6月14日午前、世界最大級の紳士服展示会「ピッティ・ウオモ」の取材を終え、フィレンツェからミラノに特急列車で移動した。所要時間はキッチリ2時間だ。

 ホテルに荷物を放り込んでまず向かったのは、中心部で開催されているモンブランの会場だった。

モンブラン

 万年筆をはじめとする筆記用具の定番ブランドとして、歴史ある時計工房を抱えるウォッチメーカーとして、そして有望なディレクターが率いるレザーグッズのメゾンとして。様々な顔を持つモンブラン。腕時計については4月にジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダーズで新作を発表しており、今回のメインは筆記用具と革小物やバッグだった。

モンブラン=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

 2021年にアーティスティック・ディレクターに就任したマルコ・トマセッタが手がけるバッグなどは洗練されたイメージが加速している。レザーにバイアスの幾何学的な型押し模様が入った「エクストリーム」という柄はヒットシリーズで、傷がつきにくいうえに、傷がついたとしても目立たないのが強み。ボストンや肩掛けで新色のカシスカラーなどが発表されたが、PR担当者は「バックパックは特に人気商品」だという。

モンブランのバックパック

モスキーノ

 その後はミラノ市街東部で開催されたモスキーノのショーに。今年1月にクリエーティブ・ディレクターに就任したアードリアン・アピオラッザはクロエやロエベ、ミュウミュウやルイ・ヴィトンといった大手ブランドのデザインチームに在籍してきた業界のベテランだ。今回は会期中にUEFA欧州選手権が開催されるとあってサッカーを意識した服のほか、シャツの襟回りを様々な部位につけたトップスなど派手なショーピースを見せながら、定番として使えるデニムなどを織り交ぜる巧みさを感じた。

モスキーノ=2024年6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影
モスキーノ=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

セッチュウ

 その後は、再びモンブランの展示会場近くで開催されるセッチュウのプレゼンテーションへ。若手デザイナーの国際的登竜門であるLVMHプライズの昨年の覇者で注目のブランドだ。デザイナーの桑田悟史は、セレクトショップ・ビームスの販売員→英国の名門セントラル・セントマーチンズ美術大→サヴィルローの老舗テーラー・ハンツマン→カニエ・ウェストの元でデザインスタッフ→ジバンシィのデザインチームなど様々な経験を積んできており、その服には尋常ではないほどの強いこだわりが詰まっている。

セッチュウ=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

 ミラノの市街地に拠点を構え、イタリア産のウールやカシミヤ、シルクなど超ハイブランドしか使わないような高品質の素材にこだわる。一方で、自身はパリでの展示会では「ホテル代がもったいない」と1時間かけて友人宅から会場に通う。ブランド関係者は「少しお金が出来ても、そのまますぐに『さらに上質な服』をつくるための投資に回している」と明かす。

セッチュウ=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

 独特なプリーツが施されてたたむこともできる「オリガミ」のシリーズは毎シーズン生地違いで新作を発表するが、基本的に形は変わらない。これは桑田が「エルメスのバーキンのように、上質かつ究極の定番として着てもらえるようにしたいから」という方針だからだ。着て美しく、触って心地よく、たたまれた服にも雰囲気を感じる。

セッチュウのデザイナー・桑田悟史は会場で各国から訪れたバイヤーやメディア関係者からひっきりなしに声をかけられていた=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

ブルネロ・クチネリ再び

 セッチュウの会場をあとにすると、ブルネロ・クチネリの展示会場へ。ブルネロの新作はフィレンツェのピッティ・ウオモでも展示されるが、その後ミラノでも基本的に同じ新作が陳列される。ピッティのブースと違い、ミラノでは歴史ある建物の中で更に高級感がある。

ブルネロ・クチネリ=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

 ちょうどファッション専門メディア「WWDジャパン」のメンズファッションウィーク取材チーム3人衆と会場で顔を合わせた。大塚千践(かずふみ)副編集長は東京から。朝日新聞のファッション面「エアメール」の筆者としても加わってくれた藪野淳さんはベルリンから。そしてパリ在住の井上エリさんという布陣で毎日のようにリポートを執筆しており、3人とも大阪出身のため“浪速トリオ”として業界内で浸透している(ちなみに、この写真を撮影した私も大阪出身でございます)。

全員が大阪出身のWWD「浪速トリオ」。左から井上エリさん、大塚副編集長、藪野淳さん=6月14日、ミラノ、(大阪出身の)後藤洋平撮影

 この日最後の取材は、中心部の劇場で開催されたディースクエアードのショーだった。鍛え上げられた男性たちのダンスに始まり、プリンスのヒット曲「クリーム」に合わせてセンシュアルな装いの男女がランウェーに見立てられたステージから客席通路を闊歩する。肌を露出させるデザインを得意なブランドなので、ディースクエアードのショーに行くたびに「私も勇気を持って……」と考えている(なかなか実際の行動には移せないけれど)。

ディースクエアード=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

 ショーのフィナーレに流れたのはドナ・サマーの「アイ・フィール・ラブ」。このダンスミュージックの名曲は多くのファッションデザイナーやショー演出家が好むようで、欧州のファッションウィークを取材するにあたって耳にしないシーズンがないほど。1970年代の曲が、新しい服の発表の場で使われ続けているのは不思議でもあるが、アンダーワールドの「ボーン・スリッピー」(96年)も「ここぞ!」のショーではかかるので、新たな服を見せるにあたっては「耳になじんだ曲」のほうが人の心に効果的に刺さるのかもしれない、とも感じている。(編集委員・後藤洋平)

ディースクエアード=6月14日、ミラノ、後藤洋平撮影

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