「おけいさん」と慕われる関西新劇界のベテラン俳優、河東(かとう)けいさん(98)。その代表作「母~多喜二の母~」がこの夏、新たな形でよみがえることになった。
三浦綾子の小説「母」をもとにした作品で、戦前に特高警察の拷問によって殺されたプロレタリア作家、小林多喜二の母セキの一人語りで物語は進む。
「ほれっ! 多喜二! もう一度立って見せねか! みんなのために、もう一度立って見せねか!」
ライフワークとなった「母」
多喜二の遺体と対面したセキが、全身から言葉を絞り出す場面。河東さんの鬼気迫る舞台は慟哭(どうこく)をさそい、「至芸」と評された。
河東さんのライフワークにもなった「母」は1993年、ふじたあさやさん(90)の脚本・演出で神戸市で初演された。一人芝居の形で再演を重ね、中国や韓国でも上演された。
体力的なこともあり、2015年には負担の少ない一人語りに切り替えた。語り口はさらに深みを増し、すごみを帯びて「公演のたびによくなっていた」とふじたさんはいう。だが23年12月を最後に上演は途切れていた。
今回、バトンを託されたのは「母」の演出助手を務めていた末永直美さん(66)だ。劇団しし座の出身で、「母」の舞台を稽古のときからそばで見つめてきた。中国公演にもスタッフとして参加した。
「末永さんは関西で抜群の読み手。少し一人芝居の形に戻しつつ、語りながら、思わず演じるという形を試みている」とふじたさんは話す。
計り知れないプレッシャーとともに
計り知れないプレッシャーのため、末永さんは出演の依頼があったときにすぐに返事ができなかったと明かす。「おけいさんが長年かけて作り上げてこられたすばらしい作品。その思いを引き継ぎつつ、また新たに自分なりに表現していかなければ。あらゆるプレッシャーはあるが、違うものをお見せしないといけない」と初演に挑む。
「母~多喜二の母~」は22日午後3時、23日午前11時、同午後2時から伊丹市のアイホール。前売り3千円。23日午後0時40分(予定)から、ふじたさんのアフタートークがある。問い合わせは神戸芝居カーニバル(090・1914・4907)へ。(谷辺晃子)
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