奈良県西部の中核病院・県西和医療センター(三郷町)の心臓血管外科が、2023年3月末から心臓手術を停止している。これまで1人で年間40~50件の手術を担っていた50代の男性執刀医が医療事故を疑われて手術を止められたことをきっかけに、疑いが晴れた後も再開できていないという。【稲生陽】
緊急手術の受け入れも停止し、10キロ以上も離れた別の病院に搬送する必要が生じている。管轄する県立病院機構(奈良市)の上田裕一理事長は「停止させる判断は適切だった。そもそも医師数の少ないセンターでは手術はするべきでない」と説明する。
西和地域で唯一の心臓血管外科である西和センターの同科には県立医科大から医師2人が派遣されており、心臓手術は専門医であるこの男性執刀医のみが担当していた。執刀医はほぼ毎日、院内に泊まり込み、患者の術後管理の診療も担うなど熱心さで知られていた。
だが23年3月、同年1~3月に執刀した80代の患者3人が相次いで亡くなったことで、医療事故を疑われた。同じ病院機構管轄の総合医療センター(奈良市)が機構に通報。機構の上田理事長が西和センターにすぐ手術を停止するよう指示した。
3件のうち2件は緊急手術で、いずれも成功率の低い難しい事案だった。機構の聞き取り調査で医療事故ではなかったと判明したが、機構が西和センターに「改革案」を示したところ執刀医が反発した。心臓血管外科医8人(当時)を擁し、年間で約2倍の手術件数がある総合医療センターから手術のたびに「医師の派遣を受けて指導を仰ぐ」という内容で、執刀医は「何も悪いことはしていないのに、監視されながらの手術はできない」と主張した。その後は医大が協力した2件を除いて手術を停止している。
執刀医は「必死にやってきた努力や実績を否定され、次は何を言われるのかと怖くなった。断らざるを得なかった緊急手術も多く、助けられた命があったのではないかと思うと本当につらい」と頭を抱える。「先生に執刀してほしい」と再開を待つ患者もいるというが、手術が止まっていることで院内では逆に医療事故を疑う声も出ている。
機構の上田理事長は取材に「医師が少ない医療機関では外から応援を招くなどして態勢を強化しないと安全性を保証できない。総合医療センターや大阪府側に受け皿はあり、県民への影響もないはずだ」と主張する。31年に予定している西和センターの移転後は、心臓血管外科を総合医療センターに集約させるべきと訴えた。
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