公立学校教員採用試験の志願者減少を受け、今年度実施の試験日程を昨年度よりも前倒しにした教育委員会が、全体の6割を占めたことが朝日新聞の調査でわかった。採用活動が早い民間企業に流れるのを防ごうと、文部科学省が6月16日を「標準日」として早期化の検討を求めていた。ただ、志願者数を明らかにした教委のうち前年度より増えていたのは約2割。専門家は、長時間労働の抑制など日程前倒し以外の施策の重要性を指摘する。

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 採用試験を実施する47都道府県と20政令指定市の教委、大阪府から教員人事権を移譲された豊能地区教職員人事協議会の計68機関に調査した。

 教員採用試験は従来、7月に筆記試験などの1次試験、8月に面接などの2次試験があり、9~10月に合格発表があるのが一般的だった。

 今回の試験で、1次試験の実施日を6月16日の標準日以前にしたのは大阪府や愛知県など36機関(うち16機関が標準日に実施)で、前倒ししたのは、うち33機関。7月中で早めた東北地方の7機関を含め計40機関(58・8%)が前倒しした。

「文科省から求められたため」33機関

 6月以前に実施したのは昨年度は2割余りだったが、今年度は6割近くに増えた。

 前倒しの理由について尋ねると、「文科省から求められたため」が33機関で最多。「民間企業の採用を得た学生が試験を受けずに就活を終えないようにする」が14機関と次に多かった。

 一方、7月実施の東京都や、以前から6月に実施していた北海道や鳥取県など計28機関は前倒しをしなかった。理由は「学生の教育実習と重なる可能性がある」が16機関で最多だった。

志願者、前年上回ったのは7機関のみ

 文科省が各教委に前倒しの検討を求めたのは昨年5月。民間企業の多くが5月以前に内定を出していることや、国家公務員の1次試験が3月、地方公務員も早期化していることなどを踏まえた。

 ただ、前倒しの効果は未知数だ。前倒しした40機関に今年度の志願者数を聞いたところ、集計が途中段階のところもあり単純比較はできないが、回答した36機関のうち現時点で志願者数が昨年度を上回ったのは7機関だった。前倒しを実施したある機関の担当者は「民間企業の内定より遅れている構図は変わらない。どんな効果があるかといわれると難しい」と話す。

 志願者数は回答した48機関のうち38機関が現時点で昨年度を下回っており、下落に歯止めのかからない地域は少なくなさそうだ。

 文科省は来年度実施の試験について、標準日を5月11日に早めてさらなる前倒しの検討を促している。来年度については多くが「未定」などとしたが、宮城県や長崎県など6機関が前倒しをする方向だと回答した。(植松佳香、狩野浩平、編集委員・氏岡真弓)

「実志願者増やしたかは疑問」

教員採用試験に詳しい前田麦穂・国学院大助教(教育社会学)の話

 文科省の前倒し要請で試験日がばらつき、受験生が複数の自治体を併願しやすくなったことで、全体の志願者数は増える可能性もある。ただ、合格後の採用辞退も増えるのでは。実志願者数を増やす効果があったかは疑問で、文科省は前倒しに効果があったのか検証するべきだ。志願者を増やす策としては、前倒しの効果は限定的だろう。まずは給与など待遇の向上や長時間労働の抑制を進めることが必要だ。

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