国立がん研究センターは16日、受動喫煙が肺の細胞の遺伝子を傷付け、がん化を促す仕組みを特定した。たばこの煙で肺に炎症が起き、遺伝子に変異を起こす特定のたんぱく質の働きが高まっていた。良性な腫瘍で作用して発がんリスクを高めるほか、治療薬への耐性など悪性化にも関与しているとみられる。

記者会見で説明する国立がん研究センターの河野隆志分野長㊧と片野田耕太部長(16日、東京都中央区)

他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙は肺がんの発症リスクを高める因子として知られるが、その詳細な仕組みはわかっていなかった。

同センター中央病院で手術を受けた女性の肺がん患者約400人を対象に受動喫煙歴と遺伝子変異の関連をゲノム解析で分析した。自分自身は喫煙しないものの10代や30代の頃に、継続的に受動喫煙の経験があったと回答した人は、非喫煙者に比べて遺伝子の変異数が約12%多かった。

遺伝子に傷を付けるたんぱく質「APOBEC」に特徴的な変異がゲノム全体で確認された。このたんぱく質は炎症によって細胞で作られるほか、がん治療の際に抗がん剤が効きづらくなるなど患者の予後を悪化させる因子として知られている。

一方で、肺がんのもととなる腫瘍形成に関わる遺伝子の変異には影響が見られなかった。受動喫煙は「すでにできた良性腫瘍でランダムな遺伝子変異を誘発させ、がん化と悪性化を促しているとみられる」(河野隆志分野長)という。

研究チームは男性にも同じ影響があるとみている。今後は解析する患者数を増やし、子どもや大人に与える影響の違いなどを調べる方針だ。東京医科歯科大学との共同研究で、成果をまとめた論文は国際医学誌に掲載された。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。