これまで気象庁では、線状降水帯の発生予測を半日程度前から全国を11ブロックに分けて呼びかけていたが、解析技術の進化などにより「府県単位」に変更された。
<防災マイスター解説>
これまで【東北地方のどこかで発生】と発表していたものが、【福島県内で発生】と言えるようになったということは、事前に構えることにつながる。
東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・松尾一郎さんは「2023年に線状降水帯が発生した33回の大雨のうち、死者・負傷者が出た大雨は14回もあった。だから、備えたり構えたりしなきゃいけないということ。この気象台からの新たな情報をどう生かすかが問われている」と話す。
<認知度アンケート>
福島テレビでは、福島県59の市町村にアンケートを行った。
都道府県を絞り込んで発表することについての認知度は、7割以上が把握していたものの、「知らなかった」と回答した自治体も1割ほどあった。
また、この変化に伴う防災対応は3割の自治体が「決まっていない」としている。
この線状降水帯の「事前情報」にまつわる変更について、街なかで話を聞いてみても「知らない」という声が多数で、あまり浸透していない。
<被災者の声「情報さえあれば」>
一方、過去に線状降水帯による被害を受けた地域では。
福島県只見町叶津地区に住む三瓶彰治さんは、2011年の「新潟・福島豪雨」で自宅裏の川が氾濫し床上浸水被害にあった。
避難を決めた時には道路が冠水しはじめ、急いで近くの観光施設に身を寄せたが、もっと早く情報が入れば避難先や持ちだす荷物の整理など適切な行動がとれたのではないかと振り返る。
「山間部で雨が降ると、一気に水かさが高くなる。引くのも早いが上がるのも早い。だから情報さえ分かれば、町の中心部に避難するということも可能だったのではないか」と三瓶さんはいう。
<経験のない大雨に混乱>
2011年7月に発生した新潟・福島豪雨。只見町では、4日間の降水量が711ミリと、平年の1カ月の雨量の2.5倍に達し、これまでにない大雨が会津地方を襲った。
1人が行方不明、500棟を超える住宅が被災し、JR只見線が寸断されるなど甚大な被害が発生したが、当時は線状降水帯に警戒を呼びかける体制は整っていなかった。
只見町・町民生活課の酒井文高さんは「地区によっては、どこに避難していいのか分からない状況だった。あそこまでの災害が起こると思っていませんでしたので、経験がないということで、大変な思いを町も住民もされたと思う」と振り返る。
過去にない災害を目の当たりにした只見町。一度出された大雨警報が解除されたあとに再び発表され、町内各地で越水・冠水が確認されてから災害対策本部を設置するなど対応は困難を極めた。
<いち早い情報の伝達を>
只見町では、発表方法の変更に頼るだけではなく、町としても「情報を間違いなくいち早く住民に届けること」を重視した取り組みをすすめる。
只見町・町民生活課の酒井さんは「13年前の新潟・福島豪雨の時も、土砂災害や倒木で情報伝達手段がかなり失われてしまった。伝達手段を整備し、避難の判断とか迅速な対応につなげたい」と話した。
<県ごとの発表も…福島県は広い>
「得られた情報をどう伝えるか」も課題となるが、福島テレビが福島県の全自治体に行ったアンケートでは「県域が広いので、どの程度の精度が期待できるのか」「本自治体に影響があるかを判断して対応にあたる必要がある」などの声もあり、まだ課題もありそうだ。
<半日前に得た情報を活用できるか>
「線状降水帯の発生」に関わる情報は「予測情報」と「発生情報」の2つある。防災マイスターの松尾さんは「半日前に発表される予測情報は、約12時間前に発表される。自治体としてはこの12時間でどう対応するか考え、事前に市民に避難してもらうことができる。しかし、発生情報はいま起きていることについての発表。この段階での避難は難しい。だから、精度の問題はあったとしても、半日前に出される情報をどう使うかまずは考えることが重要」と指摘する。
<情報を受けた後の対応は?>
アンケートでは「市町村の対応に統一性を」という意見もあった。避難所の開設や住民への呼びかけは検討されているものの、それ以上になると自治体によって検討状況が異なる。
2023年9月に福島県で初めて「線状降水帯の発生情報」が出されたいわき市では、教訓を踏まえた訓練が行われ、「車の避難のさせ方」や「公共交通機関を使った避難所間の移動」など、具体的な動きを市と住民が一体となって確認していた。
「得た情報をどう行動にいかすか」個人でも考える必要がある。
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