マグロの幼魚がこの時期、市場を彩っている。カツオに交じって水揚げされることが多く、一般の消費者の手が届きやすい値段になると丸々1匹を販売するスーパーも。「マグロを1匹食べた」と見えを張ってみたくて、記者(41)が自宅での調理に挑戦した。 (藤原啓嗣)

和歌山産の3.4キロのダルマ

 手に入れたのは、3・4キロの和歌山産の「ダルマ」。メバチマグロの幼魚を、市場ではこう呼ぶ。幼魚といえども、家庭用のまな板の大きさでは収まらない。「さすがはマグロ」といったところか。マグロには、このほかクロマグロ、キハダマグロといった種類があり、それぞれの幼魚は「メジマグロ」「キメジ」と呼ばれる。地域によっては別の呼び名も。いずれも、成魚よりさっぱりした味わいで、市場関係者は「刺し身に向く」と勧める。  愛知、岐阜、三重の3県でスーパー22店舗を展開するタチヤ(名古屋市中区)の鮮魚売り場では、1匹約4キロのダルマを2千~3千円で販売することがある。常にあるわけではないが、担当者は「売り場で目立つし、味も良い。『尾頭付き』は外国人に人気だ」と話す。  記者は、三重県紀北町の拠点で勤務していた頃にカツオをさばいたことがある。その経験から、おろし方の基本はどの魚にも共通すると感じている。アジをさばくのと同じ要領で、胸びれの後ろからV字に切り込んで、頭を落とした。普段、自宅で使っている包丁を使った。太い中骨は、手の小指ほどの直径。関節にうまく刃を入れれば、強い力は必要ない。流れる血の量は多いが、さほど臭いは気にならなかった。  背びれ側から刃を入れ、三枚におろす要領で滑らせていく。刃が骨に触れる際の「ザリッ、ザリッ」という音が小気味よい。腹側の骨を骨抜きで取り除く時は、骨が大きくて目立つため作業しやすかった。  ただ、脂で手がつるつると滑り、皮を引くのには一苦労。崩れた身が包丁にまとわりつく。わずかの身も無駄にしまいと、包丁に付いた身を口に入れると、うまみが広がった。  柵に分けてしまえば、身は切りやすかった。大皿1枚分の刺し身を作っても使い切れず、中学生2人を含む4人家族の2日分に十分な食材になった。中骨に付いた身はスプーンでこそげて、塩こしょうして唐揚げにした。  やりがいがあったのは頭の調理だった。そのままでは魚焼き用のグリルに入らない。前歯の間に包丁を当て、押したり引いたりしながら刃を入れていくとぱかっと半分に割れた。塩をし、グリルの魚の丸焼きメニューを選び、15分ほど焼くと香ばしい香りが漂った。

ダルマをさばいて出来上がった料理。手前から反時計回りにかぶと焼き、刺し身、ステーキ、唐揚げ

 夜の食卓には、刺し身やかぶと焼き、唐揚げ、ステーキが並んだ。初めての調理で不安もあったが、食べ応えがあったのはやはり頭。かまや頰、鼻など箸でほじる部位が多く、宝探しをしているような気分になる。味わったことのない部位を頰張る喜びで、「ジューシー」「肉肉しい」と口数も多くなった。  幼魚とはいえ、1匹さばくと2日間、昼、夜とたらふく食べられた。初日に残った刺し身は、しょうゆやみりん、酒を混ぜた調味液に漬けた。翌日、漬け丼で味わうと、ねっとりした食感で飽きることはなかった。  鮮魚売り場でマグロの幼魚を見かけたら、さばいてみてはいかがですか。ひと味違った食卓が楽しめるはずです。


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