子育てと家族の介護が重なる「ダブルケア」を巡り、国民民主党は、政府による実態調査や的確な負担軽減策の実施を義務付けた支援推進法案を10日にも国会に提出する方針を決めた。超高齢社会や晩婚・晩産化を背景に広がるダブルケアは「社会全体で取り組むべき課題」と明記。子育てと介護で支援窓口が異なる「縦割り行政の壁」の解消を政府に促すとともに、国会審議を通じて国民的な議論につなげたい狙いがある。
毎日新聞は1月、子育てと介護に同時に直面する人が2017年時点で全国に29万3700人いることを報じた。国の「就業構造基本調査」から独自に分析した推計値で、30~40代の働く世代が9割を占め、担い手が女性に偏っていることも明らかになった。
高齢化で介護が必要な人口が増える中、晩婚・晩産化も重なって育児を終えたら介護という流れが崩れ、子育て中に介護を抱えるケースが広がっている。
内閣府は16年、同様の手法で25万3000人のダブルケアラーが12年時点で存在するとした初の推計値を公表。しかしこれ以降、国の詳細な分析はなく、実態を正確に追跡する全国調査が実施されたことはない。
法案はまず、体力面や精神面、経済面の負担と向き合うダブルケアラーへの的確な支援には詳細な実態の把握が不可欠だとして、政府による全国調査の定期的な実施と結果の公表を義務化している。
ダブルケアラーについて「日常生活や社会生活に支障が生ずることがないよう負担の軽減を図ることが喫緊の課題」と位置付けたうえで、国と地方自治体の責務として、子育てと介護の関係部局が緊密に連携しながら総合的に対策に取り組むことを求めた。
子育てと介護は行政の支援サービスが異なるため、双方の課題を一体的に解決する視点に欠けている。この行政の壁が結果的にダブルケアラーらを孤立させているとも指摘される。
また、ダブルケアを担うことで離職を迫られる人が少なくない。法案は担い手たちの実情に応じた休業制度の取得や柔軟な働き方の推進を規定。国や自治体に必要な制度の導入を呼びかける内容になっており、現代日本の縮図とされる社会的な課題に対する与野党の今後の対応が注目される。
国民民主の玉木雄一郎代表は2月、衆院の代表質問で「育児と介護は厚生労働省が担当していたが、育児がこども家庭庁に移管されて新たな縦割りが生まれている」と訴えた。【井手千夏、田中裕之】
専門家「国会議論で社会の理解を広めて」
ダブルケア研究を進める英ブリストル大の山下順子上級講師の話 ダブルケアラーがどんな生活に直面し、どんな支援が必要なのか。政府や国会は支援法案の審議を通じ、有効な支援や課題を巡る議論を深めてほしい。女性に負担が集中する現実について、男性のケア分担を支える制度創設の視点も踏まえて考えることが必要だ。ダブルケアの実態を中長期的にチェックする定期的な調査を明記したことも意義がある。都道府県別のデータが得られれば、地域の実情に合わせたきめ細かい支援につながる。法案提出をきっかけに、社会の理解と議論が広まることを期待したい。
ダブルケア
子育てと介護が重なる状況を指す。公式な定義はなく、研究者の間では広い意味として、家庭内で2人以上の介護などを抱えている状態にも使われる。この実態と課題を調査・研究している横浜国立大の相馬直子教授と英ブリストル大の山下順子上級講師が2012年に提唱した和製英語。大学生までの子どもを持つ30~59歳の男女1000人を対象に「ソニー生命」(東京)が実施した23年の調査によると、半数の人が経済的な負担を踏まえて家計に不安を抱えているほか、10人に1人は子育てと介護に追われていることを理由に仕事を辞める「ダブルケア離職」を経験していたことも明らかになった。
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