神戸市や兵庫県西宮市の有料老人ホームで「ヤングケアラー」の若者たちがアルバイトとして働いている。施設を運営する「チャーム・ケア・コーポレーション」(大阪市)が神戸市と連携して取り組む就労支援で、家族の世話や家事に追われ、就労が難しかった当事者が柔軟に働けるように対応。日常のケアから少し離れ、自身の将来を考える機会にしてもらう狙いもある。【山本真也】
関西や関東などで88の高齢者施設を展開する同社では、2021年に社員有志によるヤングケアラー支援チームができた。メンバーはリーダーの河端久徳さん(47)ら7人。当事者や元ケアラーの集まりに参加し、どんな支援が必要なのか聞き取った。その結果を踏まえ、一般就労に備えた訓練として可能な日、時間にアルバイトとして働いてもらう「中間的就労」という支援スキームをつくった。当事者の多くは18歳以上になっても就労経験がほとんどなく、どんな仕事に就きたいかなど将来を考える余裕がない状況に置かれていたためだ。
22年、ヤングケアラーの相談窓口がある神戸市に支援の用意があることを申し出て、希望者を募った。18歳以上の3人が手を挙げ、23年から働いている。
勤務は週1~4日で、仕事内容は入居者の部屋の清掃や洗濯、食器洗いなど。施設側は、職場を自宅以外の居場所にする▽規則正しい生活習慣を身に付ける▽人と接する機会をつくる――を基本方針に対応している。職員がペアを組んでアドバイスできるようにし、休みが続くなど気になることがあれば、河端さんが訪問や電話で状況を確認し、市と情報共有をする。一般のパート職員と同じ時給を支払っている。
3人は働く中で少しずつ変わってきているという。最初は下ばかり向いて口数が少なかった若者が自然にお年寄りにあいさつできるようになったり、休憩時間に職員と談笑するようになったりしている。
一方で河端さんが気になったのは、自己肯定感の低さだった。経済的な困窮や家庭の事情で進学を諦めたり、仕事が続けられなかったりした経験が原因になっているとみられる。施設で働いていると、お年寄りから「ありがとう」と感謝されることがよくある。河端さんは「仕事から自分が誰かの役に立っているということを実感してほしい」と言う。
神戸市は21年6月、全国に先駆けてヤングケアラーの相談窓口を設置。24年2月末までに191件の相談が寄せられ、必要に応じてヘルパーを派遣するなど福祉制度と結びつける支援を進めてきた。
ただ就労に関しては、当事者が抱えている事情を承知で受け入れてくれる企業はほとんどなく、有効な手立てがないのが実情だ。市は3月にチャーム・ケアと連携協定を締結し、協力態勢を強化していく方針で、担当者は「後に続く企業が出てきてくれれば」と期待する。
同社は、正社員になることを条件に大学時の奨学金を代わって返還するなど、他の支援スキームも用意している。河端さんは「今はまだ仕事の体験という要素が大きいが『どういう大人になりたいのか』『それに向けて何をしていったらいいのか』といずれは将来について考えてもらう時期が来る」と話す。
同社では今春から新たに神戸市から紹介を受けた当事者1人がアルバイトを始め、もう1人も近く働き始める予定だ。
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