これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、スポーティ性能とプレミアム性を両立したクロスオーバーモデル、日産スカイラインクロスオーバーを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
■今やSUVクラスの主流となったクロスオーバーの先駆け
現在、新車市場で手に入る国産SUVは40台あまりだが、そのうちオンロードでの走行を前提とした都市型SUVは8割強を占める。それらはすべて、乗用車と同じようにモノコック構造を採用し、街乗りを基本としながらも4WD仕様なら悪路走破性がこなせる。
そのうえ実用的な機能が充実していることも相まってオールマイティに使えるクルマとして絶大な人気を博している。そんな都市型SUVのなかで近年著しく増殖しているのが“クロスオーバー”というジャンルだ。
クロスオーバーとは、元々は「境界を越えて交じり合うこと」を意味する言葉だが、クルマの場合は他ジャンルの特徴をかけ合わせて誕生した車種のことを指す。今回クローズアップする「スカイライン クロスオーバー」は、SUVとクーペの融合から誕生した新種のSUVとして注目を集めた。
スカイラインクロスオーバーは、新ジャンルのスカイラインとして、クーペやセダンと同様に優れた運動性能を特徴としながら、高級車に相応しいしなやかで上質な乗り心地を実現。それまでのSUVとは一線を画した洗練されたスタイルや、上質素材を用いたパーソナルなインテリア空間などを特徴としていた。
外観は、グリルからドアミラーまで伸びるフードバルジや、FRらしいロングノーズとクーペのように流麗なアーチドキャビンを基本としながら、フロントフェンダーからリアフェンダーへと上下しながら優雅に流れるウエストラインによって、優雅で躍動的なスタイルを表現している。
クーペ風としつつも、しっかりと路面を捉えるようなデザインのFRらしいリアフェンダーによって、SUVならではの安定感を強調した後ろ姿がダイナミックな印象を際立たせている。その美しいプロポーションは、ボクシーなワゴンボディが主体だった当時のSUVクラスのなかでは際立って華やかで個性的だった。
■パワフルな動力性能とシャープなハンドリング
スカイラインの名を冠していることから、走りのよさには定評があった。フロントミッドシップにV6エンジンを搭載することで実現した理想的な前後重量配分や、短い前後オーバーハング、大径タイヤなどを採用したFR-Lプラットフォームをベースに、サスペンションには、フロントダブルウィッシュボーン式、リアマルチリンク式の4輪独立懸架を採用。
理想的な減衰力特性をもたらすデュアルフローパスショックアブソーバーの効果も相まって、狙ったラインを正確に追従するスムースなハンドリングと、しっかりとしたグリップ感のある俊敏なフットワークを実現し、ハンドリングはSUVであることを忘れさせるほど軽快だ。
そのうえ、高いねじり剛性と効率のいい車体補強を施したボディが、路面の凹凸にしなやかに追従して余分な動きを瞬時に収束させ、不快な振動を抑えた優雅な乗り心地をもたらしている。その走りは背の高いスポーティサルーンのようでもあり、クロスオーバーの面目躍如といえるものだった。
走りに対するこだわりは、搭載するパワーユニットからも見て取れる。VQ37VHRエンジンは、最先端技術であるVVEL(バルブ作動角・リフト量連続可変システム)を採用した日産独自のユニットで、最高出力243kW(330PS)を発生しながら、2400~7000rpmという幅広い回転領域で最大トルクの90%を発揮する力強さと扱いやすさを特徴とする。
VVELを採用したことによって、アクセルペダルの踏み込み量に応じてエンジンの吸気バルブの作動角とリフト量を可変制御して吸気抵抗を低減。吸入空気の応答を飛躍的に高めることでレスポンスのよさと高出力、さらに低燃費でクリーンな排出ガス性能を実現している。
トランスミッションは、マニュアルモード付7速オートマチックトランスミッショが組み合わされる。広いカバーレンジを持つギヤ比により、伸びやかで途切れのない加速を発揮するとともに、高速走行時の燃費と静粛性の向上が図られている。
駆動方式はスカイラインセダンと同様にFRのほか、電子制御トルクスプリット4輪駆動システムであるアテーサE-TSを採用した4WD仕様もラインアップされていた。
■高度なパフォーマンスを存分に楽しむ技術が満載
卓越した走行性能を安心かつ快適にサポートする装備も充実していた。各種センサーによって運転操作や車速などを検知し、ブレーキ圧やエンジン出力を自動的に制御。滑りやすい路面やコーナリング、障害物を回避する際に発生する横滑りを防止し、走行時の安心感を高めるVDC(ビークルダイナミクスコントロール)が採用されている。
ドライバーの意図とは別に、車線から逸脱しそうな場合に、ブザーとディスプレイ表示でドライバーに注意を促すLDP(車線逸脱防止支援システム)/LDW(車線逸脱警報)や、車速が約15km/h以上で走行中に自車前方の車両に接近した場合、表示と音でドライバーに注意を促すFCW(前方車両接近警報)をメーカーオプションで設定。
そのほかにも、運転負荷を軽減するインテリジェントクルーズコントロールをはじめ、照射範囲を広げるアクティブAFSなど、ドライバーが安心して運転できるよう先進装備を数多く採用していた。
居住性や実用性の高さもセールスポイントだ。運転席まわりは高い位置に配されたシフトノブやゆったりとしたくつろぎをもたらすロングアームレスト、自然な姿勢で操作できるセンターパネルなどによってドライバーズカーと呼ぶに相応しい作りとしていた。
本木目フィニッシャーには高級素材であるカーリーメイプルを採用し、表面はヴァイオリンのようなグラデーション塗装を施すことで華やかな仕立てとし、スカイラインらしいスポーティな雰囲気のなかに漂うエレガンスで独特の世界観を主張していた。
セダンが高年齢層向けだったのに対して、スカイラインクロスオーバーは若年層を想定したクルマとされていたが、価格はベーシックな370GTの後輪駆動モデルで420万円。最上級グレードの4WD仕様である、370GT FOUR Type Pが499万8000円と、かなり高額でおいそれと手が出せなかった。3.7Lという排気量による自動車税の高さ、リーマンショック後の景気悪化から立ち直りつつあった日本を襲った東日本大震災という逆風の影響により、販売は低迷する。
クーペ風のスタイルを特徴とするSUVが急増し、さらにクラウンやカローラといった歴史あるクルマの名を冠したクロスオーバーSUVが登場して好評を博している今なら、スカイラインクロスオーバーに対する評価や売れ行きは違っていたかもしれない。早すぎた登場と揶揄されるクルマは多々あるが、スカイラインクロスオーバーも間違いなくそれに分類される1台と言っていい。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。