知らない人は増えている?
子どもの血液型はどのぐらいの人たちが知っているんでしょうか。
渋谷の街で子育て中の人たちに聞いてみました。
「上の子は知っているけど、下の子は分かりません」(13歳と1歳母親)
「子どもの血液型を知りたいって言ったら、かかりつけ医から調べておかなくていいと言われました」(1歳母親)
「そういえば知らないですね。どこで調べるんでしたっけ?」(父親)
子育て世代の親に聞いたところ、子ども30人中、半数以上の18人の血液型は“知らない”という答えが返ってきました。
知らないと答えた親に、子どもの血液型を調べたいかを聞いてみると、その必要はないと感じている人も少なくありませんでした。
「わざわざ血を抜いてまで知りたいとは…。占いくらいにしか役に立たないと思うので」
「血液型を知ることでなにか先入観を持ってしまいそうなので、知りたくないです」
そもそも血液型の調査とは
血液型といえばかつては誰もが知っていたイメージですが、なぜ子どもの血液型を知らない親が増えているのでしょうか。
40年にわたって新生児を診てきた埼玉医科大学の加部一彦特任教授によると、A、B、O、ABの4つに分けられるABO型の血液型は、1990年代ごろまでは全国の多くの産婦人科で、赤ちゃんが生まれた時に調べて、親に知らせるサービスが行われてきたということです。
しかし新生児の検査は実際の血液型とは異なる判定が出ることがあり「違っていた」などとしてトラブルに発展するケースもあったといいます。
こうしたことから、ここ20年ではほとんどの病院が、出生時に子どもの血液型を調べて親に知らせることを行わないようになったということです。
子どもの血液型を知りたい場合には、正確な検査ができるようになる年齢(3歳~4歳以降 個人差あり)になってから、自費診療で病院に検査を依頼する必要があるということで、そのまま大人になるまで調べない人が増えているとみられています。
埼玉医科大学 加部一彦特任教授
「子どもの血液型を知りたいという親御さんもいらっしゃいますが、自費でお金がかかることなどを説明すると、検査しないことを選ぶ方が多いです」
記入欄は役立つ?医師に聞くと
ただ一部の保育園や幼稚園、小学校では、入園時に提出する書類のほか、防災頭巾や名札などに血液型を書く欄が設けられていることもあります。
やっぱり災害時や交通事故などの緊急時に備えて、血液型は子どものうちに調べておくことが必要なのでは…?
学校の校医も務めている奈良県小児科医会会長の高田慶応医師に聞くと、その心配は全くなく、無理に調べる必要はないと言います。
高田慶応 医師
「輸血の際には必ず病院で詳しい血液型の血液検査をします。病院は自分のところで検査した結果しか信じない、と言ってもいいでしょう。家族の申告や園の書類、名札の血液型を見て輸血することは絶対にありえません。医療者からすると何の役にも立たない情報なんです」
高田医師が院長をつとめる奈良県生駒市のクリニックでは、ホームページに子どもの「血液型の検査をする必要はありません」というお知らせも掲載しています。
このクリニックでも数年前まで、保育園や幼稚園の入園前に「書類に血液型を書く欄があるので調べたほうがよいでしょうか?」という相談がたびたび寄せられていたそうです。また「名札の裏に血液型を書かないといけないので」と子どもの検査を希望する保護者もいました。
このため高田医師が生駒市の担当者に要望し、いまでは市内の保育園や幼稚園では書類から血液型の記入欄がなくなってきたそうです。
高田慶応 医師
「小さな子どもに痛い思いをさせてまで必要のない血液検査をするのは不合理なだけなのかなと思います。真面目な保護者は記入する欄があると『調べないといけないのかな』と思ってしまう人もいるので書類や名札からも血液型の記入欄はなくなったほうがよいと思います」
また高田医師は血液型は親子関係にも関わる個人情報のため、学校や保育園などが安易に収集することにはリスクがあるとも指摘します。
記入欄 なくす自治体も
愛知県東海市でも先月まで、公立の保育園に入園する際の提出書類に記入欄がありました。
数年前にも「必要ないのではないか」という意見が上がったものの、そのまま運用してきたということですが、改めて必要性について検討した結果、今年度から血液型を記入する欄を廃止することになりました。
東海市幼児保育課 担当者
「Rhマイナスなどの人数が少ない血液型を保育園が把握しておくメリットもあるかと考えていましたが、ほとんどの子どもは入園時に血液型が判明していない状況です。書類のために血液検査を受ける必要があるという誤解を招くデメリットもあると判断しました」
日本人には少ない「Rhマイナス」の血液型など、特別な事情がある場合には、「その他」の欄に記入してもらうように呼びかけるということです。
血液型 調べたいときは
子どものときに知る必要はないという血液型ですが、街で聞いていてもやっぱり気になるという親の声も聞かれました。
家族にRhマイナスの人がいるなど、希少な血液型の可能性があって知っておきたいという場合は、保険が適用されない自費診療で調べることができます。費用は医療機関によって異なりますが、3000円から5000円程度で受けられることが多いようです。
また小さいころは分からないままでも、高校生や大学生になってから、献血をすることで血液型を知ることもできます。
日本赤十字社に確認すると「輸血における安全性を確保するため、また善意で献血にご協力くださる献血者に健康管理の参考として役立てていただくために、血液型を含めた検査を実施しています」としていて、献血の際に希望者には血液型を知らせているということです。
ハラスメントには注意
一方、渋谷の街で聞いた時に、気になる話もありました。
「病院から、差別になるので調べませんって言われました」
生まれた時に親が子どもの血液型が何か尋ねたところ、病院側から『ブラッドタイプ・ハラスメント』になる可能性を指摘されたということです。
日本では血液型とその人の性格とを結び付けることが流行したこともありましたが、こうした性格診断には科学的な根拠はありません。
厚生労働省の『公正な採用選考をめざして』というパンフレットでは「血液型や生年月日による星座は本人に責任のない生まれもった事項であり、それを把握し特定の個人の適性・能力を固定化して見ることになれば、把握されることを心理的負担と感じる応募者を生み、それが就職差別につながるおそれがある」として、注意を呼びかけています。
今回取材した加部特任教授は、血液型について尋ねられても、分からない場合や答えたくない場合は「不明」や「空欄」で回答すればよいと話していました。
埼玉医科大学 加部一彦特任教授
「血液型を名札や書類などに記載しても、医学的には役に立たないので、子どものころに無理に知る必要はありません。カルテには血液型を記入する欄がありますが、空欄がほとんどです。また、よく言われる性格と血液型の関係についても、科学的根拠は全くありません。20年ぐらいたつと、それまで当たり前にやっていた色々なことが変わってくる、ということですね」
(取材 ネットワーク報道部 藤目琴実 鈴木有)
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