オランダの街で電動自転車に乗る人。米国とカナダは、自転車のインフラに関して多くのヨーロッパ諸国に大きく後れを取っており、安全なルートの不足が電動自転車の普及を妨げている。(PHOTOGRAPH BY ILVY NJIOKIKTJIEN, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

やや意外かもしれないが、電動アシスト付き自転車(以下、電動自転車)には、一部の人たちが思う以上に健康上のメリットがある。筋肉が強くなる、寿命が延びる、心臓の健康が改善される、比較的汗をかかずに目的地に到着できる。これらはすべて、すでに証拠が得られているプラスの効果だ。

「身体活動は、心血管疾患、がん、糖尿病を含む複数の病気のリスクを軽くすることがわかっています。そして、電動自転車に乗っているときの運動の強度は、これらの健康効果をもたらすのに十分です」と、西ノルウェー応用科学大学の運動科学インストラクター兼研究プログラムマネージャーであるアムンド・リーセル氏は言う。

電動自転車は世界中で利用が急増している。米エネルギー省のデータによると、2019年に米国内で販売された電動自転車は28万7000台だったが、2022年には110万台に増えている(編注:経済産業省の生産動態統計によれば、日本での電動自転車の販売台数は2019年は約69万8000台、2022年は約79万5000台)。

しかも、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、オランダの人口あたりの電動自転車の利用者数は、米国を上回っている。スイスでは、販売される自転車の7台に1台は電動自転車であり、また中国の多くの地域では、自動車より多くの電動自転車が走っている。

「電動自転車が今後ますます普及し、交通手段と娯楽の重要な一部となっていくことを示す強力な証拠があります」と、米テネシー大学ノックスビル校の土木工学教授クリス・チェリー氏は述べている。

電動自転車に乗るメリット

電動自転車に頻繁に乗ることで、肥満とそれに関連する疾患のリスク軽減、心拍数の改善、筋肉の増加と引き締め、肺活量や最大酸素摂取量(体内に取り込まれる酸素の最大量、VO2max)の増加が期待できる。

「ペダルを漕ぐにつれ、筋肉の酸素需要が高まります」と、ノルウェー、交通経済研究所の主任研究心理学者アスラク・フィーリ氏は言う。その需要に応えるために、心臓はより多くの血液を送り出し、呼吸は激しくなり、肺活量が増えると氏は説明する。

さらに、ペダルを漕ぐことで下半身の筋肉を強くし、またハンドルを握ったり、直立の姿勢を保ったり、バランスを取ったりすることで上半身の筋肉を強くする。

リーセル氏らによるレビュー論文によれば、電動自転車に乗ると、健康と寿命に大きく関わる有酸素運動能力が向上するという。

また、さまざまな研究からは、電動自転車は血糖値の管理に役立ち、BMI(体格指数)を改善し、さらには「関節にやさしい、すばらしく低衝撃の運動」になると、米テネシー大学ノックスビル校の運動生理学名誉教授デビッド・バセット氏は言う。氏によると、血圧を改善することも示されているという。

実際、心血管系および呼吸器系への恩恵は、電動自転車も従来の自転車もほとんど変わらない。米ブリガムヤング大学公衆衛生学部のグループによる研究で、マウンテンバイクに乗り慣れている参加者を集め、電動自転車と従来の自転車に乗ってコースを走ってもらったところ、どちらの自転車でも大半の人は「高強度の運動の心拍数ゾーン」に入っていたことがわかった。

別の研究でも同様の結論が得られているほか、先に挙げたレビュー論文では、電動自転車に乗ったときの酸素摂取量は最大酸素摂取量の51〜73%、従来の自転車では58〜74%とほぼ変わらなかった。

「電動自転車に乗ることは、エネルギー消費量、最大酸素摂取量、代謝当量(運動の強度を示す指標)などを含む、フィットネスに関するさまざまな生理学的な指標において、中程度から高い強度の活動とみなせると、多くの研究で示唆されています」と、英ブリストル大学で運動と栄養、健康科学を研究するジェシカ・ボーン氏は言う。

さらに、電動自転車は、少なくともひとつの点で、従来の自転車よりも優れている可能性がある。研究によると、電動自転車の利用者の方がより頻繁に、そしてより遠くまで乗る傾向があり、その距離は最大で50%も長くなる。結果、身体活動のレベルが高まる可能性があるという。「従来の自転車はより強度の身体的な負荷を必要とするせいで、1週間あたりに乗る時間が短くなってしまうのです」とチェリー氏は言う。

メンタルヘルスへの恩恵

電動自転車は体に良いだけでなく、ストレスの軽減、睡眠の改善、幸福感の増加など、メンタル面の利点も多くの研究で示されている。リーセル氏によると、サイクリングなどの有酸素運動に伴うエンドルフィンやセロトニンといった幸せホルモンの放出が、気分や生活の質をさらに向上させるという。

英国の研究では、認知機能の向上も明らかになっており、電動自転車に定期的に乗る高齢者は、そうでない高齢者と比べて処理速度が速く、正確さと意思決定スキルが向上していることが示されている。

こうした精神衛生に役立つ恩恵の中には、従来の自転車よりも、電動自転車の方が多く受けられるものもある。「地形や距離に制限されていると感じることなく新鮮な空気の中に出かけられるのは、自由の感覚をもたらしてくれます」とボーン氏は言う。

気楽で環境にやさしい電動自転車

そうした開放感は、通勤や通学をする人にとっても魅力的だ。

「電動自転車は、自転車に乗ることから"きつさ"を取り除いてくれます。つまり、自転車に乗る人の多くが嫌がる坂道や、ハードな負荷が必要な場面をなくしてくれるのです」とチェリー氏は言う。

また、電動自転車は従来の自転車よりもはるかに重いものを扱えるため、子どもの幼稚園への送り迎えや、食料品の買い物にも役立つ。

これらの要素はすべて、環境にとってもプラスになる。英オックスフォード大学の研究では、車に乗るのを1日1回分、自転車に替えるだけで、交通による個人の二酸化炭素排出量を67%も減らせることがわかっている。

初めての電動自転車はどう選ぶ?

電動自転車に興味がある人にフィーリ氏が勧めるのは、評判の良いメーカーから時間をかけて選ぶことと、電動自転車に乗った経験が豊富な人と話をして、あった方がいい、あるいはなくていい機能やオプションについて助言をもらうことだ。

また、電動自転車は重いせいで、ブレーキや走り出しに慣れが必要となるため、あまり急がず、ゆっくり乗り始めるのがいいだろう。

そして、電動自転車から体への恩恵を期待するのであれば、アシストレベルは低く保ち、「最大まで上げないようにしてください」とフィーリ氏は言う。

「電動自転車から健康上のメリットを最大限に引き出すいちばんの秘訣は、できるだけ頻繁に乗ることです」とリーセル氏は言う。「車をやめて電動自転車で通勤するのは、運動量を増やして自分の健康を、地域の大気汚染を減らして隣人の健康を、炭素排出を減らして地球の健康を改善することにつながります」

文=Daryl Austin/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年5月15日公開)

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