海と向きあう漁師の姿を追うシリーズ「海と生きる」。今回は春が旬の「赤マテ貝」に注目する。代々伝わる伝統の漁法にカメラが迫った。

貝の感触に意識を集中させて

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知る人ぞ知る春の味覚「赤マテ貝」。 

赤マテ貝は大村湾と佐世保湾をつなぐ針尾瀬戸の潮の流れが早い海域に生息している。針尾無線塔のすぐ近くにある針尾漁港では、地域に古くから伝わる「マテ突き」という珍しい漁法で「マテ貝」漁が行われている。漁は2月から5月までの4カ月間のみ。

漁を始めて約60年の村上軍次さん(80)は、毎年春は赤マテ貝漁に専念している。

KTN記者:午前6時45分、潮の流れが早い針尾瀬戸の近くの海域で全国的にも珍しいマテ突きという漁が今始まりました

80本のモリが付いた漁具を深さ20メートルの海底に沈める。ロープを上下させ、砂地にいる赤マテ貝を突き刺し、モリを引いたり戻したりを繰り返す。元々は瀬戸内海で行われていた漁法を村上さんの曾祖父が習得し、80年ほど前に針尾で広めた。漁具の重さは90キロ、貝の感触に意識を集中してロープを扱う。

村上 軍次さん:漁具は重たいよ
――水を流しているのはどうして何ですか
ロープとタイヤが熱を持つのを防ぐため

約20分後、漁具を引き揚げると赤マテ貝が1本のモリに何個も刺さっている。無闇やたらとモリを刺しても赤マテ貝はとれない。中心をうまくとらえないと貝を逃してしまう。村上さんならではの熟練の技が生きる。

潮流が速い場所に生息「赤マテ貝」

針尾でとれる赤マテ貝、その生態を調査研究している人がいる。

長崎大学水産学部の竹内清治准教授は2018年に佐世保市からの依頼で生態調査をしたのをきっかけに研究を始めた。

長崎大学水産学部竹内 清治准教授:潮干狩りなどで塩を入れてとる一般的にマテ貝は「潮間帯」と言って潮の満ち引きで陸になったり海になったりする場所が主な生息場所。今回の赤マテ貝は別の種類。赤マテ貝は「潮下帯」と言って潮が引いても海のままの場所に生息している。針尾瀬戸のように細まっている地形だと潮流が速くなる。潮通しが良い所で比較的砂の粒が大きいところに赤マテ貝が生息する。

――赤マテ貝の味は
美味しい。貝っぽくないんですよね、イカっぽい

針尾瀬戸は潮の流れが速いため、漁をするのに場所を間違わないように山を見ながら何度も船の位置を調整しなくてはならない。

モリにかみついた「海洋ごみ」

漁具にかかるのは獲物だけではなく、海洋ごみも多くからめてしまう。村上さんは、以前と比べて赤マテ貝がとれなくなってきていると実感している。

村上 軍次さん:昔は30箱くらいとれていた。今は10分の1

竹内准教授の研究データも赤マテ貝の減少を裏付けている。

長崎大学水産学部竹内 清治准教授:出荷量は減少している。我々の調査も2021年、2022年の個体数に比べて2023年の個体数密度というのが3分の1に減少している

竹内准教授は、原因の解明にあたっていて、海水温の上昇など環境の変化も一因になっているのではないかと考えている。

体が続く限り…

現在、針尾のマテ突き漁師は村上さんを含め3人だけ。今のところ後継者はいないという。

村上 軍次さん:きついだけでなく、一日中こんな仕事耐えきらんよ。体の続く限りはやろうと思うけれど…貝がおらんごとなって来た

1回20分の漁を10回続け、港に戻る。この日の水揚げは約20キロでいつもの半分ほどだった。港に戻るとすぐに出荷の準備をする。佐世保市のブランドに認定された「針尾赤マテ貝」は、長崎県内の魚市に出荷するほか地元の直売所でも販売している。

焼いて良し、煮てよし、食べ方は色々の「赤マテ貝」。その裏には後継者不足や資源の減少など様々な問題を抱えながらも漁を続けるベテラン漁師の存在があった。

(テレビ長崎)

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