乗客が利用する座席周りに、電源コンセントやUSBソケットが付いている公共交通機関が増えてきた。新幹線が良い例であるが、高速バスや路線バスでの個人向け電源事情はどうなっているだろうか?

文・写真:中山修一
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■ここ十数年で花開いた車内コンセント

各席コンセント付きの東海道/山陽新幹線N700S

 地上を走る乗り物のうち、乗客向けのコンセントが付いた最も初期の例が、2000年頃の新幹線と言われる。

 鉄道の車内サービスの一部として、本格的に組み込まれるようになったのは2010年代以降と、まだそれほど昔の話でもない。

 コンセントを設置する目的は周知の通り、携帯電話やスマートフォン等々、バッテリーを積んだデバイスを誰もが持ち歩く時代へと変わり、移動中に充電できる設備を求める声が出てきたためだ。

■全く別の目的で用意されていた?

 それより遙か前の時代にも、例えばブルートレインやエル特急など、長距離列車の車両にはコンセントがあった。ただし付いていた場所は洗面所だ。

2008年頃の寝台特急「北陸」14系客車の洗面所。製造当初の姿形を残している。写真上寄り中央の細長い板がコンセント

 なぜ洗面所だったのか? その車両が製造された昭和40〜50年代当時、電気を通わせて動かす携帯型の道具自体が少なく、列車に長い時間乗っている際に乗客が使うものは、コンセントにプラグを挿して使う電気カミソリくらいだったようだ。

 髭剃りなら洗顔歯磨き等と合わせ、普通は洗面所で済ませるだろうということで、コンセントが洗面所に取り付けられていたわけだ。

■高速バスのコンセント事情

 鉄道ではコンセント付きがだんだん増えてきており、殊に新幹線では標準装備に近づくほどの、重要な車内サービスにまで上り詰めた。

 では、鉄道車両に比べ車体が小柄で、サイズの分だけ電力供給量も限られていそうなバスのコンセント事情は最近どうなっているだろうか。

 まずは高速バスであるが、こちらは乗車時間が長くなる路線が多々あり、スマートフォンのバッテリー切れ等に対応できるよう、座席周りにコンセントを設けた車両が結構投入されている。

 高速バスの予約サイトを見ても、コンセントの有無を確認できる検索オプションが用意されていたりと、高速バスとコンセントは今や密接な間柄になっているようだ。

■さすがに無い!? コンセント付きの一般路線バス

 一方で、日頃の足代わりに利用する一般路線バスをチェックしてみる。大抵の路線バスは乗る時間が短いため、乗車中コンセントに頼る機会はそれほど多くなさそうに感じる。

 さすがに路線バスにコンセント付きはないか、と思いきや、まだ少数派ではあるものの、なくはないようだ。日本で最も早くコンセント付き路線バスを走らせた事業者に、2015年の西東京バスが挙げられる。

 また、EVや燃料電池バスといった、電気の力で走行する方式の大抵の車両は、走行以外にも電力を分けられるように設計されている。

東京BRTのトヨタSORAにはAC100V電源が

 例えば東京BRTが使用しているトヨタSORAの車内には、乗客が利用可能なAC100Vのコンセントが用意されている。

■差込口は基本2種類

 続いて、日本で使われているコンセント付きバスの、差込口/プラグの形に注目してみると、一つ目がいわゆるコンセントと言われる家庭用100V電源と同じタイプ。

 もう一つは、PCや携帯端末でよく使われるUSBコネクターに対応した、出力5Vのタイプ。電源に使われるものでは、長方形の「Type-A(メス)」が殆どを占める。近年普及しているType-Cは今のところあまり見かけない。

■挿されば何でも挿していい?

 そういったバスのコンセント、プラグの形が合っていれば何でも挿して良いのかと言えば、決してそうではなく、利用して構わない機器の種類がある程度決まっている。

 バッテリーで動作する「携帯電話」、「スマートフォン」、「携帯ゲーム機」の充電が、大抵のバス事業者で共通している車内コンセントの用途だ。

乗車時間が4時間を超える三重交通「熊野古道ライン」には、一部座席にUSB電源がある

 よく、使ってはいけない道具の例になるのがヘアーアイロンだ。これには道具の消費電力が大きく関わってくる。

 スマートフォン等の充電器の場合、種類によって異なるが大容量タイプと称するもので5V 2.4Aくらいなので、消費電力で表すと12W程度になる。

 ヘアーアイロンもまた種類ごとに違うものの、1200Wなど非常に消費電力の大きいタイプがネックに。さすがにバス用の電源では、容量が足りずブレーカーが落ちる恐れが出てくる。

 乗客がどんなタイプのヘアーアイロンを持ち込むかは分からないため、消費電力の大きい方に合わせるしかなく、一律利用NGとなっているわけだ。

 同様にノートPCもゲーミング仕様となれば、一度に300Wも500Wも食べてしまうモデルが存在する関係で、充電可能なデバイスの対象外であることが多い。

■最大何ワットまで行ける?

 ここで少し気になるのが、バス車両が積んでいる電源供給装置(インバーター)は、最大何ワットくらいの容量を確保できるのか、という点だ。

 当然バス事業者によって使用している機器の種類がバラバラで、「これ」と言える数値はないのだが、軽く掘り下げてみたところ、大容量タイプで2500Wくらいまで出せるモデルが発売されているようだ。

 2500WあればヘアーアイロンでもゲーミングPCでも別に行けるのでは?と思いきや、それを40席に分配したとすれば、1席あたりの(平等な)利用枠は62.5Wになる。

 しかも、電気関連は軽視すると突如として凶暴化するので油断は禁物。カタログ値最大までフル稼働させず、スペックより低めに見積もっておいたほうが何かと無難だ。

 そうなるとコンセント一口あたりで使える容量は更に減る。各バス事業者で携帯端末の充電くらいに目的を絞っているのは、やはり何よりも乗客の安全を考えてのこと、と思われる。

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