日野自動車が北米向けのゼロ・エミッションブランド「ターン」(Tern)を発表、併せて大型BEVトラックの「RC8」を公開した。新ブランドは提携するノルウェーのヘキサゴンプルスと共同で運営する。
RC8ではパナソニック・エナジー製の車載用リチウムイオン電池が、世界で初めて商用車に採用された。バッテリーは当初日本で製造するが、2026年以降はシャシ、電動アクスルともども米国内で製造する予定だ
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/HINO MOTORS SALES U.S.A.,INC.・Hexagon Purus ASA
ゼロ・エミッションブランドの「Tern」
2024年5月20日、米国で開催されたトラックショー、アドバンスト・クリーン・トランスポーテーション(ACT)エキスポにおいて、日野自動車、およびその米国子会社である日野モータースセールスU.S.A.(以下、米国日野)は、ゼロ・エミッション専門のトラックブランド「ターン(Tern)」を発表した。
新ブランドは、ノルウェーのオーレスンを本拠にゼロ・エミッション技術の車両インテグレーションを行なっているヘキサゴン・プルスASA(以下、ヘキサゴンプルス)とのパートナーシップのもとでローンチしたもの。同社はパナソニック・エナジーとEV商用車向けバッテリーの供給契約を締結している。
発表にあわせて、ターンブランドの米国市場向けクラス8トラクタ(米国ではトラックを総重量によりクラス1からクラス8に分類しており、「クラス8」は最も重い区分)として、バッテリーEVの「RC8」が公開された。
ターン・RC8は日野の北米向けクラス7/8トラック「XL」シリーズの4×2シャシをベースに、ヘキサゴン・プルスのゼロ・エミッション技術を組み合わせたトラックとなる。バッテリー、補機類、電動のパワーモジュールなどは専用品で、シャシは米国で組み立てを行なう。
デーナ製の電動アクスル(eアクスル)「ゼロ8」を採用し、搭載するパナソニック・エナジー製のバッテリーは当初は日本で製造するが、2026年からはカンザス州デソトでの製造に移行する。従って将来的にはほぼ米国製のトラックとなる予定だ。なお、パナソニック・エナジーによると、同社の車載用リチウムイオン電池が商用車に搭載されるのは、これが世界初とのこと。
ターンのトラックは米国日野のインフラとサポートを活用しながら、専門のディーラーを通じて販売される。RC8の量産開始は2024年後半を予定している。
このローンチはカリフォルニア州の「アドバンスト・クリーン・フリート(ACF)」規制に合わせたもので、同州の運送会社は特定の用途においてフリートの一部をゼロ・エミッション車(ZEV)にしなければならない。ACF規制は同州のACT規制を更に強化したもので、ZEVの割り当て比率は徐々に引き上げられる。
米国の大型トラックは長距離輸送用の6×4トラクタが主流だが、都市部での集配送などもACF規制の対象となり、こうした用途では日野が得意とする小回りが利く4×2シャシの利点も多い。
米国日野の社長兼CEOのグレン・エリス氏はヘキサゴンプルスとのパートナーシップについて次のように話している。
「ヘキサゴンプルスとのコラボは、高い信頼性のあるクラス8の4×2トラクタを電気自動車市場に投入するという成果に結びつきました。これにより様々な用途が可能になるでしょう。ターンブランドのトラックを発売できることを嬉しく思っています。当初の販売エリアはカリフォルニア州になります。同州ではフリートの電動化の強制が始まっているからです」。
また、同社副社長でゼロ・エミッション車などを担当するロドニー・シェーファー氏は次のようにコメントした。
「ターンのディーラーと共に働くことで、この革新的な商品のお客様のために、強力な販売網とサポートネットワークを構築することを熱望しています」。
ターン「RC8」トラックの特徴
ターンのRC8トラックの特徴は次のようなものだ。
・100%純電動のプラットフォームで、ホイールベース165インチ(4191mm)はクラス最小級
・総重量(GVWR)は68000ポンド(30844kg)
・ヘキサゴンプルスの第3世代型バッテリーパック(269kWh)を2基搭載する。動作電圧は750ボルト。総容量538kWhはほとんどの仕事に充分な航続距離を提供する
・241kWでの急速充電に対応し、80%充電は2時間以内
・モーター出力はピーク680hp/連続494hp
ヘキサゴンプルスのCEO、モルテン・ホルム氏はターンRC8の実用性とパフォーマンスを次のように強調した。
「ターンRC8は快適性・信頼性・安全性を提供します。これはドライバーと運送会社が求めているものです。なによりも、既存のフリートにゼロ・エミッショントラックを組み込んだ時でも実用的であることを重視しています」。
ターンブランドの導入は、両社が変革を断行し、パワーやパフォーマンスを犠牲にすることなくゼロ・エミッション化が可能であることをトラック業界に告げるものとなる。
いっぽう、パナソニック・エナジー社長執行役員の只信一生氏は、「バッテリーシステムの分野でトップクラスの技術を有するヘキサゴンプルスと、米国日野が展開する商用車に、当社のリチウムイオン電池が搭載されることを誇りに思います。今後更なる成長が見込まれるEV商用車市場への参入は、パナソニック・エナジーの事業成長においても非常に重要なマイルストーンです。当社は電池開発・製造の技術と豊富な経験を活かしリチウムイオン電池業界の成長を牽引するとともに、ミッションである『幸せの追求と持続可能な環境が矛盾なく調和した社会の実現』を目指します」と話している。
なお、日野とヘキサゴンプルスはトヨタと共に取り組んだ「プロジェクトZ」以来のパートナーで、2022年に提携を発表しているが、その直後に日野のエンジン不正問題が発覚。しかし北米市場に大型BEVトラックを投入する方針は変わらず、予定通り2024年中に量産を開始する見込みとなった。
同じくACTエキスポでヘキサゴンプルスは22日、北米トヨタの大型車用燃料電池キットに水素タンクやバッテリーを供給することも発表している。
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