沖縄の酒といえばオリオンビールや泡盛を思い浮かべる方も多いが、いま沖縄ではワインの製造が行われている。目標は「世界に誇れるワイン」。

沖縄県産ワインを新たな観光資源にしようと、自家醸造に挑戦する夫婦を取材した。

亜熱帯でブドウが育つ!?

ワインを飲んだソムリエの感想
「酸味が非常にはっきりしているというところが印象的ですね」
「海の香りとかもあるので、お土産や県外から来た人とかと一緒に飲めたらいいなと」

ソムリエの方々が舌鼓を打つのは、恩納村で採れたブドウで作られた「沖縄県産ワイン」

この記事の画像(19枚)

中田浩司さん:
亜熱帯でブドウが育つ、ワインができるんだよというのは革命だと思いますね

沖縄からワイン界に革命を起こす夫婦に密着した。

恩納(おんな)村真栄田で宿泊施設を備えたレストラン「オーベルジュ」を営むシェフの中田浩司さん。

中田浩司さん:
地元のワインを自ら醸造したものをお客さんに飲んでもらう。それが目標だったのでやっと叶ったかなと

沖縄在来の野生ブドウ「リュウキュウガネブ」

県産のワインを開発しようと、2007年から妻の朋子さんと原料となるブドウの栽培を始めた。

中田朋子さん:
この粒々がブドウのタネになり、実になり大きくなっていくんですね

育てているのは、沖縄在来の野生ブドウ「リュウキュウガネブ」。

県外で栽培されているブドウの品種は亜熱帯の気候には適しておらず、「沖縄でワインを作るのは難しい」と考えられてきたが、中田さんは諦めなかった。

中田浩司さん:
沖縄でヨーロッパの品種を育てようとは思わない。ただ、沖縄に自生しているような原種のヤマブドウがあるならば、作るべきだと思ったのではじめました

リュウキュウガネブの栽培は、苦難の連続だった。

一般的なブドウと違いリュウキュウガネブは雄株と雌株が分かれていて、風や虫に花粉を運んでもらわないと受粉し、実をつける事ができないため、その分、農業の技術や経験が必要だった。

2人はリュウキュウガネブについて研究し、試行錯誤を繰り返しながら、徐々に収穫量を増やしていった。

中田浩司さん:
農家でもなく、あくまでも僕は料理人なので、わからないことばかりで手探りでやっていました

そして2013年、関東のワイナリーに醸造を委託し、少量だがリュウキュウガネブのワインを店で提供できるようになった。

その名も「涙(なだ)」。

うれしい涙に寄り添えるようにという気持ちを込め、「涙(なだ)そうそう」の歌のイメージの「涙」にしたという。

ソムリエの資格を持つ朋子さんは、チャンプルーやラフテーなどの沖縄料理にすごく相性が抜群だと話す。

「ワイン特区」へ恩納村も挑戦を後押し

夫婦のワイン造りを後押ししようと地元の恩納村は、国に果実酒の製造免許取得の規制緩和を求め、2023年に国から「ワイン特区」に認定された。

長浜善巳 恩納村長:
恩納村は観光リゾート村であるが、特産品がまだまだ少ないです。恩納村の特産品としてワインを製造できればと考えています

本来、製造免許の取得には年間6000リットルの量を作る必要があるが、特区に認定された事で、要件が3分の1の2000リットルに引き下げられ、小規模の事業者である中田さんも自家醸造が可能になった。

長浜恩納村長は、「ブドウの体験収穫が、ツーリズムにもできるんじゃないか」との考えを示している。

中田浩司さん:
新たなものを生み出せてよかったと思っているし、広がればいいと思っています

初めて自家醸造したワインをビン詰め

2024年4月、日本最南端のワイナリーでは2023年に収穫したリュウキュウガネブを使って、初めて自家醸造したワインがビン詰めされていた。

中田浩司さん:
感激ですね。自分でやっていて、本当にブドウってワインになるんだという実感できて楽しいですね

これまで夫婦2人だけでやってきたワイン造りに、強力な助っ人が加わった。

池原作務さん:
今日から入社、出勤初日ということになります

金武町出身の醸造家、池原作務(さむ)さん。

大学でワインについて学び、県外でブドウの栽培や醸造などに携わってきた。

池原作務さん:
もともとワイン醸造はしていたんですが、地元の沖縄でできると思っていなかったので、すごく貴重な機会に巡りあえたという感じですね

中田さんは池原さんのことを「何でも知っているのでありがたい。相談役です」と話す。

中田浩司さん:
ちょっと曲がっているかな

池原作務さん:
手作業の感じが出ていて、いんじゃないですか

中田朋子さん:
ブドウもそうですが縁起物のいい柄にして、ゴールドですので、めでたい席とかにみんなで飲んでもらえたらいいなと思います

中田浩司さんは、「沖縄にもワインができる」という一歩を示せた感慨深そうに挑戦を振り返った。

世界の観光客がすごいと言ってくれるワインを

2024年5月、那覇市内のホテルに緊張した中田さんがいた。

中田浩司さん:
みんなに飲んでもらうのは、ちょっと怖いものがありますね

この日は日本ソムリエ協会が主催するセミナーで、自家醸造した「涙」が初めて振舞われた。

日本ソムリエ協会 田崎真也 会長:
ポリフェノールは多いのですが苦みは非常に少なく、特に酸の広がり、酸の余韻を感じます。沖縄の食文化に新たに加わる県産のワインですので、ぜひ今後も楽しみにしております

ソムリエ協会の田崎会長からお墨付きをもらった中田さん。セミナー後は、次のステップへの助言もいただいた。

日本ソムリエ協会 田崎真也 会長:
アルコール度数をもっと高くしたほうが、リッチ感というか、より豊かな印象をアルコールによって与えておいて、そのあとに酸味が調和していったほうがバランスはいいですよという話をしました

中田浩司さん:
ブドウが持っている糖度が高くないとアルコール度数が高いものができないということなので、もっとクオリティーの高いブドウを作らないといけないなと

さらに中田さんは、まずはワインは作れたので、次はもっといいワインを作ろうという目標を掲げ、将来的には世界の観光客が「沖縄すごいね」と言ってくれるようなワインを作っていけたらいいなと語った。

今年の収穫に向け少しずつ色づき始めたリュウキュウガネブ。

世界に誇れるワインを目指し、中田さん達の挑戦は続く。

(沖縄テレビ)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。