る。

 かたや新型フリードはより室内の広さ、クォリティを求める微妙なステップアップ客を取る。それも標準のエアーで既存フリード客を取り、ややワイルドでデカ目のクロスターで新しい客を取る。

 事実、新型フリードは一部に価格が高くなった兄貴分であるステップワゴンの客が流れていると聞く。そういう意味では微妙に現行フリードとは違う客層となる。

ワイルドな雰囲気となったクロスターで新規ユーザーを取りに行くのがホンダの目論見?

 もうひとつは、シエンタは客をしっかり守り、フリードがやや失敗する結果予想。というのもシエンタが全長4.26mを頑なに守った背景には、1990年代に雨後の竹の子の如く乱立したコンパクト~ミディアム系ミニバンの失敗が関係していると思われるからだ。

 ビッグネームから言うと全長4.5m台のコンパクト系スタイリッシュミニバンだったホンダストリームとトヨタウィッシュ。どちらも初代モデルで一時は月販1万台超えを記録したが、結局両車とも2世代で消え去った。

トヨタ・初代イプサムは1996年に登場し、2代目にバトンタッチする2001年まで販売されたが、2代目で販売を終了している

 カローラの延長線上で出た3列シート車、カローラスパシオもなくなったし、全長4.6m台だったトヨタのイプサムやガイアも消え、日産キューブキュービックも消え去った。

 もちろん、これらはほとんどがスライドドア非装備ミニバンであり、その要件が時代に合わなかった可能性も高い。

■コンパクトミニバンは欲張りすぎてはいけない

新型フリードクロスターの室内

 とはいえこれまでの歴史が物語るのは、コンパクトミニバンは欲張りすぎたら失敗するという事実だ。そもそもコンパクトとミディアムの中間のハンパなサイズであり、妙にイイトコ取りをすると大抵消え去る。

 もちろん、「もっと広く」「もっとよゆうを」という声はコンパクトミニバンからは消えない。だが、その客の声に応えすぎてボディをデカくしてしまうと結局は「ノア、ヴォクシー、ステップワゴンでいいや」となる可能性がある。

コンパクトミニバンが“よゆう”を求めると、上のカテゴリーとかち合ってしまう危険性を筆者は指摘している

 当然ながらクルマは新しくなるたびに性能が上がるべき商品。とはいえ、ほどよい割り切りがないと成功はできない。

 果たして新型フリードの「よゆうの」「ややデカ戦略」は成功するのか? 実は結構見ものだと小沢は思っている。





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