2024年で登場から10年が経った、トヨタ渾身の世界初となる市販FCEV、MIRAI。約700万円もしたこのクルマが今、中古なら100万円代で入手できるという! これってズバリ買い……なのか?
※本稿は2024年4月のものです
文:国沢光宏、伊達軍曹、ベストカー編集部/写真:TOYOTA、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2024年5月26日号
■初代MIRAIが100万円台から!?
登場した時は、燃料電池という新たな動力源を搭載したクルマということで大いに話題となったトヨタ MIRAI。そんなMIRAIも初代登場から無事10年が経過した。
次世代のパワーユニットを搭載する同車は車両価格約700万円を超える高級車だ。補助金による減額を入れても500万円は下らないが、その作りはほかの高級車と比べても、非常にハイソかつ特別な仕立てとなっている。
価格も価格だし、私には縁がないかも……と思うかもしれないが、そんな人にぜひ注目していただきたいのが、MIRAIの中古車だ。なんと、100万円台から狙えるという!
■現行二代目はまだ高め。狙うなら初代か!?
MIRAIの中古相場を調べると、初代であればなんと84万円(!?)の個体がヒットする。そこから一番高い個体を探しても230万円が最高値。新車は700万円超で、かつ内外装や装備も充実したクルマが、今だとトヨタヤリスやカローラの新車を買うのと同じ予算で入手できるのだ!
200万円台で買えるならこんなお得な話はないが、バッテリーをはじめさまざまな懸念が思い浮かぶ。結局、維持費や修理代など面倒なだけじゃないか? 実際のところどうなのか? MIRAIに詳しい国沢光宏氏と伊達軍曹氏に詳しく分析してもらおう。
■そもそも初代MIRAIってどんなクルマ?
初代トヨタMIRAIは、FCEV(燃料電池車)普及のためのトップランナーとして開発され、2014年12月に発売された世界初の市販型燃料電池車。FCスタックはトヨタが自社開発したもので、スタックの最高出力は155ps。
駆動モーターは最高出力154ps/最大トルク34.2kgmで、駆動は前輪によって行われる。最高速度は170km/hをマークした。
高圧水素タンクは後席と荷室の下に計2本置かれ、合計122.4Lの水素を注入可能。初代MIRAIはFCスタックや高圧水素タンクなどをボディ中心近くの床下に収納したことで、低重心化と優れた前後重量バランスを実現。これにより、意外と軽快なハンドリング性能が実現されていた。
JC08モードでの後続距離は約650kmで、新車時価格は723万6000円。しかしさまざまな補助金を含めると、購入者の実質的な負担額は500万円以下だった。
(TEXT/伊達軍曹)
●トヨタMIRAI(初代)諸元表
・全長×全幅×全高:4890×1815×1535mm
・ホイールベース:2780mm
・最低地上高:130mm
・車両重量:1850kg
・最小回転半径:5.7m
・モーター:交流同期電動機
・最高出力/最大トルク:154ps/34.2kgm
・バッテリー:ニッケル水素電池
・水素タンク(使用圧力):2本(70MPa)
■初代MIRAIが狙い目だと言われるワケ
初代MIRAIがなぜ狙い目と言われるのか? 実はこの価格で買えるのはバーゲンセールなんですよ!
●何より中古での価格が安すぎる!
最大のおすすめポイントが中古車相場。年式やコンディションを考えたら激安と評していいくらいだ。150万円も出せば新車のニオイすらするMIRAIを探すことだって可能。完全な買い手市場なので、値引き交渉すらできる。安い投資でいいクルマに乗れます。
●最先端技術を格安で体感できる!
何と言っても使われている技術はいまだ世界最先端。現時点で購入できる燃料電池車は新旧のMIRAIとヒョンデのネッソしかない。乗ればわかるとおり、パワーユニットについちゃ文句なし! ワイパーの音まで気遣っている。
現行MIRAIにも言えることながらトヨタ車の中ではセンチュリーの次に乗り心地がいい。乗り心地フェチの私ですらノーマルのまんま乗れるほど。
●ハンドリングはピカイチ! 実はラリーだって走れる!
ハンドリングのバランスまで考えたら日本一バランスがよい足回りと言っていいレベル。私なんかノーマル状態でWRCドイツの先行車として全開で走りましたよ。けっこう速いクルマです。
最高速は実測で180km/hに達するため高速道路の追い越し車線巡航だって余裕。絶対的な性能は充分高い。0-100km/h加速もなかなか。加えてアクセルレスポンスよく、車重から予想する性能を大きく凌ぐ。
コーナリングも前後の重量配分よく低重心だから優れてます。サスペンションとタイヤを変えてやれば、ラリーでの実力はヤリスと86の中間くらいだった。なんたって全日本ラリーでクラス2位を獲得。観客から「速いね~!」と驚かれた。
これほど静かで滑らかなクルマは電気自動車以外ありえないレベル。スタートからアクセル全開まで、終始ジェントル。昔から優れたエンジンを「電気モーターのように」と表するけれど、本物のモーターです(笑)。
(TEXT/国沢光宏)
■初代MIRAIの中古は……ズバリここがネックになる
クオリティが高いクルマが中古で100万円なら狙うしかない! けどちょっと待ってほしい。そこには思わぬ落とし穴が……。
●水素ステーションが少なすぎる……
最大の弱点が水素ステーションの少なさであります。どうやら国はホンキで水素自動車を普及する気持ちを持っていないらしく、発売以来10年近く経つのに、増えないどころか減って行く方向。近所に水素ステーションなければ買っても乗れないため意味なし。
水素ステーションの稼働状況も安定しない。私は新型MIRAIに乗っているのだけれど、水素ステーションに行く前に「営業してますか?」と電話しなければダメ。なぜかといえば臨時休業が多いからだ。外出先で水素を入れるロングドライブなど、もはや修行でしかない。
●水素自体の値段も高くなりつつある
ここにきて水素価格が激しく高騰している。当初1kgあたり1210円だった(満タンで約3kg入る)。この価格、ガソリン車だと17km/Lくらいの燃料コストになる。なのに今やエネオスは2200円。イワタニも6月から1650円に値上げする。
結果、燃料コストは純内燃機関の2L並みです。旧型MIRAIは満充填あたりの航続距離が短い。安心して走れるのは350kmくらいまで。冬場にエアコン使うと20~30%短くなってしまう。水素ステーション事情が悪いこともあり、半分くらいになったら片道50kmの移動すら不安になっちゃいます。
●リセールバリューはほぼ期待値ゼロです
リセールバリューは「ほぼ」期待できないと覚悟すべき。たとえ2019年モデルあたりを買って5年乗れば、10年落ちのクルマになってしまう。その時点で水素ステーションは今より減っている可能性が高い。
水素ステーションや水素の取り扱いについての規制は民間企業の参入が事実上不可能なほど厳しいまんま。このままではMIRAIに乗りたい人はいない?
(TEXT/国沢光宏)
■FCEVだと切っても離せない水素ステーションの話
MIRAIを走らせるエネルギー源は水素だが、水素充填は専用のステーションで行う必要がある。
そのステーション数だが全国で161カ所が運用されており、分布は首都圏50カ所、中京圏49カ所(愛知県に集中)、関西圏20カ所、九州圏15カ所、他北海道や東北地方に数カ所ずつ拠点がある程度。
乗るとなれば近くにステーションがあるか押さえておきたい。水素の価格も上昇気味で、1kgあたり1600円~とする店舗が多い。
■では、実際にMIRAIの中古ってどう選ぶべき?
諸説あるが、筆者としては「買い!」と見ている。「水素タンクの交換費用は1本200万円」などとも言われているが、真偽のほどは不明だ。
そしてトヨタが定めているタンクの保証期間は「5年または10万kmの早いほう」だが、高圧ガス保安法による耐用期間は「製造から15年」なので、トヨタが自社開発したタンクが5年やそこらで逝くはずはない。
そのため2030年頃までは、タンク交換のことなど微塵も考えなくていいはず。そのほか車検のたびに「FCV専用点検」が必要になるわけだが、これにしたって莫大な金がかかるわけでもない。
つまり初代MIRAIは、高級車ゆえ「格安維持費で済む」という類のクルマではないが、ほどほどの維持費を愛車に投入する覚悟さえあれば、タンク交換が必要となる2030年頃までは割と普通に維持できる可能性が高いのだ。
そして中古車購入時のチェックポイントも、普通の高級車と同じである。つまり「手荒く扱われた形跡がなく、なおかつ正規ディーラーでの整備履歴がしっかり確認できるモノを、信頼できる店で選ぶ」という方向性で臨めば、おそらくは普通にイケるだろう。
●中古MIRAIのチェックポイント
・燃料電池車専用の点検メニューもあるがベラボーに高くもない
・維持費はヤリスほど安くはないが蓄えがあるなら充分乗れる
・整備履歴が残っている個体を信頼できる拠点で買おう!
・法律で交換義務があるタンクだが、破損さえなければ15年フルで使えるハズだ
(TEXT/伊達軍曹)
■結論:MIRAIの中古はストライクゾーンとなる人がかなり少ないのでは……?
「700万円のクルマが100万円台で!?」という気持ちから分析を重ねていった初代MIRAIの中古だが、少なくともたびたび県外へ遠乗りする企画担当にはアンマッチな選択のように思えた。しかも維持費が未知数という恐怖もある。
一方で、水素ステーションが近所にあり、その周辺でしか乗らないよと割り切れる人ならありかもしれない。ステーションの数さえ増えてくれればなぁ……。
■実際にMIRAIに乗る国沢親方が憂う「MIRAIはどう生きるか」
水素タンクの耐用年数が15年となっている。これを交換するとなれば、中古車相場より高くなるだろうから廃車にするしかなく、現在どうするか検討中。どうやら比較的安価なコストで耐用年数延長ができるようになるというけれど、現時点ではリスクと考えます。
また、弱点で挙げたとおりMIRAI最大にして唯一の弱点は「水素を使うこと」に他ならない。こう書くと水素そのものに問題あるのかと思うかもしれないが、そら違う。水素の供給体制を作ろうとしない国の責任です。考えてみたら石油利権って大きい。自民党だけで192人も関連団体のメンバーがいるほど。
先代MIRAIも現行MIRAIも買った。この10年で水素事情はよくなるどころか悪化している。こんないいクルマが事実上フェードアウトしそうになっていることを嘆きます。
(TEXT/国沢光宏)
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