紙製人工芝の敷かれたキッズスペース=東京都品川区のエコルとごしで

 プラスチック製の人工芝は、使用を続けると劣化が進むなどして細かい破片になり、河川や海に流れ込み環境を汚染する原因になっている。人工芝から出る5ミリ未満のプラスチック片「マイクロプラスチック(MP)」をどう減らすか、さまざまな取り組みが進んでいる。 (海老名徳馬)  鮮やかな緑色の芝の上で子どもたちが思い思いに遊ぶ。東京都品川区にある環境学習や交流のための施設「エコルとごし」は、屋内のキッズスペースに紙でできた人工芝を敷いている。  2歳の男児と9カ月の女児を連れて週に何度も訪れる女性(30)は「柔らかくて最初は紙だとは思わなかった。下の子がはいはいをしても安心」と喜ぶ。

◆「紙製」水にも強い

 マニラ麻という植物から作った紙を細かく切ってより合わせ、ゴムの土台に載せている。防炎性能があり、熱がこもりにくく水にも強いという。アパレル製品などに使う紙の糸を手がける王子ファイバー(東京)と親会社の国際紙パルプ商事(同)が販売する。  昨年7月に試験販売を始め、オフィスで採用された例も。強度などに課題があり、今は屋内での使用を想定。屋外で使える製品の開発も進めており、本年度中の発表を目指している。

◆充塡剤の飛散抑制

 人工芝の摩耗や、芝の間に敷き詰める充塡(じゅうてん)剤の飛散を抑えられるよう工夫した製品もある。スポーツ用品メーカーのミズノ(大阪)が手がける「MS CRAFT(エムエスクラフト)」は、一本一本の芝を縮れさせる加工を施した。

一本一本の芝がカールしている人工芝「MS CRAFT」と茶殻を配合した充塡剤(ミズノ提供)

 MPになり得る充塡剤が、カールした芝に覆われるため飛び散りにくく、雨が降っても流出しにくい。環境省の実証事業では、従来の真っすぐな芝に比べ、充塡剤の流出が新品で84%、摩耗後でも70%減った。  真っすぐな芝にはボールやスパイクからの力がそのまま伝わりやすいのに比べ、縮れた芝は力を吸収しやすく、ちぎれることも抑えられるという。プロ野球では5球団の本拠地で導入され、他競技でも広がる。  飲料メーカーと共同で、再利用した茶殻を配合した人工芝用の充塡剤も開発。色や材質の特性で芝の温度上昇が抑えられるという。サッカー場1面で使用した場合、ペットボトル(525ミリリットル入り)43万本分の茶殻を使うという。

◆雨天の排水に着目

 排水面を改良した仕組みも注目されている。道路標識などを手がけるアークノハラ(東京)が開発した人工芝用の排水材「NHドレーン」は、通水性を追求しながら、破断した芝や充塡剤が排水溝に流出するのを防ぐ機能を持つ。  従来の設備は、人工芝の下にローラーで固めた砕石層を設け、その下に排水材を設置。砕石層は水を通しにくいため、大雨で水があふれると、グラウンドの端にあるU字溝にMPが流れ込みやすかった。  NHドレーンは排水材を砕石層と同じ層に配置して水はけを良くした上で、グラウンドの端の排水溝もウレタンなどで覆った。環境省の実証事業では、1時間30ミリの雨で69%、150ミリだと93%抑制すると認められた。2022年に日本環境協会が表彰するエコマークアワード優秀賞を受賞。サッカー日本代表のトレーニング拠点、JFA夢フィールド(千葉市)などで採用されている。

◆河川などのMP 人工芝が最多

 ごみの流出などの環境問題に取り組む「ピリカ」(東京)が2020年度に全国120地点で実施した調査では、河川や海などに流出したMPのうち、人工芝が25・3%で最多だった。このうち、玄関マットやゴルフ練習場などからが83%を占め、サッカー場やテニスコートなどから出た芝が16%。国内では年間22トンの人工芝がMPとして流出していると算出された。


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