マツダのお家芸ともいうべきロータリーエンジンが、電気自動車の発電用ユニットで登場した。今でも特別な響きを持つロータリーエンジンとはいったいどんなユニットで、その魅力はどこにあるのか?

文/長谷川 敦、写真/マツダ、Audi

■待望のロータリー復活! でも動力用じゃなかった!?

昭和世代じゃなきゃ理解不能!? マツダがこだわる「ロータリーエンジン」って何がそんなにスゴい?
マツダ MX-30 eSKYACTIV R-EV。電動モーターのみを駆動力にするEV(電気自動車)だが、電力は車載バッテリーとロータリーエンジンから供給される

 マツダが2020年に販売を開始したのが、新世代クロスオーバーSUVのMX-30だ。

 このMX-30では、まずはガソリンエンジンモデルとマイルドハイブリッドモデルの2タイプがリリースされ、バッテリー&電動モーターのみを動力とするEVと内燃エンジンで発電を行い、走行は電動モーターが担当するプラグインハイブリッドモデルの追加も予定されていた。

 2023年から生産がスタートしたプラグインハイブリッドモデル、MX-30 eSKYACTIV R-EVの発電用エンジンには、世界でマツダのみが実用量産化に成功したロータリーエンジンが採用され、大きな注目を集めた。

 ロータリーエンジンといえば、かつてはマツダを代表するテクノロジーであり、動力ロータリーエンジンを搭載した数多くの名車が誕生している。

 レシプロエンジンとも異なる出力特性や、独特の回転音、そしてパワフルなロータリーエンジンには、これでなくてはならないと考えるファンも多かった。

 しかし、ロータリーエンジンには燃費の悪さやエンジンオイルの消費量も多いという難点があるため近年のエコ最優先の風潮には合わず、2012年のマツダ RX-8販売終了をもって動力用エンジンとしての歴史を終えている。

 だが、そんなロータリーエンジンが、発電用とはいえ復活を果たした。

 なぜここにきてロータリーエンジンが復活したのかを説明するのは後に回し、まずはロータリーエンジンの簡単な歴史とその魅力を見ていくことにしたい。

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■パワフル&コンパクト、そして振動も少ない!

初の量産型ロータリースポーツのマツダコスモスポーツ

 ロータリーエンジンは、ピストンの往復を回転運動に変換するレシプロエンジンとは違い、おむすび型のローターが回転して動力を生み出す方式で、運動の変換がないため効率や応答性に優れるという特徴がある。

 その歴史は古く、1950年代にドイツ人技術者のフェリクス・ヴァンケルが構造を確立させ1957年にはドイツの自動車メーカー、NSUによって試作品が誕生している。

 NSUではロータリーエンジン搭載車の市販を開始したが、完成度が低くてトラブルが頻発し、やがてNSU自体がアウディに吸収合併されたこともあってNSU製ロータリーエンジン市販車の歴史は途絶えることになる。

 しかし、その可能性に注目した日本のマツダがNSUとロータリーエンジンに関するライセンス契約を結び、独自の開発によってついに本格的な量産に成功した。

 ロータリーエンジンのメリットは、エンジン全体をコンパクトにでき、それによる軽量化が可能なこと、そして振動の少なさや排気量あたりのパワーが大きいことなどが挙げられる。

 これらの利点は特にスポーツ志向の強いモデルに最適といえ、マツダ初の量産型ロータリーエンジン搭載車もスポーツカーのコスモスポーツだった。

 コスモスポーツの市販開始は1967年で、以降はRX-8販売終了の2012年まで多数のロータリーエンジン搭載モデルが誕生している。

 そこで次の項では、現在でも愛される思い出のロータリーエンジン搭載モデルを振り返ってみよう。

■ロータリーエンジン搭載の名車(迷車?)たち

昭和世代じゃなきゃ理解不能!? マツダがこだわる「ロータリーエンジン」って何がそんなにスゴい?
3代目RX-7。このモデルからサバンナの名称がなくなり、当初は販売ブランド名を加えたアンフィニRX-7と呼ばれていた。その後シンプルなRX-7に

■コスモスポーツ

 記念すべきマツダ製ロータリーエンジン搭載車第1号がコスモスポーツだ。

 登場は1967年で、排気量は491cc×2。なお、ロータリーエンジンの場合、ひとつのローターあたりの燃焼室容積にローター数をかけたものが排気量として表わされる。

 最高出力は110psと、当時の基準で考えれば十分にパワフルなものであり、ローラインのスポーツカーボディも同車の魅力を引き上げていた。

■RX-7

 ロータリー人気を不動のものにしたのがRX-7シリーズだ。それまでのサバンナRX-3の後継モデルとして、1978年に初代サバンナRX-7が発売された。

 開閉式リトラクタブルヘッドライトの採用など、RX-3とは大きくスタイルを変えてデビューした初代RX-7は「プアマンズポルシェ」などと揶揄されることもあったが人気は高く、それは1985年登場の2代目で決定的となる。

 型式名から「FC型」とも呼ばれる2代目RX-7では、高出力のターボチャージドモデルもラインナップされ、軽量&コンパクトなロータリーエンジンの持ち味を生かしたハンドリング特性も高い評価を得た。

 RX-7シリーズ最後の3代目FD3S型は1991年に登場。

 2代目まではポルシェの影響も感じられたスタイルは洗練され、このFD型RX-7ではオリジナリティを強調。流麗なフォルムは現在でも高い人気を誇っている。

 3代目RX-7は2003年まで生産されるロングセラーになったものの、ロータリーエンジンの難点だった燃費の悪さなどが時代の要請に合わなくなり、4代目を残すことなく歴史を終えている。

■ユーノスコスモ

 マツダが販売ブランドを細かく分ける5チャンネル戦略をとっていた1990年にユーノスブランドから登場したのがユーノス コスモ。

 往年の名車、コスモスポーツにちなんだ名称を持つこのユーノスコスモは、市販車では世界初の3ローター型ロータリーエンジン搭載モデルを用意し、バブル景気時代を象徴するパワフルかつ華やかなクルマだった。

 だが、そのパワーと引き換えに燃費性能が悪く、市街地走行では2km/Lがせいぜいという“大飯食らい”ぶりでも話題になった。

 残念ながら商業的な成功は得られずに1996年に製造販売が終了している。

 今でも「ユーノスコスモ=高燃費」のくくりで語られることの多いクルマであり、あまり名誉ではない内容で歴史に名を残している。

■ロータリーエンジンが復活した理由

 主に燃費面での不利さから市販車での採用がなくなったロータリーエンジンだが、ここにきて発電用とはいえ復活できた理由はどこにあるのか?

 ロータリーエンジンは軽量かつコンパクトであり、さらに振動も少ないことから、燃費効率の良い回転数で定常運転できるのであれば、そのメリットはデメリットを上回る。

 こうした特性は、電動モーターで走るEVのレンジエクステンダー(航続距離延長用システム)には最適といえる。

 そう、これがEVの発電用としてロータリーエンジンが復活した理由だ。

 MX-30 eSCYACTIV R-EVは、外部電源からバッテリーを充電するプラグインハイブリッド方式を採用しているが、車載したレンジエクステンダーによって充電を行うことで航続距離を延ばせる。

 そして効率のいい回転数でロータリーエンジンを回すため、ガソリン消費量も抑えることができる。

 もともと静粛性に優れたロータリーエンジンはEVとの相性も抜群であり、MX-30 eSKYACTIV R-EVを皮切りに、ほかのEVへの発電用ロータリーエンジン搭載も予想される。

 加えてロータリーエンジンはガソリン以外の燃料にも対応しやすいことから、水素やバイオフューエルを使っての発電など、可能性の広がりも期待できる。

 今だに根強いロータリーエンジン愛好者にとって発電用エンジンのみでのロータリー復活は不満かもしれないが、まずは復活したこと自体を素直に歓迎したい。

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