次男(2)がホテルのエレベーターの隙間(すきま)に落とした「GT―R覆面パトカー」のミニカーが、レッカー車のミニカーにけん引されて、自宅まで戻ってきた――。愛知県在住の母親(37)がそんなほっこりエピソードをX(ツイッター)に投稿したところ、約30万の「いいね」が付いた。共感の輪が広がった背景とは。【坂根真理】
アカウント名「卯月」さんこと母親によると、次男の小さな手にはいつもお気に入りのミニカーが2~3個、握られている。
家族旅行で訪れたホテル「W大阪」(大阪市)でも、GT―R覆面パトカーともう一つ、ミニカーを手にエレベーターに乗っていた。ドアが開き、降りようとした時だ。息子が言った。
「落ちちゃった」
その言葉に、母親が下を向くと、ドアの開閉部分の隙間から、ミニカーがカタカタと音を立て、落ちていった。
「あー。入っちゃったね。これは取れないよ」
なだめる母親に対し、次男は大泣きし、5歳の兄も悲しそうな顔に。ミニカーは兄が、車のボディーやシートの色を選んで作ったオリジナルのパトカーだった。
次男は泣きじゃくり収まらない。見かねた夫がフロントに相談した。
「ミニカーを落としてしまいました。取れませんよね」
すると、ホテルマンがエレベーターの管理業者に相談し、こう回答した。
「個別で依頼すると料金がかかりますが、定期点検時でよければ、拾ってお届けしますよ」
感謝の言葉とともにホテルを後にし、自宅のある愛知県に戻った。
「落としちゃった」。何度もミニカーを失ったことにショックを訴える次男。「すぐに取れないんだよ」「後でおうちに届くよ」。そんな会話を交わしてからしばらくたった頃だった。
ホテルから小さな荷物が届いた。開いてみると、レッカー車のミニカーに、落としたGT―R覆面パトカーのミニカーがけん引されて届いた。
母親は思った。
「あれ? 他の子が落としたレッカー車が間違ってうちに届いたのかな」
だけど、傷一つなく新品のように見えるレッカー車。メッセージカードが同封されていた。
<この度はW大阪にご宿泊いただきありがとうございます。大阪から愛知までレッカー車にてお車のお届けに参りました。お車に不具合等ございましたら、我々メカニックチームまでご連絡下さいませ>
胸がいっぱいになった。母親はホテルの対応に感激し、Xに投稿した。
<先日泊まったホテルのエレベーターの間に次男がGT―R覆面パトカーのトミカを落としてしまい、それが今届いたのだけど、なんとレッカー車に乗ってきたw粋な計らいだわ……!!!>
フォロワーは約420人だが、「いいね」はその700倍以上に。「こんなことされたら、また泊まりに行きたくなりますね」「落としてしまった悲しい思い出から最高の思い出に変わりましたね」。温かいコメントが相次いだ。
「レッカー車」決めたのは?
ホテル側は、どのような経緯で「レッカー車でけん引」を決めたのだろうか。「W大阪」広報担当の小笹朋美さんに聞いた。
エレベーターの点検時に、ミニカーは無事に回収できた。そして、同じ年ごろの男の子を育てる男性スタッフが助言したという。
「小さな子どもにとって、大切なおもちゃをなくすのは、とっても悲しいこと。僕には分かります」
ミニカーを返却するだけでなく、「ひと工夫」できないかと提案したのだ。どうしたら喜ぶだろうか。アイデアを出し合った。その結果が、レッカー車にけん引されて、自宅に戻るというストーリーだった。
母親は、明るく振り返った。
「粋な計らいに感動しました。レッカー車を買いに行って、わざわざGT―R覆面パトカーを引き、梱包(こんぽう)して……と想像したら、ほっこりしました」
小笹さんは「(今回の取り組みは)同じホテルのスタッフとして誇らしい気持ちです。日ごろから遊び心を忘れないサービスを心がけており、うまく表現できたいい例になりました」とうれしそうに話した。
大好きなミニカーが戻ってきた次男はとても喜んだ。だけど、2歳の男の子には、ホテルの人たちの「ひと工夫」は、まだ理解できなかったという。母親はほほえむ。
「もう少し大きくなったら、(心温まるストーリーを)伝えようかな」
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