日本の農機具販売会社で働くミャンマー人社員(写真・J-SAT)

出入国在留管理庁の発表によれば、2023年6月末時点の在留外国人数が322万3858人と過去最高になりました。その後も在留外国人数は増加し続けています。

この状況を踏まえ、日本の人手不足を考えると、在留外国人数は今後もつねに過去最高を更新する可能性が高いでしょう。

一方で、日本の外国人労働者需要の拡大に対し就労希望者の出身国の経済成長は顕著であり、とくに先進国を中心に世界各国が人手不足に直面しています。

人手不足の解消には外国人労働者は不可欠であり、その外国人に将来にわたって日本を選んでもらい、安定的に雇用できるか重要なポイントになってきています。

このような状況下で、出入国在留管理庁は「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定するなど、日本が選ばれる国としての地位を確立しようとしています。

共生社会=平等扱いではない

「外国人との共生社会」とは、一言で言えば何でしょうか。多くの人が日本人も外国人も分け隔てなく、「平等」であることと答える人が多いかもしれません。つまり、日本人と同じ給与や待遇で採用することが「平等」であり、それこそ「外国人との共生社会」を実現することになると思っている人も多いでしょう。

ところが、これ自体が間違っているわけではありませんが、文化人類学者で国立民族学博物館の田村克己名誉教授は、そんな日本人が考えがちな「平等」には、誤解が含まれていると指摘しています。

それは、「平等」という言葉は「日本人目線」で用いられることが多く、それが海外の人々にとっては平等ではない、異なる意味を持つ場合と説明します。

最近では、2024年1月1日に発生した田村氏自身が外国人と接して気づかされた一例は、能登半島地震で被災したミャンマー人たちのケースです。

彼らは1次避難所で日常生活を送っていましたが、行政の配慮により、お年寄りとともに2次避難先のホテルに優先的に案内されました。これは日本人からすれば「平等」以上の対応であると思われるかもしれません。

ところが、ミャンマー人たちは違う感情を抱いており、逆に「外国人だから見捨てられた」と感じたそうです。実際、1次避難所では食事を含めた支援を受けていましたが、2次避難所に移されたミャンマーの方々は、自炊のできるほかの施設に移ったミャンマーの方から食事の配達を受け、外食は回避できましたが、不自由な生活を余儀なくされました。(「ミャンマー関西」主催、能登半島地震・現地激励行動報告会〈被災ミャンマー人の状況について〉

このように、日本人と同等以上の対応を行っても、すべてが解決するわけではありません。相手の置かれた状況や価値観を理解し、解決策を模索することが多文化共生のカギだと田村氏は指摘しています。

給与だけを平等にすればよいのではない

外国人を雇用する現場でも同様の事例が見られます。ある外食企業では、ミャンマー人を特定技能資格者として雇用しています。彼らは非常に真面目で社内評価も高いのですが、日本人と同様に自発的に動くことや責任を持つことについての成長が見られませんでした。

現場責任者は、給与が日本人と同等以上であれば、彼らも同じように成長すると思い込んでいました。しかし、日本人と同様の給与を支払っても、彼らが求める目標や方法を明確に伝えていなかったことがわかりました。

日本人にとっては当たり前は、外国人にとっても当たり前とは限りません。現場責任者が求める理想像を具体的に伝え、その意味を正確に伝える。できない訳ではなく、理解できていなかっただけなのです。

外国人が求めること、不足していることを理解し、会社のルールを変えれば、外国人だけでなく、日本人の安定雇用にもつながり、ひいては日本を目指す外国人が増え、「選ばれる日本」になる1つの要因になりえると感じています。

実際に、そうした外国人の考えを汲み取り、会社のルールを変え成功している事例があります。その会社では、ミャンマー人エンジニアを正社員として採用しています。このミャンマー人は5年ぶりの一時帰国を検討するも、会社のルールで有給以上の休暇を取る仕組みがなく帰国を断念していました。

ミャンマーの地方出身の彼は、ミャンマー到着後も実家まで片道で丸1日かかります。日本からの飛行機移動も考えると、10日程度の休みでは家族と出会ってもすぐ帰らなければならず、無給でもいいので長めの休暇申請ができないか企業に相談しました。

そんな休暇を取られては、日本人従業員との不公平感が生まれる、だから許可できない――。とも考えたのですが、実際に現場で一緒に働く日本人からも「なんとか長めに休ませてあげられないか」と打診もあったことを受け、特別に長期の休暇を認めることにしました。

雇用主の「平等破り」に外国人は感謝する

現場を抜けられると困る点もあったとは思いますが、これまでの勤務態度や姿勢から、現場の協力もあって、家族と久しぶりにゆっくりと過ごすことができたようで、本人は企業の特別判断に非常に感謝していました。

この会社では、ミャンマー人の継続採用を検討しており、継続採用の際には、面接官として現地に渡航することで、重ねて一時帰国できる仕組みもつくってあげようと協議を進めています。

ほかにも、外国人従業員の気持ちを考えたうえで会社のルールを変え、地方で安定雇用に成功している北陸地方の介護事業者をご紹介したいと思います。

都会と比べると給与は低く、かつ都心と同レベルの給料を支払うのは難しい。それでもせっかく育成した人材が、技能実習が終わり特定技能に切り替わる転職可能なタイミングで会社を辞めてしまうことが起きていました。

そのような中、介護技能実習生として働く男性の1人から「親戚や彼女を採用してもらうことはできないか」と受け入れ企業に相談がありました。受け入れ企業は当初、「縁故採用なんてすれば、日本人からも不平不満が生じる」と悩んでいたそうです。

早速、本人にヒアリングすると「長く日本で働きたいと思っており、もし受け入れ企業が彼女や親戚の受け入れを進めてくれるのであれば、責任をもって彼らのサポートをする」と言います。

そして「長く働くことでこの企業に恩返ししたい。気心知れた彼女や親戚が身近にいれば、わざわざ知らない人がいる都心に行かなくても、ここで生活を続けられる」と、地方で安定して働くという希望を持っていたようです。

最低賃金の高い都会を目指す人材が多い中、いかに地方に定着を進めるか頭を抱える企業も多いですが、こうした「平等破り」は、地方企業での定着に向けたヒントになります。

このように一見、日本人から見ると日本人と外国人社員の間で「不平等だ」と思い、会社のルールで外国人の主張を受け入れられないと思うことはあります。しかし、それでも少し耳を傾けてあげるだけで、課題が解決できる例はたくさんあります。

理解ができる範囲での「特別扱い」。日本人と平等だからというものさしでは、社内の問題をすべて解決できるわけではありません。それでも、わが日本は「おもてなしの国」ではありませんか。そうした、ちょっとした気遣いと特別扱いが、優秀な外国人にとって優しい社会になれるのです。

ミャンマー人は「口コミ」で職場を探す

日本人はアジア諸国の事情も知らず、「外国人は日本にあこがれて、日本企業が募集をかければ勝手に外国から就業希望者が来てくれる」「日本を選んでくれる」と思っている経営者などが少なくありません。

そして日本人と平等であれば「外国人にとっても問題ないだろう」「ここは日本だ。だから日本の価値観を学べ」と押し付ける現場もまだまだ多く目にします。

とはいえ、相手が大切にしていることを汲み取り、それが解決できる仕組みを作ることができれば、外国人はもちろん、日本人にとっても魅力的な職場、企業になれるのです。外国人とともに働くことで、日本人にも魅力的な働きやすい職場をつくるきっかけになることがたくさんあります。

一口に外国人といっても国によって異なります。当然、人間ですのでひとりひとり異なります。外国人を採用したらこうすればよい、という明確な答えはありません。

まずは、外国人を受け入れてみて経験する。初めはわからなくても、実際に受け入れを行うとさまざまな問題が発生します。それらを日本人目線だけではなく、外国人目線、当事者目線でひとつひとつ改善してあげること。そうすると外国人からの信頼が生まれます。

そして、ミャンマーでいえば、ミャンマー人は企業の大小ではなく、口コミで仕事を選ぶ傾向があります。これはミャンマー以外の外国人からもよく聞かれます。

「自社に都合のよい、来てくれる外国人労働者を探す」というスタンスではなく、「事業者自らが変容することで、外国人労働者に喜んで来てもらえるようになる」スタンスを取ることが必要です。

ミャンマー人からだけでなく、多くの外国人から「海外で働くなら日本がいいな」と、こんな言葉を世界各地で耳にできるような日本社会になり、多くの日本企業から、そのような風土が生まれてほしいと願っていますし、それは、ちょっとした外国人への気配りで実現できる可能性が高いのです。

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