里山や都市公園、企業所有林-。企業や団体などによって生物多様性が保全されている区域を、環境省が2023年度から「自然共生サイト」として認定し始めた。30年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全するとの目標(「サーティ・バイ・サーティ」)の達成に向け、機運を高める狙い。これまでに全国で184カ所が選ばれ、各地でさまざまな活動が展開されている。(古根村進然)  5月上旬、名古屋市東部に広がる「なごや東山の森」。湿地に穏やかな日差しが注ぎ、鳥のさえずりが響いていた。「後々の世代まで、この豊かな自然が守られてほしい」。285・7ヘクタールが今年3月にサイトとして認定されたことを、湿地保全などに20年以上携わってきた地元のNPO法人「なごや東山の森づくりの会」理事長の滝川正子さん(79)は歓迎する。

「なごや東山の森」で湿地の大切さについて語る滝川正子さん=名古屋市東部で

 法律や条例に基づく保護地域を除く93・4ヘクタールのエリアはOECM(保護地域以外で生物多様性に資する地域)として国際データベースにも登録される予定。滝川さんは「大切なものだと広く示されることはうれしい」と続けた。  東山の森は都市公園を含み、大半が市有地だ。湧水湿地が点在し、秋に白い花を咲かせる絶滅危惧種のシラタマホシクサが生息。900種類以上の昆虫も確認されている。市が遊歩道などを管理する一方、滝川さんらは湿地や水辺の保全に向け、周辺の雑木林や竹林の間伐、生物調査に取り組んできた。「専門家にも頼りつつ、保全に共感する仲間を少しずつ増やして歩んできた。ここは季節の変化を感じられる場所。動植物が豊かに育つよう力を注ぎたい」と意気込む。  スタジオジブリの映画「となりのトトロ」の舞台のモデルの一つとされ、東京都と埼玉県にまたがる狭山丘陵とその周辺に点在する「トトロの森」も認定を受けた。  谷状の地形や湿地などがある里山で、希少なオオタカが生息し、赤紫色の花を付けるカタクリが群生している点などが評価された。「行政や住民にも大切な場所として認められ、一緒に守っていく体制ができればうれしい」と、管理保全を担う公益財団法人「トトロのふるさと基金」(埼玉県所沢市)事務局長の北浦恵美さん(58)は話す。  基金は、丘陵の自然を守るため、市民や企業から寄付を募って土地を買い取る「ナショナルトラスト活動」を30年以上続けてきた。購入地をトトロの森として、ボランティアとともにコナラやクヌギの間伐や下草刈りのほか、森を若返らせるため古い樹木を伐採する「萌芽(ほうが)更新」も実施。北浦さんは「子どもたちが暮らしの中で自然を感じられる場所。宝物として守っていきたい」と言う。  最も広い2万4953ヘクタールが認定された北海道大の雨龍(うりゅう)研究林(北海道幌加内町(ほろかないちょう))。手付かずの原生林が残るほか、動物の死体や枯れた植物が分解せずに堆積した「泥炭湿地」に、原生のアカエゾマツが育っている点でも珍しいという。国内最大の淡水魚イトウなど絶滅危惧種も生息する。

国内最大の淡水魚で絶滅危惧種のイトウ(北海道大北方生物圏フィールド科学センター提供)

 大学は、原生林には著しい改変を加えないよう管理。研究拠点もあり、同大北方生物圏フィールド科学センターの小林真准教授(樹木生態学)は「森に蓄積する炭素量を測るなどし、気候変動が森林に及ぼす影響も調べている」と説明。認定を受けたことで「研究林における約40年間のモニタリング成果などが広く知ってもらえる意義は大きい。共に研究林を管理していく企業などの仲間ができたら」と期待する。


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