秋田県内では市街地でのクマの目撃情報やクマによる人身被害が後を断たない。
5月には鹿角市十和田大湯の山林でタケノコ採りに山に入った男性が遺体で見つかり、遺体を搬送しようとした警察官2人がクマに襲われて大けがをした。男性の遺体には、大型の動物にかまれたり引っかかれたりした傷があり、動物のものとみられる体毛が付いていた。
DNA鑑定などの結果、クマと特定できる情報は得られなかったものの、クマの生態に詳しい東京農業大学の山崎晃司教授は「男性はクマに襲われた可能性が高い」と分析する。
東京農業大学・山崎晃司教授:
「基本的にツキノワグマは防御的な攻撃。今回行方不明の人が亡くなったのも、見通しのきかない場所で、タケノコを採っている人とタケノコを食べているクマが出合ってしまい、突発的に攻撃が起こって行方不明の人が亡くなったと思う」
今回亡くなった人を襲ったのは、攻撃的なクマではなかったと考える山崎教授は、「今後そのクマが人を簡単に倒せると認識してしまうと、人を倒すために襲うクマになる可能性がある。今その点を県や鹿角市が注意しているのだと思う」とみている。
さらに山崎教授は、男性を襲ったとするクマと、警察官2人を襲ったクマは「同じ個体とは断定できない」とした上で、「おそらく遺体に何らかの理由で執着しているクマがいて、遺体を守るために近づいてきた。そして、遺体を搬送しているときに最後尾にいた警察官2人を襲ったということが考えられる」と分析する。
山菜採りは、この時期のレジャーの一つとも言えるが、山でクマとばったり出合ってしまうことはもちろん、人が集めた山菜を奪おうとしたり、積極的に人を襲ったりするクマがいる危険性は否定できない。
13日の鹿角市議会の一般質問で、関厚市長は「現地で根気強く入山禁止の呼びかけを行っていて、要請に応じない場合は鹿角警察署へ通報するなどして、入山を食い止めるように努めている」と話した。
鹿角市によると、被害の後も道路沿いに止まっている車が何台も見られた。タケノコ採りが目的とみられていて、このうち5台の車両については、立ち去るようにという要請に応じなかったため、市が警察に通報したという。
市は引き続き、現場周辺におりを設置するほか、入山禁止措置を11月30日まで継続する。
現在、鹿角市と仙北市、小坂町の5つのエリアは入山が禁止されている。また、万が一遭難してしまった場合、「地上からの捜索を原則しない」としている自治体もある。もはや「自己責任」では済まされない。絶対にルールは守ろう。
ところで、相次ぐクマの出没は、私たちが楽しめるように整備された観光地ももはや例外ではない。北秋田市の伊勢堂岱遺跡は、訪れる人が安全に見学できるように対策を強化し、クマが近づきにくい環境づくりをしている。
4つの環状列石を楽しむことができる伊勢堂岱遺跡は、2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一つとして国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録された。登録を追い風に、年間の来場者数が増えている。
一方で、周囲に森が広がる遺跡の敷地内では、2017年に市の職員がクマに襲われけがをした。
そこで、来場者の安全を確保するために電気柵が設置された。敷地を囲むように約1キロにわたって設けられてる。また、柵の周りの草は1カ月に2回刈り取られている。
それでも2023年は電気柵の外側でクマが目撃され、2024年は新たに動物用の監視カメラを2台設置した。動物を感知すると自動でシャッターが切られ、市の担当者に通知が届くシステムだ。
さらに遺跡周辺の木を伐採し、いわゆる「緩衝帯」を広げた。
2024年はこれまでに敷地内でクマは目撃されていないが、万が一クマが出没した場合は、来場者を速やかに建物の中に避難させるマニュアルを作成している。
北秋田市観光文化スポーツ部・榎本剛治係長:
「草刈りの頻度を増やしたり、カメラの台数を増やしたりして安心安全な環境の整備をしている。ぜび世界遺産の伊勢堂岱遺跡に来て、遺跡の価値を知ってもらいたい」
クマの出没の可能性がある場所では、電気柵や緩衝帯を広げることが効果的とされている。6月県議会では、緩衝帯の整備を盛り込んだ補正予算案が審議されているが、“いますぐに効く対策”は難しいのが現状だ。
「自分の命を守れるのは自分だけ」。それを肝に銘じて行動する必要がある。
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